玉木衆議院議員が、とても良い訪米報告を書いていました(ココ )。オバマ訪日について、私も似たような感想を持っています。是非、是非読んでいただきたいと思います。


 まず、「尖閣諸島は日米安保第5条の対象」ということをオバマ大統領が明言したことで喜んでいる人がいますが、オバマ大統領は記者会見で「この立場は別に新しくもなんともない。昔から言っていること。」と言っています。それが大統領から表明されたことの意義は否定しませんけど、実態的にはnothing newだと思うのです。


 ここで考えなくてはならないのは、施政下という時に使われる「(under the) administration (of)」という言葉と、主権を意味する「sovereignty」という言葉を、アメリカは明確に分けて使っているということです。アメリカはこれまでも「尖閣は日本の施政下にある」、「尖閣の主権の問題には立ち入らない」ということを繰り返し言っています。ここが理解の混乱の原因です。多くの方はちょっとピンと来ないのではないでしょうか。


 意地の悪い(しかし、多分真実の)見方をすれば、「日本の領土であるかどうか、それにはアメリカは立ち入らないよ。日本によってadministerされなくなれば、日米安保条約の対象ではないよ。」と言っているのでしょう。このadministrationとsovereigntyの違いを突く報道が殆どないのは、とても不思議です。


 しかも、日米安全保障条約第5条をよく見てみましょう。何処にも「日本の施政下にある領土が襲われたら、アメリカは自動的に救いに来ますよ。」なんてことは書いていません。私も時折、この第5条は「集団的自衛権の規定だ」と言ってきましたが、規定そのものは「共通の危険に対処するように行動する(it would act to meet the common danger)」ということです。


【日米安全保障条約第五条】

 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。


 そして、玉木議員の報告にもあるとおり、アメリカは中国に相当に配慮しています。更には、「ある国が国際規範に反したら、アメリカは戦争に行くべきか。仮に行かないとした時、アメリカは国際規範に不誠実な国なのか。それは違う。」という趣旨のことを言っています。アメリカは中国と戦争することはしないという意味合いが強く出ていると、私も思います。


 ここからはあえて刺激的なことを書きます。今、日本が心配すべきことは2つ。「日米安全保障条約が(日本の中で期待されているようなかたちで)機能しないのではないか。」ということと、「日本がフィンランダイゼーション化しないようにするにはどうすべきか。」ということです。


 そもそも論として、(繰り返しになりますけど)今の日米安保条約でも「日本が襲われたら、自動的に救いに来る。」わけではありません。そこにはアメリカ自身の判断があります。「自動的な」集団的自衛権の発動などあり得ないことは当たり前です。そこの「(アメリカの)判断」を飛ばした楽観的な議論が、日本の中には横行しています。そして、規定にある「対処(meet)」の方法は軍事的なものではないかもしれません。そして、そういう見方が今回のオバマ訪日でより現実的なものになったと言っていいでしょう。


 日米安全保障条約は、二国間の国際約束ですから遵守義務があります。しかし、その遵守のあり方が、もしかしたら、いやかなりの蓋然性で「日本が期待するようなものでないかもしれない」ということは念頭に置き始めるべき時です。かつて、椎名悦三郎外相が国会答弁で在日米軍を「番犬」と呼び、驚いた野党議員から窘められたら「番犬様です」と言い直したということがありましたが、そういう見方が通用しないかもしれないということです。


 そして、これはあまり言いたくはありませんが、日本は「自国がフィンランダイゼーションの憂き目に遭わないためにどうすべきか。」という視点を持った外交安保政策を考えるべき時なのかなと思います。「フィンランダイゼーション」という言葉は、フィンランド人は「違う」と言いますが、政治学的には「ソ連時代、フィンランドはソ連の意向に反する首相を置くことは出来なかった。」という意味合いを持つ言葉です。


 落選直後、役所のある知人と話した際、この「フィンランダイゼーション」の話で深刻に盛り上がったことがあります。しかし、お役所からこんな話を平場に持ち出せるはずもありません。これは政治が議論すべきことです。南西方面の防衛力の強化、日米中のトライアングルの中でどう外交を導くか、そんなことを自分なりにもう少し考えてみます(ここは明確な意見表明がなくてすいません。)。


 我田引水も、自虐的になることも、大言壮語も、どれも要りません。今、目の前にある現実だけを冷徹に見て、外交安保を考えるべき時です。