本記事はTwitterの菁山房 琳阿弥陁佛(@ogatakourinpa)の#琳華集でのツイートの内、行った展覧会についての感想の呟きを手短にまとめたものである。
2025年11月に行った展覧会
再訪:扇影衣香―鎌倉と宋元・高麗の仏教絵画の交響―@鎌倉国宝館 11/16日
https://x.com/ogatakourinpa/status/1992122604988338235
鎌倉市が「東アジア文化都市2025」なるものに選定されたことに際しての開催。東アジアにおける仏教美術の影響関係を、建長寺・円覚寺の宝物を軸にみせる特別展であり、中世に国際都市として栄えた鎌倉の地で展観するのはたいへん意義深いものがある。宋元仏画@京都国立博物館の暴力的なまでの質や量には及ぶまいが、下半期の目玉の展覧会といって差し支えないであろう。
本展は媒体やテーマごとに作品をまとめるという展示構成で、とても整理された印象を受けた。冒頭では円覚寺、東福寺の五百羅漢図のうち、同じ図様の幅を並べて展示してあった。解説によると東福寺本を基に円覚寺本が制作されたらしく、確かにいくつか写し崩れのような部分が見受けられるなど、作風を比較しながら鑑賞した。現在、数年をかけた修理の最中であり、かつての修理銘を有する軸木も展示されていた。今後の研究がまたれるところである。次に建長寺の三十二観音、伝牧谿の猿猴図、円覚寺の白衣観音など、水墨の観音図が並ぶ。衣文線が太く大振りなものもあれば、文様や飾りを細やかに陰影を施して描くものもあり、禅林における観音図の多様さが面白い。今度はモノクロから一転、極彩色の宋元・高麗仏画。細身の清らかな建長寺の水月観音、馥郁たる彩色と精緻なる文様が魅力的な根津美術館の高麗阿弥陀三尊、堂々たる円覚寺の被帽地蔵の三幅をまとめてみられる贅沢さよ。着衣の文様や台座の飾りにみる細やかさは圧巻であった。続いて頂相が並ぶ。表情や細く謹直な輪郭線によって、どの像主からも冷厳なたたずまいが感じられると同時に、面長だったり丸顔だったり、眉毛が太かったりとそれぞれの個性が感じられた。蘭渓道隆を表した作品は絵画・彫刻ともに展示され、眼光鋭い顔立ちが特徴的であったことがよく理解される。また、留学先で賛を得た作品からは、海を越えた禅僧の交流をうかがうことができた。
以上が壁面ケースの展示で、以下は中央の行灯ケース。東アジアの文化交流とは直接関係なさそうだが遊行上人縁起絵巻(清浄光寺本)が出ていた。巻1・2のうち後者の龍ノ口の場面は、広々とした海景が見どころ。一応、海を越えた交流を想像させようというところだろうか。彫刻は清雲寺の滝見観音、根津美術館の阿弥陀如来立像、建長寺の宝冠釈迦如来坐像という「宋風」の仏像三軀。表情、着衣の形式、衣文表現、装身具などに三者三様の「宋風」がみられる。
私が最も印象に残ったのは、これら三軀の仏像の向こう側に(透過度の高いガラスの行灯ケースの向こう側に)円覚寺の白衣観音、建長寺の水月観音、根津美術館の高麗阿弥陀三尊、円覚寺の被帽地蔵がみえた景色である。絵画と彫刻とを比較すると踏み下げの姿、法衣垂下、衣文表現などに共通がみられる一方で、なお作品ごとに個性があり、海を越えた造形の広がりを一望することができた。すなわち、ある作品を目にしたとき、それと関連する別の作品がオーバーラップする空間が立ち現れていたのであった。このような、その場に行かないと体験できない空間に出会えたとき、「ああ、見に来てよかったな」と思うのである。決して広くはない展示室から、粒ぞろいの宝物を通して、東アジアを展望する展覧会であった。後期展示も再訪したい。
北澤映月展@平塚市美術館 11/23日 図録購入
https://x.com/ogatakourinpa/status/1992971288173019266
運慶@東京国立博物館本館 11/28金 図録購入
https://x.com/ogatakourinpa/status/1994325651285782908
再々訪:扇影衣香―鎌倉と宋元・高麗の仏教絵画の交響―@鎌倉国宝館 11/30日
