『ビハインド・ザ・コーヴ』:映画で映画に反論する | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

先週金曜日、『ビハインド・ザ・コーヴ』を見てきました。
動機は、半年前、キューバのY(日本の文化、特にマンガやアニメを研究している女性)から次のような質問を受けたからです。

「私は日本の伝統や文化にとても敬意を抱いています。日本人の思想は、自然との調和に基づいています。それなのに、なぜ捕鯨を続けているのか理解できません。ネットで映像を見たのですが、この問題について日本人はどう思っているのですか?」

思いがけない質問に、私は「捕鯨は日本の古くからの伝統」であり、「小学生のときには給食で鯨の肉を月に1~2回は食べていた」ことや「反捕鯨派の活動は過激に思える」という素朴な意見に加え、「映像を見てみたい」と返信しました。

送られてきたYoutubeの画像は、残酷で正視するのが辛いものでした。
それで「捕鯨を続ける必要があるかどうか分からない」という疑問と共に、「これ以上答えるには、もっと情報や知識を得る必要がある」と返信しました。

その直後です、本作の存在を知ったのは。
〈カナダ・モントリオール映画祭に出品が決まった〉と新聞に大きく報道されたからです。
以来、日本での公開を楽しみにしていました。
もっとも、2010年にアカデミー賞を取った『ザ・コーヴ』は未見ですが・・・



映画の内容については、こちらを参照してください。
K's cinema(終了しましたが)の作品紹介

いやぁ、相変わらず何の予備知識もなく出かけましたが、意外なことだらけでした!
縄文時代に遡る鯨漁の歴史から、無駄のないエコロジカルな利用法、飽食の現代日本が忘れていた戦後の食糧危機、それを救った鯨肉、オスカーを獲った『ザ・コーヴ』のインチキ、おかげで迷惑を被っている太地町の人々、反捕鯨家の、そしてアメリカの一方的な“正義”の押し付け、暴かれる政治的策略・妥協!

さらに、監督の率直な言動や緻密な調査、フットワークの軽さと驚くべき行動力にも感心していたら、なんと当日は最終上映日ということで、監督本人がご挨拶に登場。
挨拶というよりは、まるで映画の続きのように、ほとばしる思いや経験談を披露してくれました。

お話を聞きながら最も感銘を受けたのは、反捕鯨派の脅しや執拗な嫌がらせにも屈せず、映画上映を通して反論を続けている姿勢。

日本人の意見や物言わぬ人々の心情を丹念に拾い集め紹介し、映画を武器に闘う八木景子監督は、元気で頼もしく、小柄だけれど肝っ玉の大きな人でした。
私を含めこの映画を見た人は皆、ちょっと背中を押してもらった気がするのではないでしょうか。
物おじせずに自分の意見や疑問を発すること、一歩前に踏み出す勇気をもらったのでは?
とりあえず、私もキューバのYに伝えようと思います。この映画を通して知ったことを。

もうひとつ大事なこと。それは「報道の裏(ビハインド)を想像すること」
報道を鵜呑みにせず、「おかしい」と思ったら、自ら考え、真相を知る努力をすること。

「なぜ?という疑問に、納得できる答えがあれば、この映画は作らなかった」と監督は言っていましたが、実際〈何は食べて良くて、何はいけないのか〉、答えをもっている人は誰もおらず、面と向かって反証しに来る反捕鯨家はいなかったそうです。

実はこの映画を見ているうちに、キューバがダブりました。
60年代初め《革命を貶めようとする米国が発信する、偽りの報道に反論するため》映像や表現活動で闘ったからです。
(これについては、別の機会に書きたいと思っています。その変遷についても。)

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以下は上映後の監督トークのメモ

① きっかけは、2014年にオーストラリアから商業捕鯨が禁止されたこと。
「なぜ?」という疑問に納得できる答えが得られず、むしろ問いが増えていった。
 
② シナリオのない、まさに生(なま)の映画作り。
ヤラセは一切なく、反捕鯨家たちの本音を引き出した。
「報道の裏(ビハインド)を想像すること」が大事。

③ 反捕鯨団体の映像は、ヤラセ(海を真っ赤に見せる)、偽証(船をぶつけてきたのに、ぶつけられたと“証言”したり、肩書を偽る)が混じり作為的(でっち上げ)。
『コーヴ』=残虐=日本人というイメージ(アイコン化)

④ 「シーシェパード」は海の生物は食べないと言うが、そうすると食糧は家畜に依存することになり、森林伐採に通じる。地球のために何が良いのか?答えられる人はいない。

(ちなみにMarysolの知人いわく「地球のために一番良いのは人間がいなくなること」。
確かに人間はいちばん傲慢で身勝手な生きものだと思う。)

環境保護、動物保護を唱える人は、本当に保護者なのだろうか?
グローバルに調べて語って欲しい。

⑤ ロン・ヤス会談で、日本が捕鯨を止めなければ、車の輸出規制をすると脅した。
ロケットやミサイルには鯨の油が使われているが、言及されない。

⑥ 上映を妨害しようとする反捕鯨派からサイバーアタックを受けた。
しかし彼らは面と向かって劇場に反論しには来ない。

⑦ 「見ザル、言わザル、聞かザル」というが、私たちはサルではない。
黙っていて良いのか?なぜ反論しないのか?
映画を見た外国の観客は「日本人がよく喋る」ので驚いていた。

⑧ 火山帯の小さな島の日本の食糧自給率はわずか3%で、いつ食糧危機に見舞われるか分からない。鯨が大切な蛋白源である事実は、未来においても変わらないし、自らの食文化を守ることは大切。