「 バックミラーの殺意 」 (2004年)

(ゲスト)
島田貴美子…荻野目慶子、 島田誠吉…長門裕之、 高見沢恵一…升毅、 島田春江…愛川裕子、 掛川秀美…牛尾田恭代、 尾崎治雄…中村繁之、  川上康利…不破万作

オープニング。蓉子さんも深見さんも登場しない。
電話のベルに起こされる夜明さん。掛けてきたのはあゆみちゃん。はじめは寝ぼけ声だった夜明さんも、「お父さん、助けて!すぐ来てお願い。お父さん、助けて!」という切迫したあゆみちゃんの声と電話の後ろから聞こえてくるガラスが割れるような音に目を覚ます。
でも、大急ぎで駆け付けたら、相談の内容は、”下着が盗まれるから、元警察官のスキルを発動して、張り込みをしてほしい”というもの。無言電話もかかってくるらしい。警察に相談してもらちが明かない、もう、嫌になったから留学したい、と頼むあゆみちゃんに、「お前さぁ、お父さん、助けてって、助けてって、来たじゃない、ヘルプしてって、お金のことばっかだな、お前」という夜明さんの言葉に、深く頷いてしまう。
そのあと、あゆみちゃんから元妻も来る予定と聞いて逃げ出す夜明さん。いすの後ろからひょいって逃げ出すんだけど、アラカンとは思えない身のこなしで、すごいなぁと思う。逃走の過程でお客さんにぶつかり、お客さんがトレイを落とす。電話で聞こえたガラスが割れるような音もお客さんがトレイを取り落とす音だったんだな、と種明かし。



ひょいっ


ブツブツ文句を言いながら歩いて帰る途中で島田さんと会い、話をする夜明さん。島田さんは夜明さんがタクシードライバーになったときに指導してくれたベテランのタクシー運転手で、今は個人タクシーをしている。
島田さんは、自分はもう年だから引退する、ついては個人タクシーの営業権を夜明さんに譲りたい、と語る。試験とかありますし、と躊躇する夜明さんを、「大丈夫だよ、夜明さんなら」と励ましてくれる。

島田が引退を決めたきっかけの一つとなったのは娘の結婚。音楽雑誌の会社に勤めていて、ピアニストと結婚することになった、娘との関係は良好ではないけど、娘のために一生懸命働いてきた、新婚旅行はアメリカなので成田空港まで自分のタクシーで送ってあげて、それで幕を引きたい、と嬉しそうに話す島田さん。

タクシー運転手になって10年か、としみじみ振り返る夜明さん。定年がない個人タクシーに魅力を感じている様子だけど、その理由が”養育費も払えるし”なのが健気すぎる。
個人タクシーの試験は、法令と地理。「やるぞー、夜明タクシー、 夜明タクシー、 夜明タクシー」とやる気満々だったけど、問題集の厚みを見て、「明日から、やろ」。受験生あるある


港区の埠頭に放置されていたタクシーの中で島田さんの遺体が発見される。

東山に電話をして、島田さん殺害事件の捜査状況を確認する夜明さん。民間人には話せない、と東山は断るが、今回は、神谷さんが夜明さんに捜査協力を要請。
埠頭で夜明さんがタクシーの実況見分をする場面、タクシードライバーならではの気づきが面白い。灰皿にたばこが1本も残されていなかったこと、半分開いていた窓、チューニングがあっていないラジオ、後部座席右側を向いているバックミラー。

島田さんが夜明さんを指導する回想場面の後、島田さんは恩人、必ず犯人を挙げてくれ、と東山に頼む夜明さん。回想場面では夜明さんの表情が初々しく、タクシードライバーになりたて感が出ていて、役者さん、すごいなと思った。

神谷さんからの電話に、感謝の意を伝える夜明さん。知り合いが殺害されたから夜明さんに気を使って捜査に参加させてくれたのだろう、と思ってのことだけど、東山と国代が横から手をブンブン振って否定。神谷さんは近々警視の昇進試験を受ける、その際、迷宮入りの事件を抱えて評判が落ちるなんてことがないように、夜明さんの力を借りて事件を解決し、点数稼ぎをしようとしているんだ、と二人で力説。

