在日米軍駐留経費負担特別協定についての議論が盛り上がっています。米軍基地内にある遊興施設で働いている職員の給料までをも日本が負担し、かつ、その金額が結構莫大なものになっていることへの批判が高まっています。私は昨年から「いつ火がつくか、いつ火がつくか」と思っていたのですが、意外に遅かったなという感があります。


 まず、在日米軍についての経費負担については、日米地位協定に以下のような規定があります。まあ、色々と書いていますが、日本は施設、土地等の提供については世話しますよ、それ以外のところはアメリカさんお願いしますという雑な理解でいてもいいと思います。


【日米地位協定第二十四条】
1 日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は、2に規定するところにより日本国が負担すべきものを除くほか、この協定の存続期間中日本国に負担をかけないで合衆国が負担することが合意される。
2 日本国は、第二条及び第三条に定めるすべての施設及び区域並びに路線権(飛行場及び港における施設及び区域のように共同に使用される施設及び区域を含む。)をこの協定の存続期間中合衆国に負担をかけないで提供し、かつ、相当の場合には、施設及び区域並びに路線権の所有者及び提供者に補償を行なうことが合意される。
3 この協定に基づいて生ずる資金上の取引に適用すべき経理のため、日本国政府と合衆国政府との間に取極を行なうことが合意される。


 ただ、これでは米軍の負担が重いということで、30年前の金丸信防衛庁長官の時代に「思いやり予算」ということで、米軍基地日本人労働者の福利厚生費の一部を負担するようになりました。最初は小さな額でしたが、その後次第に拡大を重ねていきます。


【(現行の)在日米軍駐留経費負担特別協定第一条】
日本国は、二千六年及び二千七年の日本国の会計年度において、労働者に対する次の給与の支払いに要する経費の全部又は一部を負担する。
(a) 基本給、日雇従業員の日給、特殊期間従業員の給与、時給制臨時従業員の時給及び劇場従業員の給与
(b) 地域手当、解雇手当、扶養手当、隔遠地手当、特殊作業手当、夏季手当、年末手当、寒冷地手当、退職手当、人員整理退職手当・・・・
(以下、面倒なので省略します。関心のある方はこちら の第1条~第3条を見てください。


 今では米側が負担するのは米軍人の給与くらいではないかと思います。来年度の思いやり予算は二千八十三億円だそうです(すべてが特別協定によるものではないのですが)。勿論、日米地位協定に基づく支出もありますし、米軍再編関係費用等もあり、それらをすべてひっくるめると来年度の在日米軍駐留関係経費の総額は約六千二百億円だという数字があるようです。


 この特別協定の中に、バーテンダーのお兄さんの給料とか、それはそれは手厚いお手当が含まれています。防衛省資料によると、売店や娯楽施設、福利厚生施設などに勤める米軍基地従業員の全2割だそうです。ゴルフ場整備員、ボーリング場職員のお手当まで日本が面倒をみています。「さすがにこりゃひどい」と誰もが思うでしょう。


 ところで、地位協定、特別協定を含む在日米軍関連費用を他の国とザックリと比較してみました。本当にネットでホイホイと見つけてきたデータによる雑な試算ですので、正確なものとして信用してもらうと困るのですが、非常に大まかな数字として考えてみてください。日本が負担しているのが44億ドルで総費用の75%に当たります。そして、在日米軍が4万人です。比較的負担額の大きいドイツでは、負担が15億ドルで総費用の33%、在独米軍が7万人です。計算してみると、日本にいる米軍兵1人に対する費用は15万ドル(日本負担分11万ドル)、ドイツにいる米軍兵1人に対する費用は6.5万ドル(ドイツ負担分2.1万ドル)、まあ、こんな感じです。繰り返しますが、非常に雑なデータですが、それでも「そもそも、日本にいる米軍兵1人を養う費用自体が高いんじゃないか」という疑問は拭えません。勿論、日本の負担率が高いことは言うまでもありませんが、私としては「そもそも、他国に比して良い生活をしとるんじゃないか?」、そちらの方が気になります。


 実は、特別協定には「節約『努力』をしますよ」という規定はないわけではありません。


【(現行の)在日米軍駐留経費負担特別協定第四条】
 アメリカ合衆国は、前三条に規定する経費の節約に努める。


 この規定、既にお気づきだと思いますが「努力規定」です。「努力規定」は「何もしなくても咎を受けない」ということと同義であることは、日本でも、アメリカでもあまり変わりがありません。日本は一生懸命にアメリカに節約努力を求めましたが、結局、現行の特別協定では三年間で8億円の光熱水費の節約があることが唯一の成果でしょう。もっと切り詰めることができると思うのですが、現行協定の枠組みではアメリカ側に切り詰める動機は働かないのです。公務員が自分の獲得した予算を使い切ってしまおうとする話を最近書きましたが(ココ )、それと似たようなものです。自分のカネでないのに切り詰めようとするアホはいません。どんなに努力規定を盛り込んでも、アメリカ側が真剣に節約しようとすることはまずないと言っていいと思います。


 一つだけ、アメリカ側が自発的に節約しようとする動機を働かせる方策があります。それはこれらの経費を一部だけでいいのでアメリカ負担にしてみることです。百歩譲って、特別協定で今、提案している金額と同じカネを日本が米側に出すことを容認するとしましょう。ただ、そのおカネの出し方として、日本が100%負担のものを撤廃して、すべての経費について例えば「日本75%、アメリカ25%」の負担率にするとします。したがって、バーテンダーであろうと、ボーリング場従業員であろうと、その給料の出し方を「日本75%、アメリカ25%」にするとします。多分、決算時には相当の節約が実現できると思いますね。25%であろうとも、経費が嵩めば自分に跳ね返ってくることにでもしないと、アメリカは真剣に節約することはないでしょう(まあ、これについては、多分過去に日本が提案したことがあるのではないかと思いますけどね)。


 この「思いやり予算」のあまりに酷い現状にもっと光が当たることは大切なことです。それは「日米安保堅持」と真っ向から反するものではないでしょう。