[土を喰らう十二ヶ月] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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中江裕司監督・脚本。水上勉原案。松根広隆撮影。土井善晴料理。大友良英音楽。22年,日活配給。

スカパー日本映画専門チャンネルにて鑑賞。22年度、第96回キネマ旬報主演男優賞受賞。日本映画第6位。

志村けん主演の代役で始まった[キネマの天地]以前から、沢田研二単独主演で企画、一年半の撮影で挑んだ作品。
信州の山で暮らすツトム(沢田研二)は犬のさんしょと文筆活動をしながら、幼い頃、京都の寺で修行したという精進料理を作り、自給自足の暮らしをしている。監督の中江裕司は彼が作る様々な精進料理を美しい四季折々の風景に合わせて紹介ていく。地味な映画である。だが、不思議なことに1時間51分の上映時間退屈することなく、その映像世界に取り込まれていた。十三年前に亡くなった妻の義母チエ(奈良岡朋子)の死、ツトムの恋人で編集者の真智子(松たか子)。最初はここに一緒に住まないかと真智子を誘うツトムだが、自分が心筋梗塞を起こし、死の世界を間近に生還してから、彼に変化をもたらせ、真智子にも。
 大きなドラマがあるわけではない。幼い頃ツトムが父親から教えられた竹の子取りを回想で描いたり、世話になった禅寺の住職が亡くなり音信普通だった娘文子(壇ふみ)が訪ねてきて、梅干しを届けてきたり、十二ヶ月、季節の移ろいに合わせてツトムは山や川から自然の恵や、自分が育てた野菜などを使い、料理にしていくのだ。すべて彼任せにしようとする義理の弟夫婦。いい人間も嫌な人間も登場する。だが、それが人間であり、自然体に生きるツトムの姿から人間の生とは?禅の精神、それをツトムの視点と同化しながら、観る側に体感させてくれる映画だ。バックにジャズ、中江裕司監督の自由な発想力と探求力にいつしか引き込まれてしまう作品だ。実に自然な演技で表現してくる沢田研二。[太陽を盗んだ男]から長い年月を経て、人生を達観したような表現力に彼のいぶし銀のような魅力を感じさせる作品であり、主演男優賞に相応しい。