「 東京〜関門海峡1,100km殺人 」 (2005年)
(ゲスト)
須磨幸恵…高橋ひとみ、 須磨公彦…金田明夫、 須磨葉子…奥田佳菜子、 須磨咲子…奥田綾乃、 須磨キク…市川千恵子、 野田修次…石丸謙二郎、 三隅昇…上杉祥三、 篠崎…山崎一
オープニング。蓉子さんも深見さんも登場しない。神谷さん回であることを象徴するように、物語は警視庁からスタート。
神谷さんは、来月の警視昇進選考に向け、上司へのゴマすりに勤しんでいる。
そんな神谷さんへ、高校時代の同級生である須磨公彦から、”東京に出てきているから会えないか”という電話がかかってくる。神谷さんは、”先約があるから会えない、今度、同窓会には出るから話ならそこで聞くよ”とお断り。その先約というのは、上司の接待。国代:「自分なら友達に会う方を選びますけどね。あーやって、友達なくしていくんでしょうね」、東山:「神谷に友達いねぇもん」と上司をディスりまくる。「あっ、一人だけ。全然ウマが合わないのに、友達だっていう人、いるわ」という流れで、場面は夜明さんへ。
「不景気だなぁ。なんかびっくりするような長距離の客、いねぇかな」というフラグセリフを吐く夜明さんに、ロングの神様が遣わしたのが須磨葉子(14歳)。山口県下関まで、と言う葉子に、夜明さんは、「下関に行くんだったら、新幹線で乗って行きなさい。タクシーだったらいくらかかると思ってんの?」と番組の根幹にかかわる言葉を投げる。
それでも、夜明さんは、お金がないという葉子を心配して、交番に連れて行ったり(でもお巡りさんが不在)、ラーメンを食べさせたり、と人の好さが滲み出る対応。挙句、家に電話もしてあげて、母親である須磨幸恵から”目を離したら、またいなくなってしまうかもしれない、心配だからタクシーで下関まで連れてきてほしい。料金は必ず払うから”と頼まれ、断れず、引き受けることに。
この仕事のせいで、あゆみちゃんと翌日に会うはずだった予定をキャンセル。あゆみちゃんの誕生日で、フグをご馳走してあげる予定だったらしい。あゆみちゃん、ちょっとお怒りだけど、ほしいバッグがあるからそれで許してあげる、と現金な対応。お値段は、フグ2匹分らしい。単位がフグになっちゃってるのが可笑しい。
葉子が一人で東京に出てきた理由は、失踪した父親を捜すため。
葉子を送り届けた先は、団地。出迎えた幸恵が「どれだけ心配したと思っているの!」と一発ビンタ。
場面は変わって、「山口県立長府西高校同窓会」。
久しぶりに同窓会に出席した神谷さん。須磨に関し、経営していた会社が乗っ取られ失踪した、ということを初めて聞き、驚く。乗っ取ったのは、同じく同級生の野田が勤めている西日本コーポレーション。
「ごくらく~、ごくらく~」と宿泊するホテルの大浴場に入っている夜明さん。そこへ「夜明さん!」と驚きの声を上げて神谷さん登場。
神谷さんは両親がすでに亡くなっているので、同窓会に出席してもホテル泊。そのため、夜明さんと遭遇したらしい。「同窓会終わったの?」「二次会に出る気になれなかったもので」「お前付き合い悪いもんな」と言いながら、神谷さんの表情から「なんか、あったか?」と気づく夜明さんは、やっぱり神谷さんの唯一の友達だと思う。
ホテルの部屋で神谷さんの話を聞いてあげる夜明さん。須磨から電話が来たとき、会ってやるべきだった、と後悔を口にする神谷さん。夜明さんが「須磨」という言葉に反応し、夜明さんが送ってきた葉子の父親が、神谷さんの同窓生である須磨であることが判明。
その直後、須磨が停車している車の運転席に座っていたが、その車が爆発・大炎上する映像。
翌朝、夜明さんと神谷さんが夜明さんのタクシーで須磨の家へ。神谷さんが「須磨の家はこっち」と夜明さんを案内した先は、夜明さんが葉子を送り届けた団地とは似ても似つかない大きな旧家。幸恵は長府毛利五万石の代々家老の家柄で、須磨はそこへ入り婿した、と説明する神谷さんだけど、その伝統と格式の須磨家が売却されていたことにショックを受ける。
