[ある殺し屋] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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森一生監督。増村保造、石松愛弘、原作藤原審爾『前夜』脚本。宮川一夫撮影。鏑木創音楽。67年、大映配給。


スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて鑑賞。野川由美子が出演してる作品で探したら、これがピックアップされたので鑑賞してみたが、実に面白い。まず、森一生監督の時間軸の使い方の上手さ。ある一定の時間から一気に過去に遡るのではなく、そこに至る過程の少し前から小回想をしておき、一番最初に戻るとか、物語を縦横無尽に組み合わせてみせる。主役のニヒルな笑み殺し屋塩沢は市川雷蔵が演じており『薄桜記』の名コンビ。野川由美子はその殺し屋についてくるおキャンな尻軽女圭子を演じハマり役。殺し屋に仕事を依頼しにくる男で、後に暗躍する木村を成田三樹夫が演じて、それぞれにいい味を出している。和製フィルム・ノワールの秀作。


塩沢(市川雷蔵)は名人芸の殺し屋として、やくざ仲間に名を知られていた。ふだんは平凡な一杯飲屋の主人だが、どんな困難な依頼でもやってのけた。ある日、塩沢は、無銭飲食と引きかえに、体で金を払うというズベ公スタイルの女圭子(野川由美子)の金を払ってやった。その日から圭子は塩沢につきまとい、塩沢のやっている小料理屋“菊の家”までおしかけ、あげくの果にはおしかけ女中として女中のみどり(小林幸子)を追い出してに住みこんでしまった。塩沢が意外と小金を持っているらしいと睨んでのことで、彼を挑発するがぜんぜん相手にされなかった。そんなところへ、暴力団木村(小池朝雄)組から、競争相手のボス大和田(松下達夫)を殺してほしいと依頼があった。塩沢は二千万円でその仕事を引きうけた。競馬場、大和田邸、大和田の二号茂子(渚まゆみ)のマンションと、塩沢は大和田をつけ狙ったが、強力なボディガードに守られた大和田に手が出なかった。しかし、ついに大和田主催のパーティに芸人として潜りこんだ塩沢は、大和田暗殺に成功する。塩沢の手口の鮮やかさと、報酬の大きさに惚れこんだ、木村組幹部前田(成田三樹夫)は、塩沢に弟子入りを頼んだが断わられた。しかし、前田は圭子から手なづけようと、強引に圭子と関係を結んだ。前田の若さと強引さに惹かれた圭子は、塩沢を殺して彼の金を盗ろうと前田にもちかけた。前田と圭子は色と慾で組んだ。そして計画を練った。それは、ボスを失った大和田組が麻薬を扱っているから、それを横どりしようというのだ。無論塩沢に異存はなかった。塩沢一流の周到な計画で、塩沢、前田、圭子の三人は、大和田組から二億円の麻薬をカツあげするが…,。


キャメラは名手宮川一夫。塩沢部屋の俯瞰から撮影するショットは斬新で登場人物の位置どりが観る側が一目瞭然に把握させ、様々な視点から撮影がなされている。


この塩沢のようなニヒルで寡黙な役は雷蔵にはお似合いであり、『眠狂四郎』のような時代劇でも、本作のようなノワールを思わせる現代劇をやらせても、カッコ良く。この時代、勝新と並びカツライスと呼ばれた雷蔵の持ち味を存分に堪能できる作品。


森一生。『薄桜記』など。