[七人の侍] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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黒澤明監督・脚本。橋本忍、小国英雄脚本。本木荘二郎製作。中井朝一撮影。早坂文雄音楽。54年、東宝配給。

スカパー時代劇専門チャンネルの録画にて再観。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞。通常の七倍の製作費を投入、中断もあり約一年をかけて撮影された日本映画史上の最高傑作。
トレビアについては何度も書いてきたし、あまりに多くあるので、映画観ながら書いてみるが、まず冒頭に野武士が村を襲撃しようとしたことがわかり、農民たちが談合する場面。
中心は利吉(土屋嘉男)、茂助(小杉義男)、万造(藤原釜足)、与平(左卜全)。それぞれに個性がありキャラ立ちしている。主人公の侍たちだけでなく、彼らもこの物語の中心にいることを伝えているのだ。そこで利吉が言う「今、俺たちが食ってる米どんなことして」ここに最初の伏線を引いてるあたりが黒澤映画の凄さ。
 農民たちは長老の儀作(高堂国典)に相談して、侍を雇う場面になるが、断られ続け、木賃宿、ここに人足が三人いる多々良純、堺左千夫、関猛、ここのエピソードがまた次に繋がるあたりの構成の妙。
 盗人(東野英二郎)から赤子を救おうと島田勘兵衛(志村喬)登場。この騒動をめぐり、岡本勝四郎(木村功)と菊千代(三船敏郎)を絡めて、退治される場面のストップモーションを使うあたりも上手い。
 勘兵衛に魅入られた、二人が入れ替わり勝四郎は門弟を断られ、菊千代は相手にされない。[七人の侍]のテーマ曲から菊千代のテーマに代わる音楽の使い分け。そして利吉が村の警護を依頼、断られたところで多々良純のひとこと。
 [わかってねえのはおめえさんたちよ、わかってたら助けてやったらいいじゃねえか。おい、お侍、これを見てくれ、これはおまえさんたちに食わせる分だ、でもこいつら何食ってると思う稗食ってるんだ、自分たちは稗食っておまえさんたちには米食わせてるんだ。百姓にすりゃ精一杯なんだ』
   これはこの映画の数ある名セリフの中でも、隠れた名台詞だ。
 そして、ここから有名な侍探しが始まる。勘兵衛が当初農民たちに示唆したのは七名。画面切り替わり、二人目に通るエキストラが仲代達矢(ノンクレジット)。
一人目に選択される侍は山形勲。やっと後に軍師となる片山五郎兵衛(稲葉義男)。そして勘兵衛の負け戦の古女房七郎次(加東大介)。五郎兵衛は薪割りをしている飄々とした林田平八(千秋実)をそして勘兵衛と菊四郎は久蔵(宮口精二)と言う凄腕の剣客が人を斬るところを観る。自分は侍の中では実は平八が一番好きだったりする。
 その前に一度、村に戻った万造と茂助、万造は侍の心配をして娘志乃(津島恵子)の髪を切ってしまうエピソードが描かれる。
 夜、侍たちが集結しているところに菊千代が連れて来られ大暴れ。このエピソードが笑えるがこれも後の伏線になっていて勘兵衛は彼が侍でないことに気づいている。
 村への旅の途中、六人と菊千代の駆け引き。村に到着すると万造のせいで、村人たちは怯えきっている。このエピソードの結末が菊千代の板木。彼はそれで仲間に入れてもらえる。
 侍たちは対策に乗り出し、村人たちに竹槍の訓練。その渦中に勝四郎が志乃を花畑で見つけてしまう。この繋がりも秀逸。
 次は村に隠されていた落武者狩りの武具。喜んで持ってきた菊千代に怒りを見せる七郎次、久蔵。この菊千代の百姓に対する演説、
 たがな、そんな獣を作りやがったのはおまえたち侍だってんだよ……一体百姓はどうすりゃいいってんだよ!』
 『貴様、百姓の生まれだな』
ここも名場面だ。
 馬小屋に寝てる利吉に菊千代は一緒に寝かせてもらうと言う。画面切り替わり、雨の中、平八は旗を作っている。雨の中で久蔵は太刀の練習をしていると志乃の元に通う勝四郎を見る。黒澤が恋愛を描けないなんてのはこの場面を見れば間違いであることらがわかる。
 久右衛門の婆様のエピソード。演じてるのはキクさんという人で声は三好栄子があてている。この人老人ホームにいた人らしい、よくそんな人起用する執念。
 離れ屋三軒と長老の水車小屋を引き払うと勘兵衛たちが非情な指示。穫り入れ後の臨戦体制について五郎兵衛の説明の後、茂助たちが反旗を見せると勘兵衛が刀を抜く。ここは勘兵衛の見せ場。
 『人を守ってこそ自分を守れる、戦とはそういうものだ]
ここも名セリフ。そして三分の休憩。
 穫り入れの場面から後半は始まり、利吉の女房のことで平八のひとことに利吉が怒りを見せる。
 これらは全部伏線。平八が夜利吉に話しかける。勝四郎はうわごとに志乃とつぶやき、勘兵衛と五郎兵衛は見回りに菊千代の居眠り、与平の馬のエピソード。堀が作られ、馬止めの柵の完成を見せる。勝四郎と志乃の恋愛シーン。そこで野武士の馬を見る、この繋ぎも上手い。
