『機龍警察 自爆条項(上)

月村了衛




横浜の埠頭で、正体不明の外国人が機関銃を乱射する事件が起きる。
現場に居合わせた警察官や港湾関係者に多数の死者が出たうえ、犯人は現場で自殺した。

現場では、密輸入されたと思われる機甲兵装が2体見つかっている。
さらに各地で同様の手口で密輸入が行われていたことが判明する。

機甲兵装を用いた国内テロが企図されている可能性が高く、警視庁特捜部に緊張が走る。

沖津旬一郎特捜部長は、外務省から大物テロリストの関与を仄めかされると同時に、この件については公安外事課の扱いとするため、特捜部は外れるよう通告される。

さらにテロリスト達の第2の目的が、特捜部付警部ライザ・ラードナーの処刑であることが判明する。

ライザの壮絶な過去が明らかになる。

 

辰年の竜つながりをもう1冊龍
ちょっと無理あるかもですが、お付き合いくださいね。

シリーズ第1作『機龍警察』を読んでから、気づけばほぼ1年経っていたハッ

龍機兵と呼ばれる特殊兵器を導入した警視庁特捜部が、テロリストに立ち向かうシリーズ第2作。


龍機兵による迫力満点の戦闘シーンがこのシリーズの魅力であることは間違いないが、それに加えて、特捜部メンバーが織りなす群像劇にも注目だ。

部長の沖津警視長、
理事官の城木貴彦、宮近浩二両警視、
主任の由起谷志郎、夏川大悟両警部補、
龍機兵搭乗員の姿俊之、ユーリ・オズノフ、ライザ・ラードナー各警部、
そして龍機兵の整備、研究を担当する技術班主任の鈴石緑警部補。

それぞれ信念を持って職務に当たりながらも、内面に葛藤を抱えている。

キャリアとして特捜部での立ち位置に悩む宮近。
官僚の世界の社交外交は大変だ…

一般警察官から露骨に冷たい視線を向けられる由起谷と夏木。
近しい間柄の仲間から非難されるのは辛かろう。
しかし、らもまた、姿、ユーリ、ライザの3人を心から信頼する仲間とはみなすことができない。

テロにより家族を失った緑の痛み。
住む者のいなくなった実家をひとり訪れ、父が遺した著作に慰めを見出す姿は悲しい。
かつてテロに関与したと噂されるライザへの思いは複雑だ。


そのライザ・ラードナーこそ、今回の主役だ。
上巻の半分近くのページを割いて、彼女の過去が語られる。

15歳の少女が、テロリスト集団に身を投じるまでの物語。
ライザが生まれた北アイルランドは、政治と宗教の対立が染みついた土地。
中世から続く抑圧と暴力、抵抗、そして絶望の歴史。

ほんの少しの偶然が、そんな世界に暮らす少女の運命を変える。
たった一冊の本が手元に舞い込んだばっかりに、、、
実際は、どんなことでもきっかけになり得る状況で、どのみちライザに他の道はなかったのかもしれない。
それでも、もしも、を願わずにはいられない。

どんな理由があるにせよ暴力に訴えるのはよくないなんて口にできるのは、平和な国に生まれ育った者の幻想でしかないのか。

そう思ってしまうほど、ライザを取り巻く環境は過酷だった。
この地域の苦しみの歴史について、ほとんど何も知らないことに後ろめたさすら感じるほどに。


ライザの過去を挟んで、物語は現在の特捜部に戻る。
正式な捜査ができなくても簡単には引き下がらないのが沖津警視。
独自の路線で事件を追う。
浮かび上がってきたのは、第1作の地下鉄爆破事件にも関係していたフォンコーポレーションとその影に見え隠れする「敵」の存在。
国際的犯罪組織同士のつながりが事件にどのように関わるのか。


粛々と捜査が進み、上巻では龍機兵の出番はなさそうだと思ったが、最後にやってくれた。

ライザの操るバンシーは、やはり美しく残酷だ。
龍機兵の新たな機能もお披露目される。

激しい戦闘の末、真相はまだ明かされないまま上巻が終わった。
穏やかな解決など全く望めそうにない。
どんな結末が待っているのか、すぐにでも下巻に取り掛からねば。
ライザの運命は、、、


【書誌情報】
『機龍警察 自爆条項(上)』[完全版]
月村了衛
ハヤカワ文庫JA、2017