FUERA DE LIGA/2003年(公開は2008年)/ドキュメンタリー/70分
監督・脚本:イアン・パドロン
撮影:エルネスト・グラナード
編集:ルイス・ナミアス
録音:ハビエル・フィゲロア
音楽:ブエナ・フェ
製作:ICAIC
登場する野球選手:
レイ・ビセンテ・アングラーダ、ラサロ・バルガス、ヘルマン・メサ、ハビエル・メンデス、オルランド“エル・ドゥケ”・エルナンデス
そのほか:レオナルド・パドゥラ(作家)
内容
野球はキューバ国民の情熱の対象。ハバナを本拠地に45年以上の歴史をもつチーム「インドゥストゥリアレス」は、別名「青の軍団」とも呼ばれ、アメリカの「ニューヨーク・ヤンキース」や、スペインの「レアル・マドリッド」のような存在。国を二分する人気で、熱烈なファンがいる一方で、敵視する人たちもいる。
本作は、この伝説的チームについての初のドキュメンタリー。
キューバ国内の選手やファンのみならず、アメリカで活躍する選手にも取材している。
本編(英語字幕付き)
※ 本編後半で、音のないシーンがあるが、使用した音楽の著作権の問題により無音になっているらしい。
監督の言葉(2021年のインタビューより)
私が本作を撮ったのは、我が国の野球が抱える問題や、何らかの理由で海外でプレーする選手たちに敬意を払い、認める必要を訴えるためだった。しかし、組織側からの反応はなく、論争や変化は起こらず、それどころか、彼らは検閲し、矮小化し、公然の秘密(注:八百長試合のことか?)を隠そうとした。
あれから15年近く経つが、すべては悪化し、キューバ野球が瀕死の状態にあるのは明らかだ。
Marysolより
本作の製作年は2003年だが、検閲により公開は2008年。
私はたまたま同年(だったか?)「ハバナ映画祭」で観たが、多くの観客が来ていた。
野球音痴のため紹介してこなかったが、WBCの日本優勝の勢いに便乗して…。
監督自身が「インドゥストゥリアレス」チームの大ファンのせいもあり、同チームの人気のほどがよく分かるし、キューバ人の野球熱が伝わってくる。
現代のキューバを代表する作家で、同じく「インドゥストゥリアレス」ファンのレオナルド・パドゥラが頻繁に登場し、コメントするのも嬉しい!
日本人から見たら、上映禁止になるような作品とは思えないが、検閲でひっかかった点を憶測すると:
①1982年にインドゥストゥリアレス・チームが八百長試合をし、約15人の選手が辞めさせられたことを明らかにしている。(その後チームは3年間、不振に悩む)
②2003年当時のキューバでは、許可なく外国に去った人は”裏切者”呼ばわりされていたが、本作ではアメリカに亡命した”裏切者”の選手たちが登場する。
とはいえ、本作を見ると、亡命した選手たちに寛容なキューバの人たちの声も拾っている。
(もちろん、亡命を認めない声もあるが)
個人的には、異国でゼロから人生をスタートさせた選手たちがいかに頑張っているか、活躍しているか知って、彼らの選択を肯定できたし、「自分がキューバ人であることに変わりはない」と言う矜持が印象的。
パドロン監督は製作当時キューバに住んでいたが、まさか数年後に自分もアメリカに移住するとは予想だにしなかっただろう。
本作を見ていて『フルカウント』のテーマと重なる部分もあった。
イアン・パドロンは『ハバナ・ステーション』の監督。
現在はアメリカ在住。
目下、新たな野球ドキュメンタリーを製作中。
追記
始めの方のシーンで〈革命でキューバのプロ野球はアマチュアにとって代わった。それは劇的な断絶だった〉という発言があったが、Wikipediaによると、1961年3月にカストロのプロ禁止命令を受け、プロ野球リーグが解散。その後の1962年1月にアマチュアの野球リーグが設立された、とのこと。「インドゥストゥリアレス」の歴史がそれほど長くない理由が分かる。
★タイトルの意味
タイトルの意味が分からなかったので、マリオ先生に尋ねたところ「別格」(格が違って優れている)という意味があるそうです。
Estar “fuera de liga” en Cuba se entiende como algo de mucho más nivel o calidad que la media. 英語のout of leagueと同じなんですね。
ただ「リーグ外」という意味もある気がするし、気になるなぁ。
☆選手たちの亡命は90年以降。「非常時」の深刻さ・歴史的転換期をここにも感じます。
「90年以降、キューバ人のメンタリティは変わった。もう以前と同じではない」という言葉が重く心に残ります。