少し前に「日米通商交渉あれこれ」という事で書いた際、「牛肉生産州よりも豚肉生産州の方が激戦区ではないか。」と書きました。ただ、昨今の調査を見ていると、牛肉の大生産地テキサス州は激戦州になりそうですね。読みが間違っていました。お詫びします。

 

 バイデン前副大統領とトランプ大統領で今、戦えば、バイデン前副大統領の方がテキサスで優位だと出ています。アメリカの大統領選挙で選挙人が極めて多いのはカリフォルニア(55人)、テキサス(38人)でして、近年はカリフォルニアが民主党、テキサスが共和党の金城湯池となっています。大統領選挙で最後に共和党候補がテキサスで落としたのは、1976年のフォード大統領です(勝ったのはカーター候補)。それ以降、クリントン大統領、オバマ大統領もテキサスでは負けています。

 

 ただ、トランプ大統領のテキサスにおけるトレンドはたしかに「下げ」なんです。2012年のロムニー候補(共和党)がオバマ大統領(民主党)に付けた差は16%でしたが、2016年のトランプ候補(共和党)がクリントン候補に付けた差は9%とかなり詰められています。

 

 選挙をやっていれば分かるのですが、535人の選挙人を競う選挙で38人の州を落とすという事は、自分が38人減らして、相手が38人増えるという事ですから、76人分ひっくり返されるという事になります。それでは共和党候補は絶対に勝てません。近年の大半の大統領選挙では、カリフォルニアは民主党、テキサスは共和党、ここはある意味当然視しながら進んできたものです。

 

 このテキサス州が激戦になるというのはトランプ大統領からすると背筋がゾッとするでしょう。

 

 テキサスと一括りにしますが、南北や都市部と農村部で選挙スコアは全く異なります。南部と都市部(ダラス、ヒューストン、サン・アントニオ)は民主党が強いです。逆に北部や農村地域は共和党が強いです。共和党が強い地域については、テリー・ファンクやスタン・ハンセンをイメージしていただければ宜しいかと。ファンク兄弟の本拠地アマリロは共和党が極めて強いです。

 

 これは日本との通商交渉に影響します。日本との関係では牛肉や防衛装備品が大きいでしょう。テキサスはアメリカ最大の牛肉の生産地です。そして、日本が大量購入するというF-35の最終組み立てはダラス郊外のフォートワースです。ここに利益をもたらすため、日本との通商交渉で更に強く押してくるでしょう。前回も書きましたが、現在のTPP11での16年後の関税率は9%。日本は「今、合意したら、本来はアメリカ産牛肉の関税削減はTPP11諸国に対するものよりも遅れるけど、特別に、先行するTPP11と同じ内容で関税を下げてあげる。」という話をしているようですが、尻に火が点いたトランプ大統領がその程度で応じるようには思えません。

 

 その他、前回僅差でトランプ大統領が勝ったウィスコンシン(10人)、ペンシルヴァニア(20人)、ミシガン(16人)、アリゾナ(11人)あたりでも、現在は劣勢のようです(カッコ内は選挙人数)。たった10人だと思うかもしれませんが、上記のように20人分ひっくり返されるのです。選挙人総数が535ですから4%弱引っくり返される事になります。選挙で一気に4%も差を詰められる事がどれくらいの事かは私にはよく分かります。

 

 上記の激戦州の大半が集中する中西部との関係では、ここまでは保護主義が好評を博していましたが、所詮保護主義は後ろ向きの政策ですから次第に飽きられます。何かプラスの成果を求めてくるでしょう。日本との関係では「車買え」か「工場進出しろ」、どちらかだと思います。1990年代の日米自動車協議で橋本通産相はカンター通商代表の無理押しに毅然と抵抗しましたが、最後は業界自主行動計画みたいなもので収めました。政府としては数量目標には応じないけど、日本の自動車業界が自主的に対アメリカで購入計画や投資の計画を作るのは与り知らないという結末でした。そういう事をも求めて来るかもしれませんし、もう求めているような気もします。

 

 大半の州では、1票でも勝てば選挙人は総取りです。トランプ大統領からすると「1票差でいいから勝ちに行く」という発想でしょう。であれば、日本との通商交渉でも何でも使ってムチャクチャやってきそうな予感です。日本の交渉団には頑張ってほしいと思います。