夜明さんの案内で、葉子を送り届けた先を訪れ、幸恵と再会する神谷さん。神谷さん、須磨、野田、三隅は高校時代、同じ剣道部に属していた。部員は、顧問が開いていた道場にも通っており、その道場にいたのが幸恵。
須磨の会社が乗っ取られた経緯を幸恵が説明。須磨の会社はもともと居酒屋を20店舗ほど展開していた。野田の口利きで西日本コーポレーションと業務提携し、野田と三隅が会社に入り込む。しかし、提携後、西日本コーポレーションは須磨に赤字会社を押し付け、その会社が3億円の不渡りを出し、須磨は経営権を放棄させられ、会社から追い出された。
それでも須磨は、家を手放してお金を作り、やり直そうとしたが、そのお金を野田が三隅が持ち逃げ。それで心が折れ、須磨は失踪。
爆発・炎上した車に炭化した遺体が残された件について捜査する東山と国代。近くに残されたカバンから須磨公彦の免許証が出てきたことにより、東山が幸恵に電話。神谷さんが代わりに出て対応。幸恵とともに東京へ戻り、遺体を確認。
遺体の損傷が激しいため、遺体からの同定はできないが、須磨がガソリンを購入した形跡があること、遺留品、遺書らしきメモがあったことから、須磨が自殺をしたとして事件扱いにはならなかった、と夜明さんに報告する東山たち。神谷さんは、ショックを受けてしょげている、とも。
翌朝、出勤準備中の夜明さんの下へあゆみちゃんが訪ねてくる。プレゼントは?と言うあゆみちゃんに、下関土産の「ふく饅頭」を渡す夜明さん。誕生日のお祝いをお饅頭で済ませようとしてるんじゃないでしょうね、と警戒し、バッグは?とキョロキョロ部屋を見回すあゆみちゃんが、現金だけどかわいい。
野田に会い、須磨が死ぬ原因を作ったことを責める神谷さん。「神谷よぅ、お前、須磨と20年会ってないそうじゃないか。お前こそ、それでも友達なのか」「俺は須磨を裏切ったりしない」「きれいごと言っても、仕方ないだろ。立場が変わり、利害が変われば敵になる」。俺は仕事をしただけ、と言って去る野田。
学生時代の同級生って、日常的な付き合いが継続していると、大人のしがらみによって関係が変質する場合がある。疎遠である方が、何かあれば学生時代の人間関係(思い出補正もあるし)に戻って助け合える、そういうことなのかもしれない。
幸恵から夜明さんに迎車の指名。須磨が亡くなった場所へ案内してほしいという依頼。
神谷さんがショックを受けていること、事情を知っていたらきっと須磨に会いにいってたはずであること、を幸恵に話す夜明さん。こういう友情、いいなぁ。
車内でさらに「どうして刑事をお辞めになったのですか」の話。娘が一人いるので、葉子ちゃんのことを放っておけなかった、と話す夜明さん。夜明さんの行動の原点にはあゆみちゃんがいることが多い。そういう夜明さんが好きだ。
幸恵に誘われて、幸恵とお茶する夜明さん。幸恵は、昔、神谷さんのことが好きだった、神谷さんは高校を卒業後上京、家を守らなければならない自分は山口を出ることができなかった、と夜明さんに告白。
だけど、須磨ほど誠実な人はいない、須磨と結婚して幸せだった、とも話す幸恵。今は、小倉のクラブで働いて、生活費を稼いでいるとのこと。
野田が殺される。
夜明さん宅を訪れる東山たち。眠っている夜明さんの布団を引っぺがして、野田が殺されたことを報告。
続いて神谷さんも駆け付け捜査会議。野田の携帯に、三隅から”会いたい”というメールと、それを拒否する野田のメールが残されていたことから、神谷さんは三隅が怪しい、須磨も自殺ではなく三隅が殺したのではないか、と推理。
これに対し、須磨は自殺以外に考えられない、それよりも野田殺しは幸恵が怪しい、と口にした東山を「ばか!」と怒鳴りつける。こういう点(かばい芸)でも、今回は、神谷さんが主人公回だなぁ。
野田の死亡推定時刻が、幸恵が夜明さんと一緒にいた時間だったことから、幸恵は容疑者から外れる。
