『悪魔のアコーディオン』とマルケスの世界 | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

コロンビア・日本外交樹立100周年を記念し、先週金曜日からきょうにかけて、

セルバンテス文化センター東京で「第1回ガルシア・マルケス会議」が開催されました。私は講演会等には参加しませんでしたが、これを機にぜひ“マルケスの世界への優れた誘導役”を務めてくれる“ドキュメンタリー映画” を紹介したいと思います。


『悪魔のアコーディオン』 2001年/スイス=ドイツ/84分悪魔のアコーディオン
監督:シュテファン・シュヴィーテルト
出演:フランシスコ・パチョ・ラダ、アルフレド・グティエレス他


スイス出身のシュヴィーテルト監督は19歳のときに『百年の孤独』を読み、強い衝撃を受ける。

映画監督になった彼は、35歳のときに念願の小説の舞台(サンタマルタの村)を訪れる。

ところが実際に彼がそこで感じたのは、“魔術的”というより、むしろリアリスティックな印象。

いやはや「事実は小説と同じくらい奇なり」だったのだ!


というのも、小説に登場する“フランシスコ・エル・オンブレ(小説では200歳前後)”が、92歳のアコーディオン弾き(&シンガーソングライター)として目の前に現れただけでなく、人々は「パチョ爺さん(フランシスコの愛称。右下の老人)の曲の魅力とアコーディオンの腕前たるや、勝負を挑んだ悪魔が降参したほどだ(その栄誉を称えて“エル・オンブレ=人間様”と呼ばれている」と語る。しかもパチョ爺さん、確認できただけでも孫が441人もいるというではないか!
ファンタジーが日常の生活に根付いている様子に魅了された監督は、カメラを回し始める。

Pacho Rada
“ドイツ生まれの楽器アコーディオン”が、カリブ沿岸の人々の手に渡り、独自のリズム、メロディ、演奏法が生まれたこと。

その音楽は彼ら(マルケスも!)の生活や伝統に欠かせない存在になったこと。

さらに、カリブ沿岸という、コロンビアのなかでも特異な文化や伝統を持つ風土の魅力や神秘。


<『百年の孤独』とは350ページのバジェナートだ>
というマルケスの言葉が、ストンと納得できてしまう― そんな“魔術的”なドキュメンタリーだ。


付録:
小説『百年の孤独』で、パッチョ爺さんが登場する場面:
「数ヶ月たったころ、自作の歌を披露しながらちょくちょくマコンドを通りかかる流れ者で、年齢二百歳にも達しようかという老人、フランシスコ・エル・オンブレがふたたび町を訪れた。その歌の中でフランシスコ・エル・オンブレは、マナウレから沼地にかけて道中の村や町で起こった事件のニュースを、微に入り細に入り語って聞かせるのだった。したがって、伝えてもらいたいことづてがあるか、世間に広めたい出来事を知っている者がいれば、彼らは2センターボのお金を払って、レパートリーにそれを加えてもらった。ウルスラが母親の死を知ったのも、たまたまある晩、息子のホセ・アルカディオの消息でもわからないかと思って、その歌を聞いていたおかげだった。即興の歌くらべで悪魔を打ち負かしたというので、<人間様/エル・オンブレ>と呼びならされていて、その本名は誰も知らないこの男は、不眠症が流行しているうちマコンドから姿を消していたが、ある夜、何の予告もなしに、ふたたびカタリーノの店にあらわれたのだった。」


Marysolの証言
ドキュメンタリー映画『悪魔のアコーディオン』は2002年にシネフィル・イマジカでテレビ放映されました。