「卵と壁」― キューバ革命はシステムと化したのか?(2) | MARYSOL のキューバ映画修行

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MARYSOL のキューバ映画修行-ミゲル・コユーラ
前回のブログで書いたように、


村上春樹氏の『卵と壁』(エルサレム賞受賞スピーチ)を巡って、ミゲル・コユーラ(『続・低開発の記憶』製作中/N.Y.在住)とチャットした内容を、本人の許可を得て一部ご紹介します。
彼が製作中の映画や、他人のプライバシーを損なう部分は、省きます。
ちなみに以下のチャットは、一昨日、ブログ更新前に交わしました。



Marysol(以下M)
オラ、ミゲル!

ちょうど良かった。訊きたいことがあったんだ。
今度、EICTVから出版されるらしいアレアの本のこと、何か知ってたら教えてよ。
その本にJAGBが序文を書いてるんだけど、その中にアレアの印象的な言葉が引用されてるの。
「多くの知識人たちが社会階層として自殺する決意を厳かに宣言していた」って。
この気持ち、理解できるよ。当時の知識人たちは、あなたのお父さんもそうだったと思うけど、ようやく手にした真の独立国家に命を捧げようとしたんでしょ。
ミゲルは、このアレアの言葉、どう思う?


ミゲル・コユーラ(以下 C)
オラ、Marysol.
その言葉は初耳だな。
ある特別な時期の産物だと思うよ。
確かに僕の父は、革命に一生を捧げる気でいたけどね。
でも革命はずいぶん前にそうではなくなったから……
革命というのは、常に変化することなんだよ。
革命が革命であり続けるためには、革命そのものを再創造(re-inventar)しなければならないんだ。
M:
同感。アレア(監督)も同じ事を言ってたね。
C:
キューバ革命はもう随分と前から停滞している。
『続メモリアス(低開発の記憶)』では、セルヒオ(主人公の亡命キューバ人)が、アメリカ人の学生に向かってそういう話をするシーンを入れた。
でも、もう彼の世代は、また新しく何かを始めるには年を取り過ぎている。
第一、老齢の革命家なんていないと思うよ。
革命というのは、人間の人生のなかの一段階で、ある特定の時に限って、大きな変革をもたらすことが出来るかもしれない。
でも、再度変革するとか、毎度違うことを起こすなんて不可能なんだ。
M:
実はね、革命が停滞してしまった理由について、私なりに分かってきた気がしてるの。
きょうこれからブログに書いてみようと思っているんだ。
日本の作家、村上春樹がイスラエルで行ったスピーチがヒントをくれた。
C: 
フィデルは確かに革命家だった時期があるし、若いときに社会を変えた。
だが、その後自分自身を乗り越えることが出来なかった。
権力構造が出来上がると、すべてが滞ってしまった。
きっとだからこそチェは戦うことを選び、ボリビアに行ったんだ。
それが真の革命家だと感じられる唯一の選択だったから。
M: 
権力構造のことを村上はシステムと呼んでいるの。
C: 
なるほど。
M:
そして、「卵と壁」という比喩を使って、システムがいかに容易に人間を潰してしまうか説いている。
革命もひとたびシステムと化すと、国民を圧迫しかねないんだと思う。
村上は、自分は常に「卵」の側に立って書くと言っている。
なんか「卵(ウエボ)」ってスペイン語では変な意味に聞こえちゃうけどね。
ハハ・・
私、セルヒオの抱えるジレンマとそれに共感する気持ちを、「卵と壁」の比喩を借りて書いてみようと思ってる。幸いきょうは時間があるから。
C:
その通りだね。
M:
あとで村上のスピーチの英語訳を送るね。参考になるかもよ。
ちょうど新作も出版されたところなの。すごい話題になってる。
どうやらその小説でも「卵と壁」のテーマを扱っているらしいんだ。
ところでアレアは、「革命はシナリオは完璧だが、演出が最悪だ」って言ったそうね。
C: 
そう、「シナリオは良いけど、演出が悪い」。
M: 
役者が悪いってこと? 演出を変えればいい?
C: 
僕はそんなに良いシナリオだとは思わないな。
プロットと粗筋は良いかもしれないけど。
フィデルは最高の役者だよ。
M: 
今も?
C: 
でも演技だけじゃ生活できないんだよ。彼はずっとそうだった。
M: 
“Puro teatro(全くの芝居)”っていう歌があったね。
C: 
すべて演技だ。
M: 
ところでキューバで『続メモリアス(編集中)』の評判はどうだった?
C: 
良かったよ!XX監督も気に入ってくれた。
M: 
今年のハバナ映画祭で見られる?
C: 
新人監督の映画祭なら可能性があるかな?
でも、マリア・ロサが「マリエル事件」のシーンにショックを受けていた・・・
M: 
だって事件のこと、知ってるでしょ?
C: 
でも知らないディテールもあったから。
M: 
現実を直視できなかったのかも。
C: 
暴力的なシーンとかね。
そういえば、映画学校で暴動のシーンを撮ったよ。
M: 
出て行こうとする人を罵るのを見ると、すごく胸が痛む。
アレア監督の娘も、マリエルで国を出たのよね。
アレアはすごく辛かったみたい・・・
ところで、キューバはどうだった?
C: 
大事な変化はなし。今までどおりだよ。
M: 
ビエンナーレは?
C: 
ファベーロのゴキブリがすごく気に入った。だから今度の映画に入れるんだ。
M: 
私もファベーロ大好き!
あ、今度 日本の若いアーティストの展覧会の写真とかも送るよ。
C: 
ああ、また日本に行けるかなぁ

このあと、延々と製作中の映画『続・メモリアス』の原作と違う部分を話してくれる・・・

M: 
ゼンゼン変わっちゃったじゃない。それじゃ、もう原作とは別の話だね。
まさに『低開発の記憶』(1968年)から40年後のキューバなんだね。
日本で観られるのを待ってるからね。
C: 
映画祭で訪れた国のなかで、東京とベニスが一番好きだよ。
M: 
期待して待ってるから、焦らず良い作品にしてね。
C: 
うん。もうあと残りわずかだ。



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