野党議員の鬱陵島訪問が大きな話題になっています。これについては色々な議論がありますけども、私の思いを少しだけ書いておきます。


 まず、鬱陵島そのものについては、サンフランシスコ平和条約において明確に権利、権限及び請求権を放棄しています。


【日本との平和条約第二条】

(a) 日本国は、朝鮮の独立を承認して、済洲島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。


 この条項を検討する際、竹島という言葉を入れるかどうかで相当に争いがあったというのは既に知られている事項でして、最終的には入りませんでした。この経緯からすると、竹島については「放棄しなかった」という事実が残るわけでして、この手の条約では放棄しない領土は日本の領土と考えるべきものです。ただ、韓国は「済洲島、巨文島及び欝陵島は例示に過ぎず、当然にして独島は朝鮮に入っているので、日本が放棄した領土に竹島は入る」といった論理だったりします。純粋法理論的にどうかはともかくとして、国境の最前線の島を明記しないということは実務上あり得ない話であって、まあ、この韓国の主張には無理があります。


 それはともかくとして、日本では鬱陵島の領有権を主張していないわけですから、私からすると「日本の国会議員が鬱陵島に行くくらいで、こんなに騒ぐ必要はないのに。」と思います。まあ、入国を認めるかどうかは偏に国家の主権に関するものなので、韓国が特定の個人を入国させないことは国の意思としては認められるべきものです。


 ただ、今回の訪問(できるかどうかはともかく)について、これだけ騒いでいるということは裏を返せば「領土問題がある」ということの主張に繋げやすくなります。以前、このブログに書きました(ココ )が、日韓関係の古証文として「紛争の解決に関する交換公文」というのがあります。1965年の日韓基本条約の際に併せて締結された古い条約ですけども、今でもきちんと効力のある国際条約です。本文は「両国政府は、別段の合意がある場合を除くほか、両国間の紛争は、まず外交上の経路を通じて解決するものとし、これにより解決することができなかつた場合は、両国政府が合意する手続に従い、調停によつて解決を図るものとする。」だけです。


 こういう古証文を持ちだしながら、すっとぼけた感じで韓国に対して「これって両国間の紛争ですよね。このプロセスに乗せませんか。」と言ってみるとどうなるかなと思います。まず、激烈に反応して「紛争はない」と言い張るでしょう。「紛争がないなら、なんで近隣の島に国会議員が行くくらいのことを止めるのですか。」と聞いてみればいいのです。これをずっとオープンプロセスで極めて慇懃で丁寧な方法でやっておくのがいいのではないかと思うのです。


 残念なことに、最近、竹島関係では韓国が色々なプロジェクトを進めていることに対して日本の抗議、申し入れが少し緩いような気がします。国際法における領土問題の考え方は、常に権原を主張し続けないと、仮に将来裁判になった場合に不利な扱いを受けます。なので、常にこちらからはメッセージを言い続けておくべきだと私は思います。そのやり方として、この「交換公文のプロセスに乗せません?」というのはとても筋の通った方策ではあると思います。乗ってこないのは分かっているのですが、ひたすらそれを言い続けておくことの意味は少なくないと思います。


 昔、朴正煕大統領は「日韓友好のために竹島なんか爆破してなくなってしまえばいい」と言ったとされています。日本側にも一部に呼応する声があったと聞いたことがあります。まあ、荒唐無稽ではありますけども、先人も悩みに悩んでそういうことすら口にしたくなったんだなという苦悩自体は理解できるところです(誤解はないと思いますが、私は「竹島がなくなればいい」と思っているわけではありません。)。