函館ワンニャン物語 ④ ~シンバ~
◆S動物病院
先生「これはひどい。何てことを。」
犬の様子を見ながら、すばやく治療に取り掛かる。
代表「先生、どうなんでしょう。」
治療の様子を見ながら、震える声で尋ねる。
先生「傷口に細菌が入り込んでいるので、化膿する可能
性があります。体もかなり弱っています。それと
フィラリア症で、内科的にも無理ができない状態
ですね。」
代表「S先生、助かりますか。」
先生「少し厳しいかもしれません。」
レスキューメンバーが見守る中、静かに治療が続く
ここにいる全員が、名も知らぬこの犬の命が、助か
ることを心から祈っている。
◆アニマルレスキュー犬舎
首にロープを巻きつけられ保護された犬(シンバ)
が、静かに眠っている。代表とメンバーがその様子
を、優しく見守っている。
代表「よかった。元気になったね。」
ナレーターにより次の記事が詠まれる。
(「北海道新聞」より)
≪ 地道に動物の保護活動を続ける函館アニマルレス
キューの取り組みに感動を覚え幾度となく取材に通
った。
中でも今年7月末、首をロープでぐるぐる巻きにさ
れた犬の取材が強く印象に残っている。
この犬が保護された直後、市内の動物病院で診ても
らうために順番待ちをしているところに駆け付けた
犬は傷口からウジがわき、悪臭を放っていたため、
メンバーの車の中で待機していた。
血をにじませてうずくまっている犬の姿を見た瞬
間、涙が込み上げた。
すぐにデスクに連絡し、紙面を開けてもらった。
この犬は獣医師の懸命な治療で命をつなぎ止め順調
に回復。
「シンバ」と名付けられ9月に退院することができ
た。
人を怖がるなどの特殊な事情から、同団体が引き続
き世話をしている。
シンバは人への恐怖が抜ききれないのか、その後の
取材で足を運ぶ自分にも低いうなり声をあげる。
しかし、その横で餌を与えているメンバーには心を
開き、尾をぶんぶん振って甘えている。
人間の愛情を知り、心を開き始めた姿にうれしさと
切なさを感じる。
幸せになってほしい」 ≫
◆
函館市総合福祉センター(譲渡会)
アニマルレスキューで保護している犬と猫の譲渡会
が函館保健所と協力して開催される。
洋一も聖子と一緒に、自分たちで保護し育てていた
子猫5匹を連れ、ボランティアに参加する。
洋一「代表さん、今日一日よろしくお願いします。今日
は家のやつも一緒に来ました。お世話になりま
す。」
聖子「よろしく、お願いします。」
二人で、代表に向かいお辞儀をする。
代表「こちらこそ、お世話になります。よろしく、お願
いします。」
洋一と聖子も、集まったレスキューのメンバーと一
緒に、慌ただしく準備に取り掛かる。
やがて、譲渡会が始まる。
洋一が連れてきた子猫5匹はすべて新しい飼い主に
引き取られていく。
◆自家用車内(宅途中)
後部座席に、空になった子猫を入れてきたゲージが
ある。
二人に会話はない。
聖子はぼんやりと外を見ている。
頬に涙が伝わる。
洋一「辛いよな。わかっているつもりなんだけど・・・
。」
聖子は何も言わない。
洋一「何だろう。この寂しさは。二か月しか一緒にいな
かったけど・・・。もらわれて行った家でかわい
がられ、幸せになってくれることを信じるしかな
いよな。」
聖子「もし、かわいそうな飼い方をしているのなら、取
り返してくる。」
その言葉を耳にした洋一は強くうなづき、確かめる
ように言う。
洋一「何日か経ったら、様子を見に行こう。もしその時
この人の飼い方はダメだと思ったら、二人で取り
返してこよう。家より幸せに飼ってもらえないな
ら、取り返してくればいい。」
いつのまにか、洋一の目にも涙があふれている。
(「函館ワンニャン物語 ⑤」へ続く・・・)