アメリカのトランプ大統領が、北朝鮮のミサイル発射で日本が迎撃措置を講じなかった事に不満を述べています。色々な捉え方があるようですが、私は法的な論点からこの指摘について納得する所があります。

 

 もう一度、今のミサイル迎撃についての考え方を纏めると、以下の様になります。

 

① 防衛出動:これは個別的自衛権行使の世界です。防衛出動が下令されているケースでは、日本に落ちてくる可能性のあるものへの迎撃は当然です。

② 破壊措置命令によるもの:これは自衛隊法第82条の3に規定があります。防衛出動が発令されていない時点での破壊措置命令です。なお、この規定は累次国会答弁で「警察権の行使」と位置づけられています。いつも誤解されるのですが、「警察権」というと警察庁が対応するかのような誤解を与えますが違います。

 

(弾道ミサイル等に対する破壊措置)

第八二条の三 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。

 

③ 存立危機事態:これは自衛権行使の世界です。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」ならば迎撃措置が取れるというものです。

 

 この3つが現在考え得る措置でしょう。今回、指摘されているのは、どれにも当てはまらない事態です。何故なら「我が国に飛来するおそれ」が無いものだからです。政府は「存立危機事態に当てはまるならば迎撃する。」という言い方をしていますが、これは③でして、あくまでも「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」でなくてはなりません。正直なところ、相当に限界的な事例だと思います。

 

 今、日本に欠けているのは、「日本に落ちて来るかどうか、アメリカの領土・領空を脅かすかどうかに関わらず、日本の上空を飛んでいくミサイルを見逃していいのか。」という視点です。

 

 私は以前、このようなブログを書きました。集団的自衛権の行使に否定的なトーンで書いているのでどうも誤解があるようですが、日本の上空を飛んでいるミサイルを、その飛んでいる事実そのものを問題視して迎撃出来るような法制度を考えるべきという事です。それは個別的、集団的自衛権とは別の世界です。

 

 無理をして集団的自衛権に引っ掛けようとすると、「それがアメリカへの攻撃なのか?」、「それによって日本の存立が脅かされるのか」といった判断が間に入ってくるので本当に無理が出ます。そもそも論として、自国の上空を飛んでいるミサイルについて、それを迎撃するかどうかの判断基準が「他国に落ちるかどうか」である事自体がおかしいという事です。そんな発想を持っている国は世界で日本だけです。

 

 なので、私は「警察権行使」の一環として、自国の上空を飛んでいる事自体を問題視して迎撃出来るような法制度を作っておくのは現実的だと思うのです(何度も言いますが、警察権行使と警察庁とは別物です。)。勿論、主権が及ばない宇宙空間における迎撃がどうなのか、技術的に可能なのかという問題はあります。なお、上記の自衛隊法82条の3で行う迎撃は「領空」とはなっていません。「上空」です。私は宇宙関係の法律審議の際、上空の定義について質問しましたが、はっきりとは定義していませんでした。同条では、日本に落ちてくるのであれば、宇宙空間での迎撃を想定していると見ていいでしょう。映像はココです(なかなか面白いやり取りをしていると思います。)。

 

 そう考えると、日本に落ちてくる可能性の無いミサイルであろうとも、我が国の上空を飛んでいく以上、少なくとも法制度上は迎撃措置が可能であるように整えておくのは、そこまでトリッキーなものではないと思います。集団的自衛権に引っ掛けようとするのに限界があり、かつ、法制度の隙間がある以上は、そういう検討は必要です。

 

 トランプ大統領の指摘は「上記の①~③の選択肢では隙間があるだろ?」と言い換える事が出来ます。単なる威勢のいい放談と片付けるのではなく、真面目に考えておくべき問題です。