野田と三隅の関係がどうだったのか、野田を恨んでいる人物がいないか下関で捜査する、という東山の話を聞いて、ヨシッと張り切る夜明さんだけど、今回は新幹線で行く、ときっぱり拒否する東山たち。
拒否されても、神谷さんのことが心配で(でも、幸恵さんと葉子ちゃんの様子を見に来ただけ、とか言っちゃうけど)、仕事を休んで東山たちにくっ付いて新幹線で下関へ行ってしまう夜明さん。他人が運転するタクシーに乗り込む夜明さんが見られる貴重な回。
東山たちが須磨の同級生たちに聴き込んだ結果、幸恵が須磨に多額の保険をかけていたこと、野田と幸恵が二人きりで会っていたこと、が分かる。
須磨家を訪れ、線香をあげる夜明さん。狭い団地ながら掛け軸がかけられていたり、応対するキクの様子がとても上品だったりと、さすが旧家という雰囲気が感じられて、いい。
須磨の写真の隣に高校生くらいの女の子の写真。キクや葉子から、その女の子は葉子の姉の咲子で、2カ月前にいじめが原因で自殺した、という説明がある。
さらに、葉子は、野田や三隅と会ったことはあるが、三隅の幸恵や咲子に対するねっとりとした視線のせいか、あの二人は嫌い、と話す。
”いろいろあって大変だったね、何かあったら電話して、自分にも娘がいるから相談に乗ってくれると思う”と言って、メモ帳に挟んでいるあゆみちゃんの写真を葉子に見せる夜明さん。この回、夜明さんと葉子の交流もいいんだよなぁ。
あゆみちゃん(天使だった頃)
事件当日、野田の携帯に幸恵らしい人物が電話をかけた痕跡があり、同級生たちの話と合わせ、幸恵に再び疑いがかかる。
関門海峡を渡って門司でも捜査。東山の推理は、野田にいいようにされる須磨に愛想をつかした幸恵が野田と関係を持ち、須磨が自殺することを見越して保険に加入させた。須磨は自殺、野田は痴情のもつれで幸恵が殺した、というもの。バカ言ってんじゃないよ、と夜明さんはいつものように否定。
野田のバスローブから女性の毛髪が採取され、DNA鑑定の結果、幸恵のものと断定される。
それを聞いた神谷さんは居ても立ってもいられず、自ら、聴き込み。そんな神谷さんを夜明さんが見つけ、「お前ひとり、現場に出たからって、状況、変わるわけじゃないだろ」と説得。「現場に出るのが刑事だ、そう言ってたの、夜明さんじゃないですか!」「立場が違うだろ、立場が、お前!」とさらに説得するけど、神谷さんの暴走は止められず、神谷さん一人で下関の幸恵の下へ。
幸恵は野田殺しを否定。関門海峡を巡っての、幸恵と神谷さんの会話がいいなぁ。そういうこと、よくある。
夜明さんと神谷さんが屋台でしんみり話。幸恵は初恋の人だった、という神谷さんの話を聞くときの、夜明さんの表情がとても優しい。
お前の口から、そんな言葉、聞くとはな
私にだって、初恋くらい、ありますよ
それでどっぷりと私情をはさんでいるわけだ、という夜明さんの言葉に、「夜明さん、私はこれまで、人を疑うことばかりしてきました。白は灰色、灰色は黒と言う、それが刑事です。でも、今度ばかりは信じたいんです。幸恵さんは、人殺しをするような人間じゃない」と返す神谷さん。好きにしろよ、俺、もう、何にも言わない、と突き放すように言う夜明さんだけど、口調は優しい。
神谷さんの聴き込みの結果、野田の殺害現場近くで、三隅らしき男の目撃情報を得ることができる。さらに、三隅の銀行口座に野田から何回か多額の振り込みが。三隅が野田を揺すり、そのことで争いになり三隅が野田を殺害した、という線が浮上。
夜明さんとあゆみちゃんの友情談義。親友はいるけど、その友情が将来どうなるかは分からない、女は嫉妬の生き物だもん、と言うあゆみちゃんに、「お前、冷めたこと言うねぇ」と引き気味の夜明さん。やっぱり、女性の方が現実的なのかなぁ。
親子で鍋。残念ながら、河豚ではなく、鱈。鱈の身を箸で掴んで、「あぁ、これが河豚だったらなぁ」と言うあゆみちゃんに、「お前、鱈に失礼だろう」と言う夜明さん。このセリフ、すごくツボで好き。
