[アンダーグラウンド] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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エミール・クストリッツァ監督・脚本。デュシャン・コヴァチェビッチ脚本。ヴィルコ・フィラチ撮影。ゴラン・ブレゴヴィッチ音楽。95年、仏、独、ハンガリー、ユーゴ、ブルガリア合作。

スカパー、ザ・シネマにて4Kデジタルリマスターにて再観。自分が観た90年代の洋画では文句なしの1位。ユーゴスラビアという国が失われていく現実を狂乱の妄想喜劇の中に描いたエミール・クストリッツァ渾身の力作であり、95回カンヌ国際映画祭パルムドール他、数々の賞に輝く傑作だ。

クストリッツァは全編を3章に分け、170分の長尺を感じさせない、乱痴気騒ぎの中で第二次世界大戦からセルビア・クロアチア戦争の現代までを一気通貫で見せ切ってしまう。彼の映画には定番で登場する楽団、動物、本作では動物園が爆撃され飼育員が救った猿がポイントに使われる。

1941年、ユーゴスラビアはナチス・ドイツに侵攻された。友人のクロ(ラザル・リフトフスキー)を誘ってパルチザンに参加した武器商人マルコ(ミキ・マノイロヴィッチ)は、祖父の地下室に弟イヴァン(スラヴコ・ステマツ)やクロの妻などをかくまい、武器を作らせ始める。マルコはクロとふたりが憧れた女優ナタリア(ミリャナ・ヤコビッチ)をドイツの将校フランツから奪還するが、クロは負傷地下の住人になり、やがて終戦を迎えるが、マルコはナタリアを自分の妻に終戦を彼らに知らせずにその生活を続けさせ、自身は新政府の中でのし上がっていく…。

クストリッツァはチトー大統領の映像など、実写と映画の登場人物を巧みに合成して、マルコの狂言にリアリティを保たせているあたりが秀逸。マルコを演じたミキ・マイノロヴィッチは[パパは出張中]や[黒猫白猫]でも彼が起用する個性派俳優。笑いを絶えず入れて映画を盛り上げる。またエロスを全身から発散させるナタリアのミリャナ・ヤコビッチ、クロ役のラザル・リフトフスキーも好演で本作を支えている。何より重く、暗くなりそうなアンダーグラウンドの地下の状況などをオープニングから登場する吹奏楽団がテンションを落とさない役割をこなし、長い映画で今回、久しぶりに鑑賞したが一気に引き込まれて楽しめた。

クストリッツァという映画作家はセルビアとクロアチアの紛争の中で失われた故国を描いた中で最大に輝き、その紛争の終結と共に作品も輝きを失った監督で、やはり本作は彼の最高傑作であり、今、見直しみてもそれは色褪せることがない。お勧めの映画た。