【前回のお話は下記リンクからどうぞ】
【前回のあらすじ】
公正証書作成のため、公証役場に向かうのはこの日で三回目だった。
夫は公証役場に向かう車の中で、当たり障りのない話題を振ってきていた。
ただ、その中で夫は私に「新しい男がいるんだろ」と言わんばかりのことを言ってきていた。
まったくもってそんな事実はなかったが、夫が探りを入れてきているのだと察知した。
いよいよ公正証書が完成し、それを交付してもらう。
無事に受け取ることができれば、その足で離婚届を市役所に提出しようと私は考えていて、夫にも了承済みだった。
この日の私は、仕事が休みの母が運転する車で
下二人の子供たちと一緒に公証役場へ向かった。
一方の夫は、仕事へ行く前に公証役場に向かうと言っていた。
時刻的にも正午前という時間帯だったので、夫の仕事に影響が出るのには申し訳ないが、年内には決着をつけたいと思っていたので、夫の対応はありがたかった。
公証役場の最寄り駅のロータリーで待ち合わせ、私が車から降りた時にはすでに夫がひとりで立っていた。
「よう。」
「行こうか」
それだけの軽い言葉を交わして、私と夫は公証役場へ向かった。
今回が、最後の公証役場。
公正証書の内容は前回確認した時のものを原本として作成してもらっているので、今回は正本と謄本を交付してもらう予定。
公正証書の原本に署名と捺印を行い、
そして交付に伴う手数料を受付で支払い、これで公正証書は完成した。
公正証書を無事に交付され、
夫と私が歩く歩幅は変に揃い、歩くスピードは同じだった。
これまで、私は夫と何度も一緒に歩き、
子供たちと一緒に公園へ出かけたり、
ショッピングモール内を練り歩いたり、
動物園や水族館などのレジャースポットにも一緒に行った。
夫婦として隣同士で歩くのも、これで最後。
そう考えたが、
ちっとも淋しくなかった。
むしろ、清々しい気持ちでいっぱいだった。
やっと、離れられる。
夫に何かされるのではないか、
暴言を吐かれるのではないか、
そんな不安を抱えて日々を過ごすことは無いのだと思うと、安堵の気持ちでいっぱいだった。
