トゥトゥニチャパ通りのストリート・アート(上) | Que sais-je? ク・セ・ジュ――われ何を知る

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エルサルバドルに単身赴任中(7/15~8/5一時帰国)。
気候が良く日本より健康的な生活を送っています。
ドライブ旅行をぼちぼちしていますが、
この国で最も注意すべきは交通事故。
今や治安以上に大きなリスクです。

なおヘッダーは2020年に新潟県長岡市にて撮影。

サンサルバドルでは、新市街の高級エリアを除いて至る所に落書きがありますが、その中でも私の職場近くを通るトゥトゥニチャパ通り (Bulevard Tutunichapa) の約600mほどの範囲に、芸術的とも言える見事な作品がぎっしりと並んでいます。つまりはストリート・アートです。人物・動物・キャラクター等、何かの絵が描かれているのは約50点、デフォルメした文字(グラフィティ文字)も入れるとその倍以上もあります。

その中で目を引いたものを約40点、この記事にてご紹介するために、先日、昼休みに職場から散歩に出て撮影していきました。

通常の私の記事なら画像40枚は2回分の記事になりますので、今回も2回に分けて載せます。

 

 

首都エリアの道路では至る所、昼間の交通量が非常に多いですが、この通りも例外ではありません。トゥトゥニチャパ通りは私がよく帰宅に使う道ですが、しばしば渋滞に悩まされます。そんな時、これらの作品をチラッと眺めて目を楽しませているわけです。

 

 

まずは、緑の瘦(や)せこけた顔。三つ目ですね。こんな感じのおどろおどろしい絵の多いのがストリート・アートの特徴ではありますが、そんなのばかりだったら私はこの記事を書かなかったでしょう。

しかも、塀の上になにげに有刺鉄線があるのも、治安の不安な途上国らしいです。エルサルバドルに限ったことではありません。それが余計におどろおどろしさを感じさせる。

 

 

しかし、こんな犬も描かれています。ネットで調べたところ、ドゴ・アルヘンティーノという犬種ではないかと思われます。

 

 

マンドリル (Mandrill) という、カメルーン、コンゴ共和国、ガボンといったごく限られた国にしかいない猿。

 

 

こんな絵でも鳥同定アプリの Merlin を使って同定できました。オーストラリア東海岸に分布するムナグロオーストラリアムシクイ (Variegated fairywren) です。マンドリルと言い、この鳥と言い、エルサルバドルには分布しないので、写真か何かを見て描いたのでしょう。エルサルバドルにもトロゴス(和名:アオマユハチクイモドキ)やタラポ(和名:レッソンハチクイモドキ)といった超美鳥がいるんですけどね……。

 

 

青い眼のお兄さん、スプレー持って、何をそんなに驚いた顔をしているんですか?

実はこの作品に署名している「アレア503 (AREA 503)」なる集団、ネットで調べてみたら、なんとインスタグラムもやっていました。それどころか3年前にサンサルバドル市主催、文化省後援のフェスティバルが実施された時のフェイスブックの記事も見つけてしまいましたよ!

政府公認です。

 

文化省が鳥山明追悼の公式声明を出したり追悼イベントの共催者になったりしていることからしても、イケてるエルサルバドル当局です。文化の育成とは伝統的文化の保管とは限らないということを、十分に認識しているわけです。

 

その一方で、これだけ世界に影響を与えた鳥山明は、国民栄誉賞の没後受賞に値するのではないかと私は思ったのでした。

 

 

これ、やはり犬ですよね? 緑の犬なんて見たことないんですけど。真っ赤な肉らしきバーを咥(くわ)えた、内臓が薄紫の緑色の犬。

足元にひよこがいるあたり、何となく可愛いです。

 

 

泡があることからして、これは水中のようです。とすると、これらはウツボでしょうか。見るからに恐ろしい風格をしていますが、このような幻想的な色合いで描かれると、それほど脅威を感じさせません。

……と思うのは私だけでしょうか。

 

 

これらの絵を描いているのはあなた様でしょうか。でも、頭にオレンジ色の環を載せてますよ。あなた様は、もうお亡くなりになったのでしょうか。

 

 

これも犬でしょうか。私は個人的にはこの配色を好みませんが、ともかく南国を感じさせるという意味では、風土にマッチする作品であると言えます。

 

 

かのアルベルト・アインシュタイン博士 ではないですか!