国代まで必死に手をブンブンw


真相を知って仏頂面になりながら現場を去ろうとする夜明さんとすれ違う貴美子。荻野目さん、私にとっては武蔵坊弁慶の玉虫で、可憐で賢くて一途なイメージがしみ込んでいるんだけども、サスペンス界ではいつも怖くてきつい感じの役どころでつらい。本作でも、登場早々、怨念めいたものを感じる。

島田さんの告別式。焼香を終えて帰る夜明さんを追いかけてきた貴美子との会話で、貴美子と夜明さんが10年前に一度会っていることが分かる。会った理由は、貴美子が付き合っていた男から暴力を受け、島田さんが元警察官であった夜明さんに相談したため。島田さんは貴美子を「男にだらしがないからだ」と責め、貴美子は貴美子で島田さんに猛反発。ここの場面も含めてだけど、長戸さんと荻野目さんのキャラの濃さからか、対立が深すぎ、というか島田さんの振る舞いがひどすぎ、ラストで美しく昇華しきれなくて困る。
焼香に以前同じ職場にいたという尾崎も登場。貴美子がじっと睨むんだけど、目力が半端ない。



ビームか何か出てもおかしくない



島田さんは以前、横浜で貿易商をしていたが、会社が倒産し、タクシードライバーに。そのころ、妻が病死したこともあって、島田さんと貴美子との親子仲は良くなかった。婚約者である高見沢を紹介した際の島田さんのセリフが「馬鹿野郎、貴美子。何が結婚だ。俺は許さんぞ。貴美子、お前はまだ、大人になってないよ」「貴美子、お前、ほかの男とは手を切ったんだろうな」。前者はともかく、後者は引くなぁ・・・。

寝起きの夜明さんに、テンション高く下着泥棒が捕まった報告をするあゆみちゃん。犯人は、近所の大学生だったらしい。
そして、寝起きの夜明さんから「あのさぁ、一人でガンガンガンガンガンガンガンガンしゃべんないでくれる。俺、起きたばっかなんだから」と抗議を受けると、いきなり「私、お父さんには感謝しています」としおらしいことを言い出す。何のことかと思たら、夜明さんが個人タクシーに向けて勉強しているのを知って「養育費は安泰」と思ったらしい。
個人タクシーを目指したきっかけを夜明さんから聞くと、「受けるべき」「お父さんなら大丈夫。私、応援する」と夜明さんを後押しするあゆみちゃん。根は、すごくいい子なんだけども…。
下着泥棒は捕まったけど、無言電話の犯人はまだ捕まっていないらしい。

探偵に呼び出される貴美子。島田さんから、高見沢の素行調査の依頼を受け、報告書を作成した、島田さんが亡くなったので、貴美子に渡したいという用件。”そんなものは見たくない”、と突き返す貴美子。

夜明さんに貴美子から迎車の指名。本作から係長が交代。小倉一郎さんから増田由紀夫さんへ。小倉さんと二朗の間に挟まれて、ちょっと影が薄い係長。
貴美子を会社のある赤坂から自宅がある葉山まで送る。コーヒーでも、飲んでいきません?という貴美子に誘われて貴美子の自宅に上がり、お互いの身の上話。「どうして刑事をお辞めになったのですか」はいつもどおり。貴美子は島田さんとの確執の原因を語る。母が入院しても浮気をしてろくに見舞いに来なかった、会社倒産に当たって母との思い出が詰まったピアノを守ってくれなかった、挙句、父の負担になりたくなかったために母は自殺した。「父は、家族の気持ちなんかどうでもいいんです。自分本位で、横暴で」と現在も、父を憎んでいるという気持ちを吐露。

