【アルマタデマ チェスをするエジプト人】

 

恋人はファラオ6.ドロシー、エジプト考古局に就職、息子との別れ
からの続きです。

 

 それからはドロシーにとって生涯で最も幸せな夜が続きました。今やセティは完全な肉体をもった男として、彼女の前に現れました。セティはやさしく、性的技巧にもたけた恋人であり、その他の点でも本物の恋人でした。

 ドロシーの日記
今、王様は生きておられたときの姿で私のところにおいでになる。いつも50代前半の男性の姿で現れる・・・でも、とても魅力的で、若く見えるの。王様がなくなったのは、63才のときだった。

不思議に思って、いちど王様に訊ねた。王様は、どの歳の姿で現れるかは、自分で選ぶことができるのだとおっしゃった。王様は、ほとんどの者は自分が地上最も幸せだった頃の姿を選ぶとおっしゃった。

私は王様に訊ねた。どうして、即位したときの歳を選ばなかったのかと。その時の王様の答えを覚えている

「王になることは幸福ではなかった。それは辛い徒労にほかならなかった」


陛下が選んだのは、ベントレシャイトと出会い、彼女を愛した年齢、つまり54才だった。その短い数週間こそ、全人生の中でもっとも幸福な時期だったと、王様はおっしゃった。



 王様が訪れると、二人はベッドで毛布をかけてキスしたり触れ合ったり抱き合ったりしてから眠りました。時には、夜通し話し込むこともありました。そうして、王様は明け方になるとアメンティに帰られるのでした。

ドロシーの日記
私は王様に、物質化した体では暑さや寒さをお感じになるのですね。痛みはお感じになりますかと訊ねた。王様はおっしゃった。

「この体は、大地の神ゲブの背に乗っている者たちと同じものだ。慰めも感じれば、痛みも感じる。笑うことも、泣くことも、どんなことだってできるのだよ」

そこで私は、ケガをしたら血も出るのですかと訊いた。
「もちろんだ。私をひっかいてみるがよい」

だが、王様を傷つけることなど、できるはずがなかった。そこで、王様が自分の爪で手をひっかかれると、血が出てきた。私はその血をふいて、傷にキスした。王様は笑っておっしゃった。

「この体は大けがを負うこともあれば、殺されることだってある。だが、案ずることはない。まばたき一つすれば、私はいつでもこの体を捨てることができるのだ」



 二人は寝物語にエジプトの古代史、神々、アメンティ、まだ発見されていない遺跡などについて話しました。その中には、後にセティ1世が話したとおりの場所から発見された墓もありました。

 そんな幸せな日々は4年間続きましたが、二人の肉体的なむつまじい関係が終わりを告げる日が来ることがわかっていました。近いうちにドロシーは、3,000年前に犯した罪を償うためにアビドスへ戻らなければなりませんでした。そうすると、彼女は再びイシスの巫女として神々への信仰を誓い、男性と接することは許されなくなります。

 しかし、エジプトに来て何年も経つのに、ドロシーは未だにアビドスへ行ったことがありませんでした。行こうとすると必ず何かトラブルが起きるのでした。

 1952年、ついにドロシーは休暇を取って、アビドスにたった2日間ですが、行くことができました。二人が出会った庭園、そしてセティ1世神殿を感動の思いで見て歩きました。長い時の経過に傷んではいましたが、オシリス、イシス、ネフティス、プタハ、マアトらの神々の壁画や像に祈りを捧げました。

 その神殿に隣接した半地下の神秘的建造物オシレイオンは、ベントレシャイトが、王との秘密を明かさない咎により大神官に打ち据えられた場所でした。

 ドロシーは幼い頃からそのシーンを何度も夢で見てきました。今ではその記憶ははっきりと蘇っていました。どんなに打たれても、ベントレシャイトは愛する人の名を口にしませんでした。

 ドロシーはオシレイオン内部の井戸の水を衝動的に顔にかけてみました。すると老眼気味だった力が回復し、メガネが必要なくなりました。ドロシーは自分はこの地に住むことを運命付けられているが、まだその時期ではないと感じました。

 

【謎に包まれた半地下の遺跡オシレイオン】

 それから数年後、エジプト考古局は痛みが激しいアビドスのセティ1世神殿修復することになりました。そのスタッフとしてドロシーに白羽の矢が立ったのでした。

 ある夕方、ハードな発掘の仕事を終えたドロシーを仲の良いファクリー教授がお茶に誘いました。

「きみに仕事があるんだ。だけど、勤務地がとても遠いうえ、給料もよくないんだ。実をいうと、今きみがもらっている額の十分の一くらいなのだよ」

「いったいどこですか、その勤務地というは。だれがそんな話をもってきたのですか」

アビドスだよ。きみの新しいボスはガズーリだ。彼はきみの返事を待っている」

ドロシーはその言葉に、うれしさのあまり卒倒しそうになりました。

 

【ホルスの目(ウジャト)お守りとして親しまれています】

ドロシーの日記

王様は一晩中、私と一緒にいて、満足のいくまでたっぷりと愛してくれた。これが二人で愛を交わし合った最後の晩になった。それは今までで、もっとも甘い夜だった。

王様はおごそかな声でおっしゃった。

「そなたは、もはや神殿のものであり、命がつきるまでいかなる男とも関係を持ってはならない」

「これはわれわれにとって試練なのだ。誘惑を退けられれば、われわれはともに永遠の世界に生きることを
許されるのだ」

「でも、王様にはまたお会いできるのでしょうか」

「約束しよう。アビドスでそなたに会えるだろう」

「でも、どのようなお姿でいらしてくださるのですか。もはや恋人になれないのに」

「生ける人の姿でそなたに会いにいこう。そなたの腕のぬくもりをどうして忘れられよう」


「これは誘惑なのでしょうか」

「誘惑なきところには試練はない。愛する人よ、私が強くいられるよう助けてほしい。そしてどうか泣かないでほしい。そなたへの愛を断ち切ることなどできはしない」

「どうして王様に触れてはならないのですか。アビドスに行くのは神殿の修復のためであって、巫女として行くわけではありません。それに私は処女ではありません」

王様は私に口づけし、いい子だ、そなたがピラミッドのそばに住んでいた頃に過ごした幸福な年月に感謝しているとおっしゃった。そして王様はすてきな言葉を口にされた。


「そなたの愛は、私の心の傷を癒してくれる薬のようだ」

私はふたたび泣き出しそうになった・・・

この数日後、私はアビドスへ発った。


恋人はファラオ8.魂のふるさと、アビドスに続きます。

 

 アビドスではどんな生活が待っているのでしょうか。
書いていると面白くて、こんなことが実際にあったのかと不思議に思います。ついつい長くなってしまいましたが、エジプト霊界の様子もわかって参考になるので、もう少しおつきあいください。


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