キャッチボールをしている男の子が左利きなのを見て、須磨の家で見た写真に写っていた三隅が左利きだったことを思い出す夜明さん。それで、野田殺しは三隅ではない、ということに気づく。さらに、野田と三隅が同じような体形であることにも気づき、車の中の遺体は、須磨ではなく三隅だったのでは、ということに思い至る。
それでも、神谷さんは、須磨は人殺しをするような人間ではないし、幸恵もそれに手を貸すような人間ではないと夜明さんの推理を強く否定。
葉子から夜明さんに、誰かがお金を家に投げ込んだ、それを持ってお母さんが出て行ったきり帰ってこない、お母さんの様子が変だった、と助けを求める電話。
お金を投げ入れたのは須磨、そのお金は三隅が持ち逃げしたのを取り返したもの、須磨は下関にいて、幸恵は須磨を追いかけて出て行った、というのが夜明さんの推理。
翌日の朝、昇進試験の面接があるにもかかわらず、神谷さんは夜明さんのタクシーで下関へ行こうとする。それを制止し、神谷さんを置いて、東山と国代と一緒に下関へ行く夜明さん。このときのやり取りがとてもいい。
「神谷、お前、何かっこうつけてるんだよ。お前、娘が4人もいて、今まで一生懸命働いてきたんじゃないか。出世の道、選んで何が悪いんだよ。面接受けろよ。面接受けて警視になれ。警視になって、俺に威張れ!須磨のことは、俺たちで何とかする」
このセリフを受ける神谷さんの表情が、また、良いなぁ
野田と三隅を殺したのは須磨。幸恵は、初めは須磨が生きていることを知らなかったが、須磨に頼まれて野田殺害に協力。野田に電話をして会う約束を取り付け、須磨がかわって野田に会いに行き、野田を殺害。
須磨が野田と三隅を殺害した本当の理由は、長女咲子が二人に乱暴され、それが原因で咲子が自殺をしたから。
「何で野田や三隅は俺のことを。あの二人が裏切ったりしなければ」と嘆く須磨に、「裏切ったといえば、あなたはどうなんですか。あなた神谷を裏切った。神谷に電話をしたのは、自殺を匂わすためだった。神谷の気持ちはどうなるんです。神谷言ってました。須磨はどんなつらいことにも音をあげない。歯を食いしばって耐える強い男だって」と、神谷さんのために言ってあげる夜明さんがいい。
須磨逮捕の現場に神谷さんも駆け付け、須磨を一発殴る。その上で、「お前も俺を殴れ。お前と、会っておくべきだった。もっとお前と、会っておくべきだった」と言う神谷さん。
夜明さんに謝る幸恵に、「失ったものより、葉子ちゃんのことを考えるべきでした」と言う夜明さん。「須磨の家が重荷だったのかもしれない」と言う幸恵に、「あなた、生まれ育ったこの町を、そしてご家族を、誰より愛していらした」と言ってあげる夜明さん。神谷さんも、夜明さんも、優しくていいなぁ。
波止場で夜明さんと神谷さんが二人で初恋や故郷について語り合う。その後、昇進試験・階級に話が及んで口論しながらも、最後、神谷さんが夜明さんに心からの感謝。
夜明さん、ありがとうございました
夜明タクシーの助手席に神谷さんが乗り、慌てて追いかけてくる東山たちを見て笑いあう夜明さんと神谷さんが、最高にいい。
エンディング。あゆみちゃんに呼び出され、お目当てのバッグを買わされる夜明さん。道端にフグ料理の店があるのを見て、「あれっ?偶然!こんなとこにこんなお店あったんだ!」とフグ料理食べたいアピールをするあゆみちゃん。「ハンドバッグの上にふぐなんて、嫌だからね」と拒絶する夜明さん。「父親だったらフグくらい食べさせろー」と詰め寄るあゆみちゃんに、「定休日、定休日」と楽しそうに言いながら逃走する夜明さんでエンド。
神谷さん回。神谷さんと夜明さんの友情がとてもいい。シリーズ初めの頃は、こんないい関係になるとは思わなかったけど、人間関係を積み重ねて行けるのは、長期シリーズの強みだなぁと思う。葉子と夜明さんの関係も好きだし、事件もそれほど違和感のない話だったし、いつもは気になる黄昏のビギンもノスタルジックな雰囲気に合っていたし、「もう少し」の入りもいいし、で、好きな回。
エンディングテーマ。Kiroro 「もう少し」


















