映画『口笛高らかに』:予告と22年後の現実 | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
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今月16日、サン・イシドロ・ムーブメント(MSI)は「キューバのビダ(命・人生)と自由のために夜9時に口笛を吹こう」と、下の動画と共に呼びかけましたが、この呼びかけの背景には、フェルナンド・ペレス監督の映画『La vida es silbar(邦題:口笛高らかに>直訳:人生とは口笛を吹くこと』(1998年)がありました。

なぜなら、ラストシーンで語り手の少女ベベが「2020年にハバナの人は皆、完ぺきな幸福に達する」と予告するから。ただし「そのためには、皆が口笛を吹かねばならない」と。

 

この動画で口笛を吹いている人たちはMSIのメンバー。

彼らがFBにアップしたようですが、確かに『口笛高らかに』(1998年)のシーンがミックスされています。

 

それから数日後、今度はこんな動画がアップされました。

 

作成者は、パベル・ウルキサという名のミュージシャン(MSIのメンバーか?)

ルイス・マヌエル・オテロを始めとする出演者(MSIメンバー)が、唇をキューバ国旗の色に塗り、口笛で「バヤメサ」を吹き、手拍子やスプーンでルンバのリズムを刻んでいます。

〈国歌〉ならぬ〈国口笛〉

 

ちなみに、この動画をインスタグラムでシェアしたルイス・マヌエル・オテロは、次のようなエピソードを披露しています。

12才(小学生)のとき、クラスの皆が静かにしているなかで、「バヤメサ」を口笛で吹いたら、先生と校長(両者とも女性)からひどく叱られた。子供の口笛が、最も厳格な組織を揺るがす。なぜなら人生とは口笛を吹くことだから。

 

さて、ここで『人生は口笛を吹くこと(邦題:口笛高らかに)』が、どんな映画だったか、ざっと振り返ってみましょう。

a) 作品紹介 

*それぞれ葛藤を抱え苦悩する3人の主人公が、幸せに向かって一歩踏み出す決意をし、運命の日12月4日を迎える。語り手の少女の名はべべ。

 

b) 作品ノートより

作品のテーマは《幸せ探し》だが、ペレス監督いわく、「幸せとは何かを定義するつもりはなかった」、「その過程には多くの困難があり、人によって幸福の感じ方も違うはずだから、幸せを求めるとはどういうことかを描こうとした」

 

映画の最後でべべ(語り手)が「2020年キューバ国民は全員が幸福になっている」と言う。

なぜ2020年にしたか?

監督:「ちょうど読んでいた『ノストラダムスの予言』に“2020年に世界は変わるだろう。人類にとってより良い道が見つかるだろう”と書いてあったから。そうあって欲しいと願っている」


ペレス監督: 私は革命を信じている。なぜなら、それはより良い人間への可能性であり、より公正で開かれた社会を達成する可能性を秘めていると思うからだ。もしドグマや図式化、官僚主義、現実の縮小化に変わってしまったら、信頼しなくなるだろう。
私が夢見るハバナは、我々の現実の多くの部分が大事に受け継がれ、ハバナの人たちがそれぞれ思い思いの音色で口笛が吹けるところ。アメリカナイズされた、軽薄なハバナはゴメンだ。矛盾したハバナもいいと思う。『口笛高らかに』の台詞にあるように、人生は決して完璧ではないのだから。

 

c) マリオ先生のコメント

キューバの現実とは無縁の観客にとっても、この映画が幸せや幸せに届くための努力について語っていることは明らかなはずだ。
いや、‘幸せ’というより、完全なる自己実現、もしくは“自分自身でいる”可能性を妨げるものすべてを拒否すること、について語っていると言えよう。

 

主役の3人が革命広場(ハバナで最も有名な広場)で再会する12月4日とは、まさしくサンタ・バルバラを祝う日に当たる。
この日、全員が個人の自由な行動として、革命広場に行かなければならない。そこが重要な点である。なぜなら、個人の解放、自分自身であることが、政治を超えた何か、自分の人格や、抱え込んでいる亡霊、各自の思い出との接触を通過すべき何かになるからだ。

この映画は、人間としての個人の大切さを経由する道、個性を経由する道を指し示している。

 

監督は、実の娘(女優ではない)を水中や虚構的な場所で話す“不思議な人物”として登場させている。果たして、この娘の声は監督自身の声なのだろうか?

 

本作の特徴は、対話。観客との対話であり、キューバ性との対話。

 

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最後に、映画が予告した2020年が終わろうとしている今、ペレス監督は本作をどう見ているでしょう?

     

     ペレス監督インタビュー:「27Nは未来への旅だ」(2020年12月16日)より

 

「あの(ノストラダムスの?)予言は、人類史上、最大の間違いだった。キューバに限らず、全世界にとって逆方向に転換した。人類は出口のない横丁(それは自然を考慮しない発展の果て)に直面している。コロナの流行は、不平等と不正の増す世界を表している」。

 

「『人生とは口笛を吹くこと』の意味は、各個人の幸せはそれを追求するプロセスにこそある、ことだ。

それは建設的なプロセスで、認識と感性から成り、自分自身と他者の幸福を追求する道を通る。幸せの意味は人によって違うが、それぞれの幸せを理解せねばならない。我々の世界と現実は多様で色々だ、と理解することから、皆の幸せが始まる。人それぞれ違う。だが、その空間をシェアしなければならない。そこにキューバは到達せねばならない。憎しみ、過激主義、教条主義、弾圧、表現の不自由が原因のすれ違い(意見の不一致)が続いてはダメだ。争いが生じ、続くだろう。

土台になるのは、他者への理解だ。現時点で対話が継続しないのは、そこにある。

だが、可能性はある。