高見沢が自宅で死亡。第一発見者は貴美子。死亡推定時刻は午後11時から深夜0時の間。その時間、貴美子には夜明さんと一緒だったというアリバイがある。
貴美子の父である島田さん、貴美子の婚約者である高見沢が相次いで殺されたことから、警察は、貴美子に恨みがある者の犯行か、と考えている。

高見沢は、1年前は、横浜のクラブで演奏するピアノ弾きだった。そのクラブに通っていた貴美子に才能を見出され、クラシック界にデビュー。
高見沢がクラブでピアノを弾いていた頃の仕事上のパートナーであり、恋人でもあったのが 掛川秀美。秀美は、仕事と恋人を奪った貴美子を恨んでいると思われる。一方、貴美子の方も、高見沢と付き合うまで男関係が派手で、恨みを買ってもおかしくない状況ではあった。

島田さんは10年前にもタクシー強盗に遭っていた。

島田さんの告別式に来ていた尾崎は半年前まで貴美子と付き合っていたが、貴美子に振られてストーカーチックな行動を繰り返すようになった。そのことを知った島田さんが、職場で尾崎に暴行して騒ぎに。そのせいで尾崎は会社を辞め、新しく起こした事業もうまくいっていない。貴美子を恨んでいる急先鋒として有力な容疑者に。

尾崎を逮捕。東山は、公務執行妨害って言うけど、あれは公務執行妨害じゃないよなぁ。尾崎の言い分の方が正しいと思う。
尾崎は警務部長の親戚。ということで、神谷さんに話があり、神谷さんは尾崎を釈放。
それを知った夜明さんが神谷さんに激怒するんだけど、そのときの演出が変というか、ふざけすぎというか・・・。あの変な効果音、いらないと思う。
出世のために尾崎を釈放した、と夜明さんは神谷さんを責めるけど、神谷さんは、そのこととは関係ない、証拠がないから尾崎を釈放した、と主張。一般論として出世はしたい、夜明さんがあゆみちゃんのために個人タクシーを目指すのと一緒で、4人の娘のために、娘が結婚するとき花嫁の父として警視でありたい、と言う神谷さん。「この年になって、勉強すんのは、楽じゃないよな」とボソッという夜明さんがいいなぁ。

貴美子が会社を休んでいると聞いて、鎌倉に客を送ったついでに貴美子の自宅へ様子を見に行く夜明さん。
貴美子の部屋から高見沢の写真が消えており、貴美子は、最初から高見沢には愛情はなく才能を独占したかっただけ、愛情なんて信じられない、そのことを教えてくれたのは父だ、と話す。さらに、夜明さんに縋りつき、「助けて。夜明さん、あたたかい」と魔性をいかんなく発揮する貴美子というか荻野目さん。夜明さんは、島田さんの代わりに貴美子を守る、と言って部屋を去る。

尾崎のアリバイが立証される。

夜明さん、新しい男とホテルに入りそうになっていた貴美子を発見。「義理の兄貴だ、文句あるか!」と貴美子を奪い取り、無理やりタクシーに乗せる。
「次から次に男を変えて!」と貴美子に説教する夜明さんだけど、気分が悪そうな貴美子の様子を見て、江ノ島で休憩。貴美子が気分が悪くなったのは車酔いのため。子供の頃から車酔いをしやすいらしい。

秀美が高見沢に、貴美子は出世のための道具じゃなかったのか、なぜ結婚するのか、と詰め寄っていたとの証言により、秀美が一連の事件の有力容疑者に浮上。

神谷さんは、島田さんが遭遇した10年前のタクシー強盗が気になる。10年前の事件では、島田さんが犯人に頭を強く殴られたせいで、犯人の顔を見たはずなのに記憶が飛んだ。そのせいで、犯人の顔を思い出せず、現場に指紋が残っていたにもかかわらず迷宮入りに。
2度も強盗に遭うのは不自然ではという東山に対し、夜明さんが「俺だって、そういうのあるよ」と答える。ボールペン1本で強盗を捕まえた第8作のことかな。