学部時代の友人と2人で。私は多少美術史の知識があったので講釈を垂れながらの鑑賞。五百羅漢図の円覚寺本と東福寺本とを比較したり、建長寺の宝冠釈迦と山梨・一蓮寺の釈迦三尊十八羅漢とを、特に獅子や象に注目して比較したり、「仏日庵公物目録」を拾い読みしたりなどなど。今回、人に解説しながら思ったのが、通常の観客はモノをよくみていないのだなということ。水月観音をみて仏さまの髪が青いことに驚いたり、頂相をみて自画自賛という言葉の由来を知ったりとかの知識の有無は別にしても、似た図様の絵画が並んでいてもそれを比べてみようという視点に至らないとか、どこが目の付け所なのかを、展示する側と鑑賞する側がそもそも共有できていないという感じであった。むしろそちらの方が普通なのだろう。友人も解説がないとすぐ見終わってしまうという旨を話しており、どう解説するか、伝えるか、どこまで伝わるのかなど、展示する際に考える必要があると改めて思った。過ぎたるは猶及ばざるが如しとはいうが、翻刻を示したり絵巻の場面をキャプションで説明したりした方がいいなと思った。そういえばとある仏像から遺骨が出てきたという話をしたところ「え~嫌だ~笑」という反応だった。勉強している身としてはとても嬉しい話なのだが、一般の感覚は違うのかもしれない。ちなみに鑑賞後はVERVE COFFEE ROASTERSにて茶話。ここは高いが値段相応の美味しいコーヒーが味わえる。
今月は、数は少ないがどれも質の高い展覧会であった。他にもいきたい展覧会があったが、まぁ、もういいのである。
運慶展の時もそうだったけど、もうだいぶ前から東博本館前の池に水が張っていないが、これを潰して芝生にするという案が出ているらしく、Twitterでかなり不評であった。どうやら既定路線らしく、もう覆らないのだろう。恐らく維持費の問題とかが大きいんではなかろうか。金を前にすると、品格や伝統は無力なのだろうか。ともかくも、無力であることを認識して、スタートラインとせねばならない。集客のために活用するにしても何か、他の方策をやってほしかったように思う。まぁ、外野がとやかくいえるほど、単純な話ではないのかもしれない。
そういえば、岡田美が所蔵する歌麿の「深川の雪」が売却されるというニュースを知って一体どうなることやらと心配していたが、蓋を開けてみたら日本人が11億円で落札したとのことで、ひとまず安堵。あと、府中市美にて毎年恒例の「春の江戸絵画まつり」が来年の芦雪展で最終回になるとのことである。
ちなみに7金に某寺にて文化財の調査をしたこと、29土に扇影衣香展記念の井手誠之輔氏による講演会 絵から見た鎌倉と東アジア世界―人と仏と宗教生活―@建長寺応真閣(図録頂戴)を聴講したことを記録しておく。
行きたかった、話題になっていた展覧会
芸大コレクション展2025 名品リミックス!@東京芸術大学大学美術館 10/7火~11/3月祝
恒例の芸大コレクション展だが、今回は文様史研究の小場恒吉という初めて知る人物が取り上げられていたことをここに記録しておく。
円山応挙―革新者から巨匠へ@三井記念美術館 9/26金~11/24月振休
金毘羅宮の襖絵や新発見の若冲との合作屏風が出ていた。後者は日本美術の鉱脈展@大阪中之島美術館に出ていたものである。好評だったらしく閉幕間近、入り口の行列の写真がTwitterに投稿されていた。
仏教と夢 ガンダーラから日本まで@龍谷ミュージアム 9/20土~11/24月祝
開幕から10/26日まで、金剛院の快慶作深沙大将立像が出ていた。龍谷ミュージアムは練られたテーマによる質の高い展覧会をよく開催している印象がある。建物もよい。
嵯峨本の誘惑 豪華活字本にみた夢@慶應義塾ミュージアム・コモンズ 9/30火~11/28金
何ともステキなタイトルである。斯道文庫を擁する慶應の面目躍如といえよう。好評につき会場で配布していたカタログはなくなったようだが、後にpdfが公開された。
https://kemco.keio.ac.jp/all-post/20250930/ ←展覧会ページ
https://kemco.keio.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2025/07/47bf3024389f67baa17e80fe4d03ba7e.pdf ←pdf
