某党の共同代表の方が、「いわゆる慰安婦問題について、国家意思が認定されるのであれば国家補償も考えるべき。」といった発言をしておられました。これは看過しがたい発言でして、元条約課課長補佐として一言言わざるを得ません。
そもそも、同共同代表は「請求権」というものがよく理解できていないのではないかと思います。そのあたりはこのエントリー に書いています。財産、権利、利益として具体化していないものすべてが「請求権」に当たります。それはいわば「何でもあり」の世界であって、「日本が韓国を併合していたことを学校で学んだけど、それが不愉快だから補償しろ」と今の韓国の若者が言い始めること、これも一つの請求権です(日韓基本条約にある請求権の範囲には入りませんが、あくまでも考え方の参考として)。
そういう何でもありの請求権を、条約締結の時点ですべて完全かつ最終的に解決したのが日韓基本条約です。昭和40年時点で明らかになっていなかったことがあったとしても、それも全部含めて今後はなしよ、というのが請求権の処理の基本です。「国家意思があったかどうか」なんてことも全部ひっくるめての完全かつ最終的な解決なわけですから、そういう要素を持ち出してパンドラの箱を開けようとすること自体が不勉強と言わざるを得ません。なお、日本の戦後処理はすべからくこの方式で行われていて、韓国だけが特殊なわけではありません。
そもそも論として、一旦そういう解決をしておかないと、将来あれこれとパンドラの箱を開けられてはたまらないというのは、常識的な歴史の知恵です。同共同代表は気付いていないと思いますが、ここで箱が開いてしまえば、第二、第三のパンドラの箱が待っているのです。国家意思があったと思われる案件について、雨後のタケノコのようにどんどん請求権の要求が出てくるでしょう。そうなってしまえば、論理的には「いや、あそこで言った国家補償の話はいわゆる慰安婦問題だけに限定した話です」なんてことは通用しません。
御自身で問題提起をして、それがこじれた挙句に最後の尻拭きがこれかよ、そんな気持ちですね。到底看過できるものではありません。なお、このエントリーでは経済協力協定にある6億ドルの話は書きませんでした。日本の公式ポジションは請求権問題の解決と経済協力の話は直接の関係がない、という立場ですので。