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【前回のあらすじ】
夫はだいたい週に1度のペースで、自宅に帰ってきていた。
自宅で寝る日もあれば、生活費を渡して「子供たちの顔見たから行くわ。」と言って、行き先を告げずに家を出ていく日もあった。
帰らない日に必ず来るLINEがあり、内容は「明日帰る!」という短文だった。
明日帰ると言って、帰ってこない時は9割。
私は、夫の嘘に慣れ始めていた。
夫が「離婚する」と言い、家を出て行ってから約3週間近く経っていた。
この頃の私は、夫の嘘に対し何の疑問を持つことなく、対応できるようになっていた。
私から仕事の進捗や、夫の近況を聞くことはしない。それは前から変わらず。
むしろ、私は気持ちに整理をつけ始め、夫への対応が淡白になってきていた。
変化したのは、私だけではない。
子供たちも少しずつ変わってきていた。
ほとんど毎日のように「きょうはパパかえってくる?」と聞いていたのが、
その質問自体してこなくなった。
“パパ”に対する愛情が薄れたのか、
その存在自体を忘れたか、
パパがいない生活が当たり前のようになってきていた。
もうすぐ、1番上の子の運動会の季節。
「いっしょうけんめい、れんしゅうしてるよ!
でも、なにするかはないしょだよ」
と笑いながら、内緒のポーズをする我が子が愛おしくてたまらなかった。
子供たちが幼稚園などで家にいない間、私は探偵社の調査員さんに夫の近況報告を行うため、電話を掛けた。
「早速本題に入りますが、ご主人の状態はどうですか?」
「夫は調査していただいた時と変わらず、家には週一くらいのペースで帰ってきています。
それ以外はどこで寝泊まりしているか、詳しくは話されていませんし、私からも聞いていません。
夫から再構築の話もなければ、離婚の話を進めようとする素振りも見られません。」
そう答えた。
それを聞いた調査員さんは、少し話題を変えた。
不倫相手女性の自宅マンションに契約している人の中に、不倫相手女性の名前はなかったそうだ。
不倫相手の両親が離婚していて、苗字が異なる可能性は伝えていたが、
下の名前でも一致する契約者はいなかったらしい。
むしろ、その不倫相手が契約している部屋番号は別人(名前で見ると男性。しかし夫とは違う名前)で登録されているらしく、それ以上のことは調査員さんも分からないとのことだった。
「1回分の証拠でも充分効果的ではありますが、1回限りの関係で、関係を継続しているという証拠にはなりにくいです。
1回限りよりも、関係を継続している方が罪が重くなるので、期間を空けてもう1度調査を行う…つまり追加調査されると良いと思うのですが、どうされますか?」
追加調査…。
もしも夫と裁判となった時、もう1回分証拠を抑えておくとかなり有利になる。
それは分かってはいたが、追加調査にはさらに調査料がかかる。
ただし追加調査だからと言って値引きされるわけではなく、単純に1回分がかかる。
追加調査料は13万円…。
「……少し、考えさせてください。」
「もちろん、大丈夫ですよ。
ただ、早めに動かないと、ご主人が相手女性との関係を改め、家に帰ってくる可能性もあるので実行するのであればお早めに。」
「わかりました。ありがとうございます。」
調査員さんから「では、ご連絡お待ちしてます。」と言われ、この日の電話は終わった。
夫が改心して家に帰ってきてしまえば、継続的だという証拠が取れずに終わる。
だけど、1回分の証拠はある。
調査するかしないか、早めに決断する必要があった。
だけど私には、冷静に、じっくり考える時間が必要だった。