[ある男) | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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映画ブログです。特に70年代の映画をテーマで特集しています。また自作の小説、シナリオもアップしています。

石川慶監督・編集。向井康介脚本。平野啓一郎原作。近藤龍人撮影。Cicada音楽。22年、松竹配給。

Amazon Primeにて鑑賞。22年度キネマ旬報日本映画第2位。第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞。この年[ケイコ目を澄ませて]がキネ旬1位だったが、作品の出来としては自分はこちらを推す。戸籍交換をテーマとした平井啓一郎原作の映画化。映画は時間に制約があるために原作では描かれている様々ないエピソードが割愛されているようだが、それでも抜群の面白さだった。

監督の石井慶は映画の冒頭とラストにマグリットの[複製禁止]を使用。これは原作にもあるようだが、映画のポイントになっているので注目。

亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元調査をしてほしいと弁護士の城戸(妻夫木聡)に依頼する谷口里枝(安藤サクラ)。大祐の兄恭一(槇島秀和)から彼女は、夫が素性を偽っていたことを聞く。早速、調査に乗り出した城戸は、大祐の正体とその理由に迫っていくが…。

映画は前半、夫を亡くした里枝が林業をして絵が趣味である大祐と出会い恋に落ち、子供も生まれて幸福な家庭の様子が描かれる。そこでいきなり林業の事故で大祐が亡くなり、その葬式に兄が訪れ、これは弟ではないと告げるところから、色合いを変え、ミステリーになっていく。里枝は自分の離婚手続きを担当してくれた弁護士城戸に事件の真相解明を依頼する。ここから、主人公は城戸に代わり、彼は大祐が実は誰なのかを探っていく。彼は三世の在日韓国人なのだが、出世のことから、13年に起こった陰惨な殺人事件に気づき、その前後に戸籍交換で逮捕された小三浦(柄本明)と面会、彼のヒントで入れ替わりの本物が誰なのかを探り出していく。明らかになるさらなる衝撃的な真実。大阪のバーで入れ替わり男の彼女だった後藤美涼(清野菜名)はフェイスブックにある仕掛けをする。

真実とは何なのか、それを探る必要はあったのか里枝が息子に語る台詞は観る側に深い印象を残す。そして、解決した城戸の家族のエピソードを挿入することで、さらなるインパクトを残す結末に繋がっていく。観る側に予想させない展開。描かれる人間ドラマも深く、ミステリーとしても秀逸。推すめの一作だ。