2018年から始めた月刊美術報知を2019年も続けた。報知を見返して数えてみると、今年は64回、美術展に足を運んでいた(便宜上、旅行や合宿は数えづらいので一つとカウントする。ただし、藤田美展@奈良博と一遍聖絵展@京博はそれぞれ数えている)。去年は75回だったのでかなり減っている。秋の院試と年末の卒論に時間をとられてしまった。さて、これらの集計をもとにトップ10を紹介したい。トップ10全てに順位づけするのは、それぞれ展覧会の方向性(何をどうみせるかという方針)が根本的に違ったりするので難しいため、4位以下には順位をつけず月順に並べた。

 

1位、三重の仏像@三重県総合博物館 11月

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 展覧会の情報をみてこれは1位になると期待していたが、やはり。古代から近世にいたる三重県内の仏像を一堂に会する、またとない機会。時代順の展示だが、平安時代が世紀ごとに分かれているところに学芸員のこだわりがかいまみえて好感。平安は詳しくないが、木彫の滋味深さを堪能した。鎌倉以降の像は像そのものもさることながら、納入品に見応えがあった。写真測量図やレプリカの仏像の展示には、文化財に思いを馳せる。像そのものをじっくりみせようという方向性が好ましい。担当の学芸員さんが来場者に解説して回っているのもよかった。ただ、図録の写真がよくないのが玉に瑕。収録論文は充実。

 

2位、岸田劉生展@東京ステーションギャラリー 10月

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 展示室を出る時これは今年のトップ10に入るなと確信した。劉生の回顧展で、彼を知るのに最良の展覧会。首狩り時代の肖像画、静物画、麗子像などにみられる彼が目指した「実在の神秘」に惹き込まれた。回顧展として多くの作品をじっくりみせようというもので、余計な演出や小細工のない展示がとてもよかった。

 

3位、円山応挙から近代京都画壇へ@東京芸術大学大学美術館 9月

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 円山応挙とその弟子たち、さらに近代の円山四条派の作品を画題ごとに並べる。近代にも目を向ける芸大らしい展示である。近代まで範囲を広げることで流派の影響や絵師個人の個性を比較できる構成に見応えがあり、勉強になった。また、大乗寺襖絵をみて応挙の画面、空間処理のうまさを思い知った。

 

国宝 東寺@東京国立博物館平成館 4、6月

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 仁和寺展と同様に出開帳的な展覧会でデジャヴだったが、それでもいいものが出ていた。展示構成はお決まりの前半に寺宝、後半に仏像というもの。講堂諸像はもちろん仮面、神像にも見応えがあった。

 

国宝の殿堂 藤田美術館展@奈良国立博物館 4月

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 いわば館蔵品展なのでストーリー性はあまりなかったが、質の高い文化財が多数展示されており眼福。「曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき」というサブタイトルに違わず、華厳五十五所絵、阿字義、玄奘三蔵絵、両部大経感得図など仏教美術の名品の数々、さすが奈良博である。どこぞの寺の柱が展示されていたのには、藤田伝三郎の気概を感じる。

 目当ての一つである地蔵菩薩像をじっくりとみたものの、それと背中を合わせるように安阿弥様の阿弥陀像が展示されており、表情が厳しめで何か違うなとスルー気味でしっかりみなかったのが悔やまれる。今考えると安阿弥様であった。ちなみに後でみたら快慶展図録にこの像が載っており、全く気づかなかったのだ。ただ、快慶展図録は写真があまりよいものではなく、全てが撮り下ろしの当展図録の図版をみたところ、実見した際の印象に圧倒的に近かったので、気づかなかったのはゆえなきことでもない。写真の重要さを思い知った。ともかくも、もっと勉強せねば。

 

国宝一遍聖絵と時宗の名宝@京都国立博物館 4月

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真教と時衆@遊行寺宝物館、神奈川県立歴史博物館 11月

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 時宗二祖真教上人ご遠忌700年を記念して今年は時宗の展覧会が三つ開催された。展示構成としては大なり小なり異同があるが、一遍聖絵、遊行上人絵巻を軸に祖師絵や垂迹画をみせるという部分で共通するので一括して入賞する。一遍聖絵のよさもさることながら、それにもたれず祖師図、六字名号、二河白道、当麻、熊野曼荼羅、善光寺三尊などをあわせて並べることで信仰のありようをみせる点が鮮やか。遊行に使われる実際の道具を展示するのもよい。仏教美術の展示としてはオーソドックスかもしれないが、こういう展示を味わえるようになれて嬉しい。京博展では頂相彫刻が多く出ており、見比べがいがありかなり見応えがあった。

 

唐三彩@出光美術館 6、7月

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 前史から始まり、唐三彩の繁栄、それを受けて生まれた遼三彩、ペルシア三彩など国際的な展開を、全て館蔵品でみせる展覧会。陶器ばかりなので地味かと思いきや色とりどり、形も様々で面白い。ただ工芸品としてみせるだけでなく、影響や交流のストーリーが軸にあるので飽きさせない。キャプションのコラムでされる技法などの解説も嬉しい。人物俑は彫刻作品としてみると面白い。

 

