カルロス・M.キンテラ監督インタビュー | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

いよいよ来月3日から公開される映画『東の狼』

監督はキューバ映画の新世代を代表するカルロス・マチャード・キンテラ     

           

 

私はこの時からずっと楽しみにしていて、遂に先月ハバナ映画祭で見ることができました。

https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12336998712.html


今回は、昨年11月8日付けのOncubaに掲載された記事を元に、個人的にお届けしたい情報をまとめてみました。(写真も同記事より拝借)

 

1)ストーリー
  奈良の東吉野村に住む年老いた猟師のアキラは、ニホンオオカミの幻影に取りつかれ、仕事も仲間も失ってしまう。彼は狼に対する常軌を逸した妄想と、かつて船乗りだった頃に旅したキューバの思い出に蝕まれている。そして、生存する最後のニホンオオカミを探して、さらに吉野の山奥へと分け入っていくのだった―。

 

2)シナリオについて
  監督いわく「『東の狼』のシナリオは、僕とアベル・アルコスとファビアン・スアレスの3人で手掛けた。もちろん河瀨直美氏(プロデューサー)を始め周りの人の意見を聞きながら。

また、様々な作品を参照した。黒澤明の『デルス・ウザーラ』、アンブローズ・ビアスの『フクロウの河(El incidente del Puente del Búho)』、今村昌平の『うなぎ』、クリス・マルケルの『ラ・ジュテ』、そして原点となった『キューバの恋人』。
世界の反対側で映画を撮るという挑戦に立ち向かうための方法を見つけようとしたんだ」。

 

3)原点は『キューバの恋人』 (黒木和雄監督/1969年)
    「東吉野村は日本の真ん中にあって、山に囲まれ、神社がたくさんあり、木が生い茂っている辺鄙な場所で、いわばキューバのシエラ・マエストラみたいな所だ。そこには、最後のニホンオオカミの像が立っている。なぜなら最後に野生のニホンオオカミが目撃された場所だからだ。けれども、ストーリーが湧いたのはそこではない。僕もアベル・アルコスも黒木和雄監督の『キューバの恋人』をよく知っていて、この映画を取り入れ、お返しをしたいと思っていた。この挑戦を受け入れ、11か月以内でシナリオの執筆から準備、撮影をこなすにあたり、我々を支える唯一の拠り所だった」。

                                   

      『キューバの恋人』のアキラ(津川雅彦)とマルシア(オブドゥリア・プラセンシア)

 

4)主人公アキラ
  「僕たちの頭には始めから『キューバの恋人』の(主人公)アキラという人物像があった。それで『東の狼』の主人公の名前も同じにし、そこから色々と想像したんだ。40~50年後の彼はどうなっているだろうか? 何を残し、何を捨て、どんな土地に彼を潜り込ませようか?と」

 

5)藤竜也さんのこと 
  キンテラ監督は、この映画の大部分を主演俳優に負っていると感じている。
「藤竜也さんに対する賞賛の思いと、彼が僕に寄せてくれた信頼が、僕にこの映画を撮らせてくれたと言っても過言ではありません」。

「藤さん(皆からそう呼ばれていました)は厳しい人ですが、その日本的な態度の裏に大きな優しさを秘めている方です。当初は畏敬の念だったのが、次第に彼のことが大好きになり、正面から向き合えるようになり、僕のラム酒と彼のウィスキーのソーダ割を交わすようになりました。そして彼がハバナに旅した時のことや、『愛のコリーダ』で演じた役のことを思い出しもしないとか、偶然にコマーシャルに出ることになって俳優を志したことなど、色々な話をしてくれました。おそらく16日間の撮影中に皆が聴いた唯一のスペイン語は〈アクシオン〉で、それが言えたのは彼のおかげです」。

                

「撮影が始まって3日か4日目のことでした。藤さんが僕のそばに来て『日本では大きな声で〈よ~い、はい!(=アクション)〉と言うんだよ』と、日本語で何度も繰り返してくれたんです。でもすぐに僕の日本語では無理だと気づいたのか、「スペイン語では何と言うの?」と訊いたんです。僕が答えると、藤さんは『じゃあ毎回僕にスペイン語で言って。大きな声で。魂が体内に宿るのを感じたいから』と言ったんです。その日から何もかもがずっと上手くいきました。明らかに、藤竜也からアキラになるために、魂を感じることが必要だったのです」。

 

6)日本での体験
「今回の映画作りは、確かにプロとしては充実したものだったが、文化的見地からは、余りにも時間的にタイトでリスキーだった。日本のセットはすべてが然るべく準備されていて、創造の余地がない。インプロビゼーションの場が極めて限られている。魔的瞬間さえリハーサルされる。文化の全く異なる国から来た僕には、そうした(インプロビゼーションの?)瞬間が必要だった。だが一方で、効率的であることを学んだ。と言っても、それは製作プランを全うするための効率性ではなく、もっとそれ以上のことだ。僕には今それが良く分かるようになった」。

 

                  

 

7)『東の狼』とキューバ及びこれまでの自作との関係
  「すべてを決めるのは状況で、それなしにストーリーはあり得ない。この映画に対する僕の解釈は、突拍子もないかもしれない。が、今は言わないでおく。まず映画を見てもらい、皆の感想を聞いたうえで、僕の見解をシェアしたいから。ただ、僕は今こんな風に感じている。『東の狼』の足元で生まれようとしているキューバ映画があると。

 

※ ちなみに『東の狼』は、キューバ人監督が日本で日本人の俳優とスタッフと撮る初めての日本語のフィクション映画。

  従来のキューバ映画とはほぼ無縁の作品。
※ キンテラ監督にとり「キューバに限らず、声がかかればどこでも映画が撮れることを示す機会だった」。

 

8)次回作について
  「これまでよりも野心的な映画、ブラックで不条理なコメディが撮りたい。アメリカに移住しようとする祖母と孫たちが、最も遠回りなベーリング海峡を渡る間に、不法移民に対する優遇措置の失効する日が迫ってくる。ところが、彼らはそれを知らなくて…」

 

※ 余談だが、 プロデューサーを務めた河瀨直美は、2016年7月にキューバの国際映画テレビ学校から招かれ、シネ・エッセイのワークショップを行っている。