 物見の野武士退治のエピソード。久蔵、菊千代、勝四郎が行く。二人を久蔵が斬り、一人を菊千代が捕えるが村人たちは久右衛門の婆様に仇を討たせる。野武士の馬三頭を使い野武士の砦を急襲するエピソード。与平の馬を笑いに使い、滝が流れる川の奥。利吉の案内で久蔵、平八、菊千代が。火をかけるのだが。ここで砦にいる妖しげな女(島崎雪子)。これに気を取られる利吉を連れ戻そうとして、平八は撃たれてしたい。最初の犠牲者に、その女は利吉の女房とわかるのだ。
ここも燃え落ちる館。
 画面切り替わり、平八の墓に刀。
『お主、苦しいときには重宝な男と言ったの。苦しくなるのはこれからだが』勘兵衛が五郎兵衛に呟く。亡き崩れる利吉と村人。菊千代は平八が作った旗を屋根に翻し、野武士が来襲してくる。
 ここからがクライマックスの始まりだ。種ケ島が三丁であることがわかり、この後、水車小屋のエピソード。
 五郎兵衛は裏山に何故柵を作らないのかと勘兵衛に聞くと、いい城には一つ弱点があり。そこに敵を集めて勝負する。ここも名セリフ。
 野武士たちは離れ屋に火を放つが、茂助は力強く帰れと指示する。人間的な成長を提示する。菊千代は燃える水車小屋に走る。赤子を抱きかかえる女房はこお切れ、赤子を抱いた菊千代は叫ぶ。
[こいつはオレだ!俺もこのとおりだったんだ!]。
ここはまさに映画史上に残る名場面だ。
 夜襲で万造が腕を撃たれ、怪我を負うが散々に野武士を撃退する。勘兵衛はバツ印を付ける。
 裏山におとりを立て主力の存在を確認する勘兵衛。種ケ島、村に入れ戦う作戦を明かす勘兵衛。種ケ島を取ってくるという利吉を抑えて久蔵が走る。霧の中、久蔵は種ケ島を取ってくるエピソード。これがまた次に繋がっていく。
 勝四郎は彼に尊敬を抱き、志乃の件を隠してくれたことと
合わせ[あなたは素晴らしい人です。私は前からそれがいいたかったんです』と言う。これも名セリフ。
 実はこの裏山の農民の中に盗人役だった東野英治郎がいるのでヒマな方は確認してみてください。笑。
 尻っぱねする野武士の馬の場面は笑いを挟んで緩急を付ける。勝四郎が久蔵のことを菊千代に話したことで、菊千代は敵陣に乗り込み、仲間のフリをして種ケ島をぶん取るのだが、これがピンチを招く。野武士は仲間割れを始めいることもわかる。親方(高木新平)は手下を裏切ったら殺すと脅す。
抜け駆けの功名は手柄にならんと、勘兵衛は菊千代を叱る。
 菊千代の持ち場が破られ、野武士が侵入。竹槍に追われるかなり低い角度のカメラの映像もあり、マルチカム方式が最大に発揮されている。入った二騎に与平が弓でやられる。菊千代が倒すが、銃声。五郎兵衛が撃たれている。
 膝をつく菊千代、三人の墓の前で菊千代は座り尽くす。
疲れてる茂助に久蔵は声をかけ、勘兵衛は明日の朝、死に物狂いでくると予測する。
 七郎次は万造に倅に会ってくるよう指示するが、燃える焚き木の中、志乃と勝四郎、絶えず積極的なのは志乃。
 『あしたみんな死ぬんだべ。でももしかしたら死ぬんだべ』
勝四郎に抱きつき、葉陰越しのラブシーン。ここも名場面だ。
 酒を農民が勘兵衛に持ってくる。久蔵はいらないといか。
万造は志乃を探し、勘兵衛は菊千代を励ます。かっくらう菊千代。
 そして、万造は勝四郎と志乃が一線を越えたことを知る。折檻する万造を勘兵衛が止める。相手が勝四郎と知り、勘兵衛も七郎次もなんとか宥めようとするが、万造はそれでも怒りをぶつけるが、利吉が怒り戒める。そこに雨。
 展開が絶妙。
ワイプで切り替えて、旗が雨に濡れ、雨中の大決戦が始まる。勝四郎を出しに使い、農民を和ませる勘兵衛。菊千代は次々に刀を並べる。
 [一本の刀では五人と切れん!]。
滝のような放水の中撮影された。残り十三騎との決戦。泥塗れになりながら、刀を振るう菊千代、弓を引く勘兵衛。様々な角度から決戦を捉えていく。七郎次は槍で、勝四郎らは東に、野武士の二人は女たちが隠れる小屋に種ケ島を持って潜む。久蔵がひとり斬るが撃たれ、菊千代も親方と相打ちになり倒れる。
 『野武士は野武士は]亡き崩れる勝四郎。
 『また生き残ったな]
勘兵衛は七郎次に呟く。嵐にたなびく旗。

画面切り替わり、田植えの風景。見ている三人の侍。
四人の墓を、見上げる。勝四郎と目を合わさず志乃は通り過ぎる。
[今度もまた負け戦だったな」
勘兵衛が呟く。
[は?]七郎次は聞き返す。
[勝ったのはワシたちではない、あの百姓たちだ]
そして四人の墓にキャメラが戻り、三時間二十七分。


凄い、この長さなのに無駄を感じない。随時に笑いの取れる役者を配し、緩急があるので長さを感じさせない。劇場でもテアトル東京を始め、何回も観ているが、この作品は是非劇場で集中してご覧頂きたい。

映画とは何なのか?芸術であり、娯楽である。なかなかこの双方を最高まで達することができた映画は少なく、本作はその代表作と言っていい。黒澤明のというより、全映画の宝。それが本作だ!