ずっと何か焦ってた気がする。



20代は

一生会社勤めでいいのか。

給与手取り25万そこそこで、

未来が全部見えちゃうような環境で

一生やっていくのかって葛藤があったし




40を迎える今は

子供を産むタイムリミットを

考えると

ヤバいと思う。



いけない。



私は最高の幸せを手にしてるんだから

不満や不安なんて

ないはず。




お金で買えるものは

全部手に入ってる。




マンション

宝石

美味しいごはん




そして




オトコ。





だけど

いつも

「カレ」との時間を過ごした後は

ちょっと心に隙間ができる。



硬く鎧をつけた心が

剥き出しになる。




それがオーガズムの功罪。



「カレ」を呼ぶようになって

一年になる。



週に二度

「カレ」との時間を楽しんでる。



それを言った時の

あの作家。

一瞬驚いた顔をして

その後湧き上がる感情を

その職業的な仮面の

下に即座に隠した。



あんたが隠した感情に

私が気がつかないとでも

思ってるの!?



何か可哀想なモノを見る目をした。




言っとくけど

私は一人だけど

可哀想じゃない。



勝手に思ってろ、

クソババア。






ごめん



会社勤めしてた時の話に戻る。



福岡で取締役に誘われた話。



今まで誰にも言ったことないけど

ヤッたよ。



「ダメです。

 嫌です」

って言いながら

取締役の欲望を刺激して。




あくまでも

私は被害者。




だから

終わったあと

涙をポロリこぼしてやった。




「私

不倫だけはできない、、、、。

奥様とお子さんに

申し訳ない、、、、。

ひどいです。

取締役、、、、

女が身体を奪われて

それで好きになってしまったら

何をしてしまうか

自分が怖い、、、」




私は

黒々とした自分の瞳が

濡れた時の効果を

よく知っている。




何度

その方法で

教師や恋人たちを思い通りにしてきたか。




権力を持ってる者ほど

この濡れた瞳に弱い。




俺が支配した

可哀想な小娘。




取締役は

さっきまでの余裕綽々の様子を

吹き飛ばして

狼狽した。



でも、さすがよね。



すぐに狼狽を隠して

言った。




「悪かった。

好きになってはいけないと思っていたのに

どうしようもなかった、、、」




「一度だけなら過ちで済みます。

女って

出来心は許せる。

きっと奥様もそう。

だから辛いけど

2度目は、、、、、」




取締役はおもむろに頷いた。




「残念だが

君を不幸にしたくない。

今夜のことはなかったことにしてくれ」



取締役は

社長にもしたことがないほど

深く頭を垂れた。



ふん。



被害者って、、、おいしい。



翌週、

私は昇進した。



大嫌いだったお局と呼ばれる

女とタイになったのだ。



お局が

不思議がったから

わざと言ってやった。



「女性の魅力って実弾みたいなもの

 ですねぇ。

 優秀な先輩は使ったこと

 ないかもしれませんけど」




「あなた、昇進するために

 女を使ったって言うの!?」



「悪いですか?」



「悪いでしょう、それは!」



「そうですか?

 私には

 それが武器にできない

 ブス女の嫉妬にしか思えないけど」



お局は

顔を真っ赤にして怒ってた。




けどいいの。

だって

いつまでも

こんなとこにいないもの。



絶対に30までに

何者かになってやる。



その時の

闘志は

10年経っても

小さいながらも会社経営する

私を支えてくれている。




(Photo by Yumiko Katsukawa)



                つづく



*この物語はフィクションです。

実際の人物、団体にいっさい関係ありません。



最初から読みたい方は

こちらから