京都盲唖院・盲学校・視覚障害・点字の歴史 -4ページ目

京都盲唖院・盲学校・視覚障害・点字の歴史

視覚障害教育の歴史を研究しています。京都盲唖院、古河太四郎、遠山憲美、鳥居嘉三郎、石川倉次、好本督、鳥居篤治郎、小野兼次郎、斎藤百合、エロシェンコ、楽善会、雨宮中平、点字

 標題誌の巻頭言で、筑波大学附属視覚特別支援学校長・星祐子様が私の近刊2冊を取り上げてくださいました。

 ご了解を得ることができましたので、全文をご紹介します。拙稿が視覚障害教育の歴史を次代につなぐ一助となれば幸いです。(写真はその表紙。URLは発行元による説明)

  巻頭言 視覚障害教育の歴史に学び、明日の活力に

                    筑波大学附属視覚特別支援学校長 星 祐子

 視覚障害教育の歴史は、社会の中で「人間の尊厳」を求め、実現しようと果敢に挑んでいく、その情熱と確かな見通しをもった歴史である、と実感した岸博実氏の2冊の著書『視覚障害教育の源流をたどる 京都盲啞院モノがたり』『盲教育史の手ざわり 「人間の尊厳」を求めて』を紹介いたします。

 著者は、京都府立盲学校をはじめ、全国各地を訪ね歩き、埋もれていた多くの盲関係史料の発掘と収集に基づく地道で精力的な研究によって、新たな事実や知られていなかった史料・文章を掘り起こされました。京都盲啞院創立当時、職業教育として、盲人に伝統的な鍼按摩の他に、金網織、籐細工、そして記憶力を活用することによる法律家も例示していたという事実も示されています。また、著者が新たに発掘した訓盲啞院を楽善会から官立化となることが記された雨宮中平史料、終戦間際の京都府立盲学校の校長代行の方の日誌に綴られていた「盲学へも機関銃弾3発余り落下した」との記載に見られる戦争被害や戦時中のことなど、埋もれていた歴史のページを紐解くように史実が示されています。

いずれの時代にあっても、熱意と信念を持ち、果敢に挑んでいった先人達の弛まぬ挑戦とそれを支え、ともに生きていた人々の営みがあったこと、そのことを圧倒的な史料・文献に基づいて明らかにし、歴史に埋没していた人物・史実に新たな光を当てています。

現在、特別支援学校(視覚障害)を巡っては、在籍幼妃児童生徒の減少、重複障害のある子どもたちの割合の増加等の中で、一人ひとりの豊かな学びをいかに保障していくのか、という課題に直面しています。職業教育の在り方も問われています。また、通常の学級、特別支援学級等で学んでいる視覚に障害のある子どもたちも数多く存在しています。こうした中で、子どもたちが学びの実感や充実感が得られる教育をどのように創り出していくのかといった視点、地域社会の中で子どもたちを守り、育んでいく視点は大切にすべきことです。

『盲教育史の手ざわり 「人間の尊厳」を求めて』の中に「長崎の多比良義雄校長の思い」の章があります。後に、長崎に投下された原子爆弾の犠牲となった多比良校長が、「盲聾唖義務教育制度実施に就て」と題して地元の新聞に投稿(1937年1月5日付)した文面が掲載されています。その文面は、盲・ろう児の就学率が「僅かに百分の三十に過ぎない」と嘆き、「日本が盲聾児九千人の義務教育に伴なふ国費の負担に堪えないのでありませうか!」と問うています。あの時代にあって、校長という立場で、教育へのひたむきな思いを訴える提言を、養護学校義務制を経て、現代に生きる私たちはどのように受け止めていくのかが問われているように思えます。

先人達の強い信念と意志に基づく取組、教育に携わる者の責任と使命が伝わる著書を手に取り、紐解くことで、明日への活力としていきたいと思います。

 

https://www.kyoikushinsha.co.jp/book/5049/index.html

 

 パリ訓盲院を興したワランタン・アウイを斎藤百合が描いた。その小説『荒野(あれの)の花』の日本語点字版(岸・翻刻)が-航空便で2度不首尾だったけれど、3度めにあたる船便で、-今朝、アウイ博物館に届いたとの知らせ! ほっとした。

 百合の花が美しいとのメール。ミレイユさん、ありがとう!

 「足利 天国の近代化遺産 黎明の篤き志と気概」イラスト展が開かれます。

 私立足利盲学校竣工時の校舎、県立盲学校時代の校舎、澤田治療院・住宅も鮮やかな色合いで再現されています。(羽山弘一氏の作品集を送っていただきました。感謝!)

