お役所というのは、ちょっと不思議なところがあります。その際たるものが「コスト感覚があまりない」ということです。お役所では「予算というのは全部使い切るのが正しい」という文化があります。理由は簡単で「当初予算以下で事業を終えてしまうと次の年の予算要求で『コストカット出来てますね。では、次の年の予算ではその分は削りましょう。』と言われるから」です。その背景には、日本のお役所の予算査定が前年度踏襲の色合いを強く残しているということがあります。


 お役人は基本的に「権限、ポスト、予算」に生きる人達ですから、予算が削られるというのは「無能」のレッテルを貼られかねないのです。ということで、年度末になると予算消化のために余計な事業が組まれたりするわけです。一般的なパターンとして、年度当初は慎重に予算を使い、後半も半ばに来ると目処がつくので、そこからギアが入る、そんな感じです。


 こういう文化の中では「コストカットをしよう」という動機は全く働きません。といって、私は財務当局の査定システムを批判するつもりもありません。財務当局はそれはそれは賞賛に値する努力をしていることを傍からよく見ていたからです。鉛筆一本から査定していくあの作業をやりこなす財務省主計局という部局は非常にハードな場所です。普通の人には絶対に勤まりません。


 結論としては「予算作成過程に何処かで予算削減の動機を盛り込まない限り、この問題は解決しない」ということです。予算の作り方自体の中に「コストを切り込んだほうが得だ」と思わせる動機を内在させるということです。残念な話ですが、そうしない限りはダメなのです。


 とは言っても、あまり素晴らしいことは思いつきません。以前、新聞で何処かの自治体が実施している方法として「予算削減した分をプレミアムとして次年度予算で評価してあげる」というのがありました。なかなか面白いと思ったものです。よく覚えていないのですが、大体、以下のような感じだったと思います(具体的な数字を入れてみます)。


● 毎年、前年比10%予算減をルール化する。
● 前年、当初予算額よりも切り詰めた額については、その50%をプレミアムとして(前年比10%減した後の)次年予算に積み上げてあげる。


 これだけではよく分からないので更に具体的な数字を入れてみます。例えば、1000万円の事業があったとします。今年、その事業を1000万円で執行したら、来年の予算額は10%減の900万円になります。しかし。今年、その事業を950万円で執行したら、来年の予算額は10%減の900万円プラス節約した50万円の50%である25万円を上積みして925万円とする、こんな感じです。今年も来年も1000万円で執行するケースと比べると、第一のケースでは今年+来年で100万円のコストカットになります。第二のケースでは今年+来年で100万円+75万円で175万円のコストカットになります。では、この双方のケースでお役所はどちらを選択するかと言うと、多分第二のケースです。


 ただし、この場合、今年の執行額が800万円を下回ると次年予算が1000万円(900万+200万×0.5)を上回ってしまいます。それでも実は今年+来年のコストカット額はどんどん増加していきます。それを是とするかどうかは判断が分かれますが、まあプレミアム額に上限を設けるというのは一案です。


 非常に単純化されたモデルですぐには適用できないのですが、一般論としてこういうことでもして予算を削減することが得になるように仕向けることが実は必要なんじゃないかと考えるわけです。多分、これを数年やってみると(永遠にはやれない)、予算執行に緊張感が出てくるんじゃないかなと思ったりします。私はこういう予算の話があまり得意ではないので、異論・反論をお待ちしています。