あまりにリアルなので、この位置でたまたま信号待ちで止まったりした時には、彼の肖像に向かって「現代の物理学をありがとう」と拝んだりしています。

元理科教員である私としては。

これにも「アレア503」のサインがしてあります。

 

 

ヒヒィーーン! 僕だってこれらのストリート・アートの一角をなしたいわいっ!!

 

 

こんなのもありました。仮にマヤ文字であるとすると、これはどういう意味の記号なのでしょうか。

ややくすんだブルーが神秘性を増します。

 

 

南米に生息するベニコンゴウインコを背景に、アメリカ原住民系の褐色の肌、それに青い髪は、日本人の感覚からしても当然ながら、人種のるつぼとも言える中南米の人々の感覚からしても、非常にエキゾティックな雰囲気を醸し出している作品だと思います。

イメージされているロケーションは、ブラジル奥地のアマゾンということなのでしょうか。しかし、アマゾンにはこのような色の髪をした女性はいないはずです。

それでも、これがラテンアメリカの人々の思い描く「幻想的」なイメージなのかもしれません。

 

 

ストリート・アートを描くには、やはりスプレーを使うのがメインなんでしょうか。グラフィティ文字(? 読めないが)にしがみついて赤紫色のスプレーを放っている先には、紫色のマープリングのような文様が展開していました。

 

激しい色合いとは対照的に、スプレーを押している彼の顔はシニカルというか、アンニュイです。こういう、アンニュイな気分を派手な色で表現するのがストリート・アートの特徴であると言えるのかもしれません。

 

 

アシナガバチですなあ。私が絵を描くとしても、アシナガバチをモチーフにする可能性は百万分の一にも満たないかと思います。

そういう意味で、実にユニークな絵に驚きました。

 

 

このようなややグロい絵はブログに載せようか一瞬迷いましたが、中南米の社会的情緒というか、若者の不安定な心理を象徴しているとも言えそうだったので、採用しました。

 

 

長方形フレームの眼鏡をかけ、パッションピンクの帽子をかぶった中年とおぼしき赤目のヒヨコが、吸いかけの煙草を吐き出し、威風堂々と歩いているような、このいかにもちぐはぐな風姿に、私は「オリジナル大賞」を差し上げたいと思います。

私なら絶対に思い付きません。

 

 

この、白い塗料の滴(したた)る塗装ローラーを手にした、白い角の生えた黒い猫は、悪魔の使いなんでしょうか。「W」「S」「H」の文字が背面に記されたカードの表には、何を暗示する図柄もしくは記号が描かれているのでしょうか。

ナイキのロゴマークの描かれた台に左足を載せているあたりは非常に現代的であるとも言えます。鏃(やじり)の形をした尻尾の先端下に「22.」と書かれているのは、恐らく制作年でしょう。比較的新しいので、損傷も少ないです。

 

 

セクシーなお姉ちゃん(乳首が見えてますよ! いや、意識的に出しているのか)の左の作品に描かれた異星人っぽい緑人間(?)が手にしているのは、運動シューズ型の携帯電話のようです。

現代地球人の我々から見ると、靴紐は通信にどんな関係があるのかとか、なぜ別のシューズをくっつけないといけないのかとか、足の形の窪みがあると音響効果はいかなるものかとか、シューズを電話にしたら足の裏の臭さは気にならないかとか、色々と質問事項が尽きないところですが、とにかくこの緑人間は、このような通信手段を用いているようです。

 

 

いきなり忠実そうな犬。今までの作品からすると、不釣り合いなまでに「普通の」絵です。エルサルバドル版「忠犬ハチ公」でしょうか。

とにかく、野犬のやたら多いこの国では、犬には要注意なのですが、それはともかく、私は犬が好きです。

 

 

今回の記事の最後は、これはワニでしょうかね。このように、藤色系というか、薄紫系の色は、当地の落書きでは好んで使われているようです。

これらの作品を見て考えれば考えるほど、今までの私の常識の範囲内にはなかったモチーフ・構成・色遣いを発見させてくれます。そういう、観る人を触発し、インスピレーションを喚起するのが、真の「アート」なのだと言えるのでしょう。

続きは次回。ご覧になっているあなたは、何かしらインスピレーションを感じましたか。