 なお、足利盲学校の創立者で、点字投票実現運動に尽力し、テーブルテニス(盲人卓球)を考案し、戦後の進駐軍による鍼灸禁止の動きを押し返した先達、澤田政好先生顕彰碑の建立計画も起こっています。微力ながら支援します。

 

 

 

♪ 新しく出ます。『人権としての特別支援教育』(文理閣 2月・中下旬予定)230ページ・税込み2000円【写真は、表紙】

 藤本文朗・小野川文子監修 小畑耕作・近藤真理子・宮本郷子編著

 各論のうち「視覚障害」の項を書かせていただきました。大学の教科書として活用しうる入門性と、特別支援教育の現在・未来を問い直す先進性を企図した編集になっています。

 本書の特徴として、特別支援教育総論、障害別各論の他、寄宿舎 保育所 特別支援学級 通常学級 定時制 広域通信制高校、支援員 大学での支援 家族・きょうだい論 スウェーデンのインクルーシブ教育 ベトナムの障害児教育などなど コアカリキュラムにないトピックも編まれています。

 現時点では、文理閣のサイトにもアマゾンなどにもリストアップされていないようです。

 先週4月21日(水曜)の京都新聞朝刊の1面と22面を当てて、ケラーの声のこと、ケラーと交歓した人達のことが詳しく報じられました。(取材に協力しました。)

  京都新聞社に申請し、私が本ブログに掲載することについて1年間を限りになどの条件つきで承諾を得ることができましたので、以下に同記事のjpegファイルをアップいたします。同社の著作権を侵すような扱いをなさらないようお願いします。紙面に掲載されている写真の利用については、各提供元の承諾も必要です。

  なお、同22日にも続報が掲載されていることをご紹介しておきます。

 テープの内容については、ヘレン・ケラーの著作権との関係で、コピー配布は困難であり、ご希望をいただいても対応できません。

 

 

 

 日本点字委員会により<日本の点字制定130周年特集号>。

 昨年11月1日に催された企画の採録として、福島智さんと私の講演(全文)も載っています。青松利明さんの「視覚障害者のための点字からみんなのための点字へ」や木下知威さんの「点字が点字になるために」などなど、興味深い作品ぎっしり満載です。

 

 



 粟津キヨさんの『光に向って咲け』を読んでいます。斎藤百合を描いた岩波新書です。

 その27ページに、斉藤百合の育った時代を象徴するものとして<大正の中ごろまで使われていた小学校の教科書>に「身にしむような北風の、吹く夕暮れにあね、いもと」という文句で始まる歌がのっていた。 
 悪いこどもがおおぜいで
 わたしの杖をもぎとって
 放った音はしましたが
 悲しいことに目がみえず
 探すことさえできません」  と。

 この歌が載っているという教科書を探しています。歌の冒頭は、「身を切るような北風の」かもしれません。ネット上には、そう書かれています。親切な姉が、杖を奪われた妹を助けるというお話なのですが、当時の社会風潮の一端を感じさせます。
 おそらく尋常小学読本の類なのでしょうが。。。

【写真は、要チェック箇所に付箋を貼った『光に向って咲け』表紙】

佐々木住職と京都民報社に感謝申し上げます。( ↓ 記事の写真と、本文の転記)

書評 『盲教育史の手ざわり 「人間の尊厳」を求めて』著・岸博実 【京都民報社発行『京都民報』第2971号 2021年2月28日付 掲載】

 2018年に、京都盲唖院関係資料が大学以外の学校関係では初めて、国の重要文化財に指定されたのは記憶に新しいところです。  

 著者の岸博実氏は、1974年から京都府立盲学校に勤務され、現在も引き続き講師として在籍しながら、この盲学校資料室の資料の研究に携わってこられました。

 その研究は、日本における盲教育の歴史全般に広がっています。本書は2011年から2019年まで「点字毎日」に連載された文章に加筆・修正されて出版されました。全体は、「凸字から点字へ」、「盲教育の開拓者たち」など10章からなり、それぞれに10数編のエピソードが描かれます。

 主には、明治以来の先人たちが苦労して作り上げた盲教育の歴史や、全国各地の視覚障害者の権利保障の運動に尽くした人々の話などが中心ですが、決して堅苦しい内容ではなく、著者の実体験や感想も含めた親しみやすい文章となっています。出てくる固有名詞は、人名だけでも400名近くにのぼりますが、両面見開きに一つのエピソードという形式で図版も配され、大変読みやすくなっています。   

 個人的には、評者も在職した京都府立盲学校関係の開校当初のエピソードや、「スクール人力車」、「盲人野球」の項にも興味を覚えました。著者自身が13年に国際パリセミナーで発表された「近代日本では当初から、盲学校を福祉政策ではなく教育機関として位置付けて発展させてきた」ことに、海外から驚きの声が聞こえたことなども新鮮に読ませていただきました。

 最後の「いのちと安全」の章にある「単に年代やできごとを覚えるだけでは歴史を学んだことになりません。かけがえのない命を守り、輝かせるために史実から何を学ぶかが大切です。」という言葉に、著者の歴史を研究する姿勢、そして本の副題『「人間の尊厳」を求めて』につながる視点が集約されているように思いました。盲教育に限らず、障害者運動関係者必読の書です。  

 (佐々木正祥・社会福祉法人アイアイハウス理事長、大善院住職)

写真の説明はありません。

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