浄土宗七祖聖冏と関東浄土教―常福寺の名宝を中心に―@金沢文庫 7月

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 仏教史的な内容が強かったので消化不良のところもあったが、信仰と美術を絡めた文庫らしい手堅い展示。後半は常福寺の歴史を宝物によってみせる。天皇との関係を築いたり水戸藩の菩提寺になったりと見応えがあった。

 

遊びの流儀@サントリー美術館 7、8月

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 「遊び」をキーワードに桃山から近世にかけての風俗図を展観する。天井から蹴鞠を吊るしたり的に矢を射ってみたりと、文字通り遊び心が溢れる展示室だった。屏風をガラス寄りに置き細部をみやすくする工夫がとても嬉しかった。美術史的な流れもさることながら、カルタや双六など実際の遊び道具を展示するのが特徴。扇の国、日本展と同様に、テーマ設定のうまさ、有名作品に頼らない出品の塩梅はサン美、自家薬籠中の物であろう。

 

聖徳太子信仰―鎌倉仏教の基層と尾道浄土寺の名宝―@金沢文庫 11月

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 中世の聖徳太子信仰を紹介し、あわせて尾道浄土寺の名宝をみせる。太子を中心に広がってゆく「再解釈」的信仰と尾道浄土寺の歴史を遺品によって一つ一つ物語ってゆく丁寧さが素晴らしい。文庫らしい宗教史と美術史のはざまを往還する自家薬籠中の展示。図録は解説、図版ともに充実。

 

 今年も全て日本美術(唐三彩は東洋だが)だった。去年から続く仏像熱によって仏教美術の展覧会が多い。去年、ダメ押しの大報恩寺展で慶派イヤーがお開きかと思ったら、そんなことはない、快慶、行快仏が相次いで展示された。ありがたいかぎりである。「五文庫連携展示 特殊文庫の古典籍」のような企画があったのも嬉しかった。文化財よ、永遠に展は九博はいけないとして、いけたのは分館と東博だった。ゼミ合宿で泉屋博古館もいけると思ったが、台風で流れてしまった。

 今年は院試と卒論で、そしてぶらびツイート(展覧会の感想)の負担が大きいというのがあって、いけた数が少なかったのが心残りだった。来年はぶらびツイートの負担を軽くする方針である。また、来年からはアーカイブとしての利便性を高めるために、館の表記を統一する方針だ(東博、平成館など)。統一しておくと館で検索する時に便利である。今までの分も統一したい。

 

行きたかった、話題になっていた展覧会

 

 自分がいった展覧会しか記録していないとそれだけで記憶が作られてしまい面白くないので、去年からこのコーナーを設定した。その内、特にいっておきたかったものを拾遺した。一年経ってこうしてみると、フェルメール展@上野の森美、ムンク展@東京都美術館が2019年にやっていたという事実に驚いた。新北斎展@森アーツセンターギャラリーもいかなかったなぁと思いだした。

 

石井林響@千葉市美術館 11/23金~1/14月

フェルメール展@上野の森美術館 10/5金〜2/3日

顔真卿@東京国立博物館平成館 1/16水~2/24日

新北斎展@森アーツセンターギャラリー 1/17木~3/24日

小原古邨@太田記念美術館 2/1金~3/24日

仏像と神像へのまなざし@和歌山県立博物館 4/27土~ 6/2日

いしかわの神々@石川県立歴史博物館 4/27土~6/2日

増山雪斎展@三重県立美術館 4/20土~6/16日

板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 夢のちたばし美術館⁉@千葉市美術館 6/1~6/23

THE BODY―身体の宇宙―@町田市立国際版画美術館 4/20~6/23

室町将軍@九州国立博物館 7/13土〜9/1日

坂本繁二郎展@練馬区立美術館 7/14~9/16

塩田千春展 魂がふるえる@森美術館 6/20~10/27

黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部―美濃の茶陶@サントリー美術館 9/4~11/10

美人画の時代―春信から歌麿、そして清方へ―@町田市立国際版画美術館 10/5~11/24

佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美@京都国立博物館10/12土~ 11/24日

おかえり「美しき明治」@府中市美術館 9/14~12/1

鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開@東京国立近代美術館 11/1~12/15

コートールド美術館展 魅惑の印象派@東京都美術館 9/10~12/15

川上不白 生誕三百年 江戸の茶の湯@根津美術館 11/16~12/23

 

 新北斎展@森アーツセンターギャラリーは日本美術をやる身としてはいくだろうなと高をくくっていたら、結局いかなかった。混雑が理由だが自分でも驚いた。室町将軍@九州国立博物館はみていないので内容はよく分からないがよい切り口だと思う。塩田千春展 魂がふるえる@森美術館がかなり話題を呼んでいたのが記憶に残っている。作家論が好きな人間としては回顧展はいきたくなるものだなと、このリストをみて思った(結局いっていないのだが)。佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美@京都国立博物館はゼミ合宿でいけるはずだったが台風で流れて、個人でいくこともなかった。練馬区立美術館、千葉市美術館、府中市美術館は毎年、回顧展やよい切り口のものを企画してくれるが、毎回書くように中々いきづらい所にあるので遠のいてしまう。

 

※本記事の旧称は「面白かった、この展示 2019」である