[The NET 網に囚われた男]鑑賞記 | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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キム・ギドク監督・脚本・製作・撮影。パク・ヨンミン音楽。16年、韓国映画。



この過酷さ!面白さ!これでこそ韓国の奇才キム・ギドクだ!久しぶりの快作!


北朝鮮で漁師をしている主人公が船のエンジンに網がかかり、韓国に流されてしまったらどうなるのか?ギドクは2000年のワールド・カップ開催を機に表現の自由が解禁され、発展を続けた韓国社会の歪みを、ギドク独特の発想で、南北分断の現実を苛烈に糾弾する。


主人公ナム・チョル(リュ・スンボム)は、個人の意思を尊重されずに、スパイ扱いされ、南への亡命を盛んに促される。家族に会いたい、その一心で必死に拷問に耐えた彼が、あることをきっかけに英雄扱いされて、帰国した母国でまっている過酷な現実。ギドクはいつものように一切の妥協を許さない。



北朝鮮の寒村で漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)は、妻(イ・ウヌ)と娘ソリと共に貧しくも平穏な日々を送っていた。だが、ある朝、チョルは唯一の財産である小さな船で漁に出るが、魚網がエンジンに絡まり故障してしまう。意に反して韓国側に流されたチョルは韓国の警察に拘束され、身に覚えのないスパイ容疑で、取り調べ官(キム・ヨンミン)の執拗で残忍な尋問を受ける。一方、チョルの監視役に就いた青年警護官オ・ジヌ(イ・ウォングン)は、チョルの家族の元に帰りたいという意思に触れ、次第に彼の潔白を信じるようになる。そんな時、やはりスパイ容疑で捕えられた男が、ソウルにいる娘への伝言をチョルに託して、自ら舌を噛み切り自殺する。やがて、チョルを泳がせようという方針からソウルの繁華街に放置された彼は、家族を養い弟を大学に入れるために身を売る若い女性と出会い、経済的繁栄の陰に気づくが…。


このソウルの夜、チョルが身体を売る女に出会うシークエンスが素晴らしい。北の特殊部隊出身の彼は得意の技で彼女を救う。彼女は脱北者は国から金が出る、自分は身体を売って、家族や弟の学費を送っているから、一緒になってもいいと訴える。チョルは彼の警護を担当するジヌに、経済が発展し、一人が一つ移動電話を持つ影で何故、女が身体を売らねばならないのかと訴える。これは、ギドク自身が表面上だけ発展したように見える韓国社会の現実を痛烈に批判する、メッセージになっている。


チョルを拷問する取り調べ官は、朝鮮戦争で家族を失った、恨みを彼にぶつけ、彼をスパイに仕立てあげようとする。逆に戦争を知らない世代である若いジヌは、チョルをきちんと人間として尊重しようとする。何年たっても、新しい世代の意思は別にして、何度も試みながら実現しない民族統一に対するギドクの怒りが、画面から切実に伝わり、観る側を圧倒していく!


オープニングで、漁に出る前チョル夫婦の性の営みが挿入されるがそれが、帰国後の場面に繋がる。また、娘ソリのお土産に持ち帰るクマの玩具など小物を伏線として使う巧みさは相変わらず秀逸。


そして、ラストはあまりに切なく衝撃が胸に突き刺さる!


天才、ギドクの長編22作は彼の復活をアピールするに余りある秀作。この前に福島原発をテーマに撮られた[The  STOP]の公開が楽しみだ。頼むぞギドク!


現在、劇場公開中。


キム・ギドク。[悪い男][うつせみ]など。