[他人の顔] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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勅使河原宏監督。安部公房原作・脚本。瀬川浩撮影。武満徹音楽。66年、東宝配給。


スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて鑑賞。安部公房の[砂の女]に続く、失踪三部作の映画化で前作同様、勅使河原宏監督が映画化。化学研究所で、顔面に火傷を負った主人公が精巧なマスクを着用して、自己回復のために妻を誘惑する物語に、回想される精神病患者の施設で働く顔の左反面に火傷を持つ女性の物語を重ね、重曹的な構造を持つ映画になっている。他人の顔を持つことで、自我と社会、顔と社会、他人との関係性を掘り下げている。


奥山常務(仲代達矢)は新設工場を点検中、顔に大火傷を負い、頭と顔を繃帯ですっかり覆われた。彼は顔を失うと同時に妻(京マチ子)や共同経営者の専務(岡田英次)や秘書(村松英子)らの対人関係をも失ったと考えた。彼は妻にまで拒絶され、人間関係に失望し異常なほど疑い深くなる。そこで彼は顔を全く変え他人の顔になって自分の妻を誘惑しようと考えた。病院を尋ねると精神科医(平幹二朗)は仮面に実験的興味を感じ、彼に以後の全行動の報告を誓わせて仮面作成を引受けた。彼は頭のレントゲンを受けながら、ふと以前見た映画中の旧軍人精神病院で働く美しい顔に、ケロイドのある娘(安双美枝)、ある夜戦争の恐怖におびえてか、兄(観世英夫)の接吻を求めた娘、そして夜明けの海へ白鳥のように消えていった娘の姿を思い出した。そして彼は或る日医者がホクロの男(井川比佐志)の顔型を借りて精巧に仕上げた仮面、その他人の顔をした仮面をつけて街へ出た。ビヤホールでは女給の脚に目を奪われた。医者はそれを仮面の正体の現われと評した。彼はアパートに二部屋をとり他人の顔になりきろうとしたが、管理人の精神薄弱の娘(市原悦子)に繃帯の男だと見破られた。しかし会社の秘書が気付かないと分ると、彼は妻を誘惑し関係を持つが…。


顔面の火傷という特殊な設定により、社会における自己の存在に気づかされる主人公。妻による衝撃的な告白、マスクで他人の顔になって、初めて自己が浮き彫りになる安部公房自身の掘り下げられた脚本が秀逸で、オープニングのレントゲン写真を使用した火傷のイメージの表現など、奇才勅使河原宏監督の工夫が映像化の難しい作品を巧みに映像化している。


市原悦子演じた精神薄弱のヨーヨー娘や主人公の回想に登場する火傷の女性など、キャラクターの設定が作品内に効果的に生かされていた。


肉感的に夫の嫉妬を煽る妻、京マチ子はヌ○ドまで披露する熱演。翻弄されながら病んでいく主人公の仲代達矢も、ニヒルな笑みを浮かべる精神科医の平幹二朗、など豪華なキャストがそれぞれに好演だった。 


勅使河原宏監督。[砂の女]など。