「死のうか」
暗く静まりかえった海の前で、僕は小さくつぶやいた。
自分で自分をこれ以上許せない。周りの人たちにもう迷惑をかけたくない。
死ぬ理由はこれで十分だ。
生きていても以前のように戻れる自信はもうない。
精一杯やった。
満足は決してしていないが、後悔もしていない。
もしも世界で一つだけ願いごとが叶えれらるなら・・・
僕は人類の滅亡を心から願う。
人間が行っている文明の発展なんてものは
所詮、人間のためにしかなっていなくて、
そのほかの生物たちから見れば、
迷惑きわまりないとしか言いようがない。
しかも〝殺す〟という行動についても
人減が人間を殺すことについてはとがめられるのに、
人間が他の生物を殺すことについては一切咎められない。
私たちはほかの生物を殺すことによって
生かしてもらっているというのにだ。
一人の人間が生きるためにどれだけの生命が犠牲に
なっているのか人間は分かっていない。
そんなもの滅んでしまえばいい。心からそう思っている。
前世というものはあるのだろうか。
歴史は嫌いだけど、戦争時代の話を聞くと、
なぜかいつも心の底が疼く感じがする。
小さい頃から思っていた。
僕は以前、きっと戦争時代に生きていた。
もしかしたら人を殺したかもしれない。
自分も殺されたのかもしれない。
今思えば、何となしに平和を感じられる環境に生まれてきて
僕は幸せだったと思う。
僕は命を捨てる。
沢山の生命の上に生かされている自分の生命を自ら放棄するなんて
生意気にも程があるけれども、
それによって今後失われていく生命が少しでも助かるのであれば
僕は喜んで自分を犠牲にする。
それだけの期待に応える人生を送る自信がなくなったから。
佐賀北から見れば
〝野球の神様が見てくれていた〟
と言い、
広陵から見れば、
〝甲子園には魔物が潜んでいる〟
と言うだろう。
今回の決勝は僕の中では今まで数多くの試合を見てきた中で
文句なしのベストゲームだった。
なぜなら今、冷静に振り返ってもなぜ佐賀北が勝てたのかが
分からない。
どう考えても広陵の方が実力は上だった。
野村君は今大会一番と言っていいほどの出来だった。
一方、久保君の調子はまったくもって良くはなかった。
それを象徴するように広陵がこの試合で1回表を除く
すべてのイニングで得点圏にランナーを進めた。
一方佐賀北が得点圏に進めたのは1回と得点を奪った8回の
わずか二つのイニングだけだ。
直接見ていた僕としてはあまりにも佐賀北の守りばかりが
長すぎると感じずにはいられなかった。
広陵がことごとくチャンスをつくる。
そして出る会心の当たり!
しかしそこで飛び出る佐賀北のファインプレー。
久保君のボールは明らかに真芯で捉えられているのに、
なぜか入らない得点。
そんな場面の繰り返しだった。
ヒット数にしても広陵は13本も放っていて
さらに死四球も6つ得ている。
一方、佐賀北はヒットわずか5本に
死四球4つだ。
そのわずかなヒットのうちの三本をあのチャンスに集めた。
久保君の飛んだ方向がよかったボテボテのヒット。
続く代打とは思えない新川君のクリーンヒット。
そして四球。
さらには疑惑の押し出し四球。
そして前の打席からスライダーに全くタイミングが合ってなかった副島君。
正直、僕は一球目に振りにいった時点で何してんだ!とキレそうになった。
待ったほうが野村君が崩れてくるんじゃないかと。
しかしそこで奇跡が起きた。
あの場面。待ちに待ったチャンス。
佐賀北の監督が2,3回はあるとあると思うのでそれを必ず生かしたい
と試合前に言っていたチャンス。
佐賀県民なんてそんなに甲子園にいないはずなのに、起こった大声援。
広陵のチャンスのときとは全く違う観客が佐賀に向けた応援。
あのイニング、確かに不思議な空気が流れていた。
球場が一つとなり、プレーする球児たちにわけのわからない力を加えていた。
今思えば、井出君への押し出しフォアボールもその空気に押されて審判が
判定してしまった気さえする。
そして起こった満塁ホームラン!
誰があの瞬間ホームランを打つと考えていただろうかっ!
まさにミラクルチームというにふさわしい幕切れだった。
試合後、広陵の残塁は13。
攻めて攻めて攻めまくったのになかなか点に結びつなかった。
そしてたった一度訪れたピンチで大失点を喫した。
高校野球とはこれだからオモシロイ。