前回書いた「ある政令指定都市から見た統一地方選」を踏まえて、今話題の「大阪都構想」について書きたいと思います。出来るだけ公平な視点から書きたいと思います。なお、上記のリンクでの知識をある程度ベースにしています。

 

 何故、あのような都構想が出てくるかというと、簡単に言えば「大阪市が強い上に、デカくて細分化されている」からです。

 

① 強い:勿論、政令指定都市ですので強いです。大阪府とほぼ対等です。逆に大阪府から府全体を俯瞰した政策を打ちたくても、大阪市は自分達の言う事を聞かない、という事情があります。恐らく橋下さんが府知事になる時、「自分はキタ、ミナミ、御堂筋・・・をこんな風にしたい」と思っていたら、自分に全然権限がない事に気付いたのが原体験でしょう。

 

② デカくて細分化:面積ではなく、人口ではかなりのデカさです。しかも、大阪市は行政区が24もあります。大阪市ではこれをきめ細かく見切れないという判断が構想の背景におありなのだと思います。北九州や福岡では7つしかない行政区が24もあれば、大阪市長も大変でしょう。しかも、区長は公選職ではないので、強い権限を持って率いていく事が難しいというのも問題意識にあるはずです。

 

 なので、大阪市を解体して、幾つかの区に再編してそれらの区に公選色の区長を置き、全体を大阪府が統括するという事を考えたのだと思います。私は上記の問題意識がすべて間違っているとは思いません。傾聴に値する指摘がたくさんあります。

 

 一方、「大阪市が強過ぎて、大阪府が府全体を俯瞰した政策をやる事の障害となっている。」というのは、究極の所、制度論というよりも属人的な要素が強いです。今、松井知事と吉村市長が良好な関係でやっているのであれば、実はその部分の問題はかなりの解決を見ていると言ってもいいでしょう。飯島内閣官房参与が、知事と市長が良好にやっている事で実は都構想が課題とする事のかなりの部分は解決しているとコラムに書いていました。同感です。あとは副知事―副市長、局長間での風通しの良さを追求していけばいいのだと思います。

 そして、大阪市にどんどん権限を下ろしていき、どうしても広域でやらなくてはならないものだけを大阪府に残すという「補完性の原則」からすると、都構想はその逆を向く事になります(真逆とまでは言いませんが、150度くらいは逆です。)。

 

 よく考えてみましょう。大阪市を解体した上で再編される区が東京都の区と同じくらいの権限だと仮定すると、それは一般市町村以下の権限しかありません。今、(県並みの権限を持つ)北九州市と同じくらいの人口である世田谷区の持つ権限は一般市町村より少ないです。例えば、今、世田谷区の固定資産税は一旦すべて東京都に持っていかれており、保坂世田谷区長はこれを何とかしたいともがいておられます。

 つまり、都構想によって何が起きるかと言うと、以下のようになります。

 

① 再編された区は今の行政区よりも大きくなり、かつ公選区長の下で遥かに強い存在になる。

② ただし、その再編された区が持つ権限、事務は、一般の市町村よりも少ない。

③ ましてや、今、大阪市が持っている権限、事務の内、政令指定都市である事によって有している権限、事務は当然無くなる。

④ ②と③によって、大阪市が失う権限、事務はすべて大阪府に吸収される。

 

 論理的に言うと、こうなるはずなのです。大阪市(都構想成立後は大阪市に相当する地域)の方々は、多くの権限、事務を大阪府にお戻しする事になるはずです。たしかに「再編された区は今の行政区よりは強い」ですが、大阪市全体で見た時には「今の大阪市よりは弱い」という事になり、その弱くなった部分は「大阪府が補う」という形になります。基礎自治体の強化という方向性とは逆を向いていないかなと思います。

 

 大阪府に多くの権限をお戻しするような選択肢は大阪市民は望まないでしょう。やはり、大阪市にどんどん権限を下ろしていき、どうしても広域でやらなくてはならないものだけを大阪府に残すという方が良いように思います。

 

 「そんな事を言っても、24にも区が分かれていて大阪市ではきめ細かくやれない。」、この理屈はとてもよく分かります。ただ、それは大阪市内の行政改革の問題だと思います。区の再編は大阪都構想をやらなくても、もっと落ち着いた環境でもやれるはずです。

 

 「仮に区の再編をしたとしても、今の行政区の仕組みでは権限が弱すぎる。」、これが最後に残るテーマです。ここについてはたしかに私は良い解がありません。ただ、大阪市が自律的に区の再編を行い、区の規模が大きくなれば、そういう課題も若干は解決するのではないかなと(ここは希望的観測で)言っておきます。ちなみに行政区が7つの北九州市では、「区長の権限が弱いから問題だ。」とか、「きめ細かい行政がやれていない。」という声はありません。

 

 最後の最後は「大阪が強い大阪になればいい。」という事でしょう。今、議論になっているのはその方法論です。橋下さんは「都構想が100%ベストなんてことは無い。」と言っていました。「政治とは選択のアート」であり、橋下さんのその姿勢はとても誠実だと思います。そして、都構想のメリットは当然存在し、傾聴に値する部分がたくさんあるのですが、総合的に考えて、私は「基礎自治体である大阪市への権限移譲」のベクトルを向く方がいいと思います。大阪都構想は意図するか否かに関わらず、結果としては「大阪府の強化」になります。私は今、必要なのは「大阪市の強化」だと思うのです。