前回のエントリーで大体以下のようなことを書きました。
 
- トランプ大統領は選挙という観点から日米通商交渉を見る。今後、その傾向は強まる。
- これまで共和党が勝ってきたテキサスが取れなくなったらもう終わり。しかし、現時点でテキサスは激戦区の見通し。
- なので、テキサスに関連する物品で強烈に押し込んでくるはず。防衛装備品や牛肉。
 
 折角なので、全米に目を広げてみたいと思います。以下のデータを見てください。2016年大統領選挙で激戦区だった州です。カッコ内は勝った候補、人数は選挙人の数です。
 
【2016年大統領選挙で差が1%以下だった州】
ミシガン(トランプ、16人)
ニュー・ハンプシャー(クリントン、4人)
ペンシルヴァニア(トランプ、20人)
ウィスコンシン(トランプ、10人)
 
【2016年大統領選挙で差が1-5%だった州】
フロリダ(トランプ、29人)
ミネソタ(クリントン、10人)
ネバダ(クリントン、6人)
メイン全州区(クリントン、2人)
アリゾナ(トランプ、11人)
ノース・カロライナ(トランプ、15人)
コロラド(クリントン、9人)
 
【2016年大統領選挙で差が5-10%だった州】
ジョージア(トランプ、16人)
バージニア(クリントン、13人)
オハイオ(トランプ、18人)
ニューメキシコ(クリントン、5人)
テキサス(トランプ、36人)
アイオワ(トランプ、6人)
 
 選挙という観点からは、トランプ大統領にとっても、民主党の候補にとってもこれらの州が最も重要になります。少し極端に言うと、これら以外の州は基本的にはもう眼中にないとすら言えるでしょう。例えば、(必ず民主党が勝つ)カリフォルニアやハワイでどんなに大統領選挙を頑張ってもエネルギーの無駄なのです。
 
 趣味的に備忘録として、もう少し付け加えておきます。
 
【2012年ロムニー候補よりも2016年トランプ候補の方が民主党候補との差を縮められた州(つまり、トレンドが「下げ」だった州)】
テキサス、ジョージア、アリゾナ
 
 基本的に、2016年大統領選挙は大半の州でトランプ候補が2012年のロムニー候補よりも伸ばしています。その中、勝ったとはいうものの下げのトレンドを示したこの3州はとても気になるでしょう。ちなみに3州とも名前を聞くだけで、「ああ、共和党の強い州だよね」と判断するような州です。そして、先日、バイデン前副大統領は(自分が民主党候補になったら)テキサス、フロリダ、ジョージア、ノースカロライナ、サウスカロライナあたりを焦点にすると言っていました。民主党候補が誰であっても同じ判断をするでしょう。
 
【2012年ロムニー候補は負けたが2016年トランプ候補が勝った州】
アイオワ、オハイオ、フロリダ、ウィスコンシン、ペンシルヴァニア、ミシガン
 
 トランプ大統領はこれらの州を一つでも落としたら終わりです。しかも、アイオワを除けばすべて選挙人が2桁の州です。前回も書きましたが、選挙人10人の州を落とすと20人分ひっくり返されるので、選挙人全体が535人の中で致命的なダメージです。
 
 ミシガン、ペンシルヴァニア、ウィスコンシン、オハイオあたりは「ラスト・ベルト(錆びたベルト)」と言われる地域で製造業、重工業の集まる地域です。この地域は保護主義を求める傾向が強いです。そして、上記のリストには結構防衛産業が盛んな地域が含まれます。農業との関係では畜産の強い州の中が上記のリストには多い印象があります。そうすると、保護主義を採りつつ、防衛装備品を売る、畜産の個別利益は交渉で取って来る、この今のやり方が一番選挙にプラスになるはずです。

 トランプ大統領の手法をあまりバカにしない方がいいでしょう。選挙をきちんと見据えてやっているのです。私が外務省に居た時はあまり大統領選挙や連邦議会議員選挙と通商交渉の関係を分析する事はありませんでしたが、近年はさすがにやっていると思います。 「(上記の)激戦州の利益を露骨に押し込んでくる」と踏んで、その州の特産品をよく調べた上で、日本にどう出てくるかという傾向と対策を練る事が必要でしょうね。