東京から横浜へ向かう客を乗せ、客のリクエストでラジオを流し、横浜近くでチューニングがあわなくなったことにヒントを得て真相に到達。
島田さんを殺したのは高見沢。高見沢は10年前に島田さんを襲ったタクシー強盗の犯人だった。島田さんは、高見沢を紹介されたときからもやもやしたものを感じ、興信所に調査を依頼。高見沢と貴美子をタクシーに乗せた際、バックミラー越しに高見沢の顔を見たことで、どうしても思い出せなかった10年前の強盗犯の顔を思い出し、そのことに気づいた高見沢に殺される。
高見沢を殺したのは貴美子。島田さんが殺される直前に電話で高見沢が強盗だった、と教えられ、興信所の調査結果を見て、島田さんを殺したのは高見沢、と確信。高見沢から自白を引き出した後、殺害。

貴美子がとっかえひっかえ男を変えたのは、父親の愛情に飢え、父親の愛情を求めたため。島田さんは貴美子に深い愛情を持っていたけど、父親の不器用さで、それをうまく伝えられなかった。島田さんが死んで、貴美子は初めて父親の自分に対する愛情の深さを知った。
というようなまとめになるんだろうけど、「父親は、自分の思っていることをうまく相手に伝えることができない。思ってるだけじゃ伝わらない。でも、いざとなったら娘を守る。それが男親です」って夜明さんのセリフが、島田さんの所業とうまく結びつかなくて、うーん、と思ってしまう。

無言電話の犯人はあゆみちゃんのバイト先の同僚。あゆみちゃんが一人で抗議に行ったと聞いて、現場のレストランへ急行する夜明さん。
ストーカーから「お父さん」と言われたことに、「馬鹿野郎!てめえにお父さんなんか言われる筋合いねぇだろ!立てこらぁ!」と激怒し、殴りかかろうとしたところへあゆみちゃんがカットインしてビンタをかます。



あゆみちゃんの見事なカットイン



崩れ落ちるストーカー(若干嬉しそう…)


夜明さん:立てますぅ?

ここまでの流れがとても好き。


親子2人でコーヒーをまったり飲んでいると、表に停めていた夜明さんのタクシーがレッカー移動される。
「ウソウソウソ!」と言いながら慌てて駆け付け、ミニパトに乗っている婦人警官に「明日で、3年間無事故無違反(個人タクシー資格の要件)なんだから、頼むよ」と懇願するも拒否される。ミニパトのボンネットに乗ってさらに土下座する夜明さん。


トリッキー土下座

個人タクシーの夢を壊したことを謝るあゆみちゃんと、いいよいいよと言ってあげる夜明さん。ビンタすごかったね、という話から、「殴るときさ、グーは絶対ダメだよ」と楽しそう。「お父さんがそばにいてくれたから戦えた」と言ってネクタイを直してあげるあゆみちゃん。留学したいからそんなに優しくするんだろう、と夜明さんは言うけど、この会話の間、ずっと二人とも笑顔で、和んだ空気のままエンド。

本当はお互いに愛情を持っているのに、感情表現が下手すぎで対立してしまった父と娘、父を殺した犯人が自分の婚約者であると知って、父への愛情ゆえに婚約者を殺害するという、悲しい愛情表現。とか、こんな感じの物語になるはずだったんだろうけど、いかんせん、島田さんの行為がひどすぎて、「愛情を持っているけど感情表現が下手で拗れた」というレベルに収まらず、物語の根本が壊れてしまっているように思う。「大人になれない」→「大人になったね」も、そのせいであまり効かなかった。
推理の経過はタクシードライバーならではの視点も見えて面白かったし、オープニングとラストのあゆみちゃんと夜明さんのシーンは本当に好きだし、個人タクシーへの挑戦という大事な回なんだけど、メインのストーリーがちょっとなぁと思う、とても残念な回。

 

 

エンディングテーマ。Kiroro 「もう少し」