よしあしと思ふ心 | 須佐木寛の小説箱

須佐木寛の小説箱

素人が書く小説集です。時代小説が好きなのですが・・・・

よしあしと思ふ心をかり捨よ かれはてぬれば実(まこと)しらなん

 

この歌は長沼国郷の伊呂波(いろは)理歌の「よ」の歌です。国郷は江戸中期に活躍した剣士で、その剣流は松本備前守を祖とし、国郷の父・山田光徳から直心影流を名乗りました。この流派からは江戸後期から明治にかけて萩原連之助、男谷精一郎、島田虎之助、榊原鍵吉、山田次朗吉など今日よくその名を耳にする著名な剣士が出ています。

歌はこういうことでしょう。自分は上手下手がわかる、良し悪しがわかるという慢心の葦(よし、あし)の原を刈りとってしまえ。慢心の葦の原が枯れてなくなれば、見通しが良くなり本当の剣の道がみえてくるぞ。

剣からはなれてこの歌を読めば、慢心は捨ててしまいなさい。謙虚、素直になればものごと本当のところがよく見える、ということになりますかね。裸の王様になりなさんな、ということでしょう。どこかの国の独裁者に送りたくなる歌ですね。

仏陀がこういう言葉を残しているそうです。「<おれがいるのだ>という慢心を制することは実に最上の楽しみである」

慢心は人生に苦をもたらす欲なんですね。

慢心という欲から離れ、身のほどを知ることはなにごとにつけ見通しを良くし、日々の生活に大きな喜びをもたらしてくれるのかもしれません。

 

よい年をお迎えください。令和五年が皆さまにとって健康で幸多い年となりますことを祈念します。

須佐木 寛 拝