パトリス・ルコント監督・脚本。パトリック・ドウ゛ォルフ脚本。ドニ・ルノワール撮影。マイケル・ナイマン音楽。89、フランス映画。
長い間、パトリス・ルコントが苦手だった。理由はフェチの心情が理解出来なかったからだが、今回、観直すことで克服できた。
ルコントは仕立て屋イール(ミッシェル・ブラン)の恋に覗きというフェティッシュを介在させることで、肉体関係に踏み込めない枷を設ける。そうすることで、身体を越えた崇高なプラトニックな純愛を完成させたのだ。
ドニ・ルノワールのカメラは当初、覗きをしているイールの視線に置かれているが、嵐の夜を境に覗かれているアリス(カトリーヌ・ボネール)が気がつき、鏡にイールの姿を写してみせる等、視点の変化で切り替わる。巧みな小物使いは秀逸。
心理の流れを繊細に捉えることで、役者には抑えた演技をさせ、観る側に感情移入を許さないことで、クールに恋心を描き出す。だから、この映画はイールの純愛を描いているのに、ベタにならない。見事だ!
公園で22歳の女性ピコレットの遺体が発見され、刑事(アンドレ・ウイルムス)は、以前にわいせつ行為で逮捕経験のある近所に住む仕立て屋イールを容疑者として疑う。
イールは異様な潔癖症で、近くにモルモットを飼育し、匂いの研究をしている。そんな彼は周囲には不審がられ嫌われている。
ある日、向かいに美しい女性アリスが越してきて以来、イールは彼女の部屋を覗き、恋焦がれていく。
アリスの部屋には恋人エミール(リュック・テュリエ)が訪れ、愛を育むが、アリスの結婚の申し出にエミールは返事を渋っていた。
実はピコレット事件の犯人は彼なのだが、ある嵐の夜にイールの覗きにアリスを気付き、事件のことを知っているか確かめるために彼女はイールに近づいていったが……。
原作はジョルジュ・シムノンであり、サスペンスを絡めて、フェチ男の一途な恋を描いていく。用意されたアイロニカルな結末は、本当はこうだったのだという想像の使い方が絶妙で、ミッシェル・ブランのクールな演技が、逆に悲哀を際立たせる。 ドミニク・サンダを思わせるカトリーヌ・ボネールのファタールぶりも白眉。
一切の無駄が排斥されたルコントの愛の集約に改めて魅力された。傑作です!
DVDはレンタルにあります。
パトリス・ルコント。[髪結いの亭主][橋の上の娘]等。