「 転校生? 」
コーヒー牛乳を飲みながら僕はクラスメイトの女子に言った。
「 うん、北海道から来るんだって。今日このクラスに来るらしいよ 」
「 へぇー、北海道からなんて凄いね 」
僕は窓の方に顔を向けながら答えた。まだどこか寒さを残す四月の春。
僕もちょうど中学三年生になり、今年は受験生だ。
昨日、親がいろんな高校の参考書を買って、僕の部屋に置いて行った。
ちゃんと読んどけ、なんて言われた。
でも、どうしてだろうか・・・・、僕は何もやる気になれなかった。
勉強は元々好きではないが、受験となれば話は別だ、と思っていた。
そんなふうに中学二年の時は思っていた。
けど、三年になった所で、僕の心は受験という誰もが向かう方向に向いていなかった。
高校に入る事が大切である事は分かってる。
でも、何故か、僕の心は・・・・・。
どこか、皆とは違う方向に向いている気がした。
でも、それがどこに向いているのか、僕自身も分からない。
三年になれば、親は今まで以上にうるさくなる。
こんな事を言った日には、きっと叱られてしまうだろう。
「 女の子だって 」
ボーっとしていると、女子がそう言ってきた。
「 そうなんだ。どんな子なんだろうね 」
「 さぁね。でもさ~今年私達受験だからね~。転校生来てもあんまり変わらないって言うか、ライバルが増えるって言うか 」
女子は頭をかきながら言う。そうか、受験を考えてる人には、迷惑なのか。
それはそうだ、大学受験ならともかく、高校は大抵の親は家の近くの学校に通わせる。
でも、この中学に来るなら、きっとその転校生もこの近くの高校を受けるだろう。
「 まぁ、頑張ってよ 」
「 って、岡崎君も受験生でしょ? 」
するとホームルーム開始のチャイムが鳴った。同じクラスの女子は自分の席に戻って行く。
ガラガラと、教室のドアが開き、担任が入って来た。
教卓に立ち、僕達の方に顔を向ける。
すでに転校生がこのクラスに来る事は皆が知っていた。
そのせいなのか、担任が教卓に立っても皆どこか騒いでいた。
「 はいはい、静かに! 」
両手を叩きながら担任はそう大きな声で言った。
すると、ゆっくりとクラスの皆は落ち着いていった。
担任は静かになった事を確認すると、黒板に文字を書き始めた。
恐らく転校生の名前だろう。
平野 朱里
そう黒板に書かれた。すると担任は僕達の方に顔を向けて話し始めた。
「 今日は皆さんに転校生を紹介する。入りなさい 」
教室のドアの方に顔を向けながら担任は言った。
すると、ドアがガラガラ開き、女の子が入ってきた。
肩までのばした黒い髪の女の子、彼女が平野朱里だ。
クラスの男子は皆騒いだ。
するとまた担任が両手を叩いた。
「 いちいち騒がない。まったくお前達は・・・ 」
担任は少々呆れ気味に言った。
「 それじゃ、平野、自己紹介 」
そう担任が言うと、クラスはまた静まった。
平野朱里と言う少女は、顔を上げて僕達の方を見つめた。
「 はじめまして、平野朱里です。親の仕事の都合で北海道から東京に引っ越して来ました。東京は北海道とは全然違うので、まだ慣れていません。でも、これから徐々に慣れて行ければ良いと思っています。皆さん、たった一年ですが、よろしくおねがいします 」
そう言いながら平野朱里は頭を下げた。
「 それじゃ、空いてる席は・・・ 」
担任がそう言うと、何人かの男子が「 ここ空いてるよ! 」と騒ぎながら言った。
担任と男子生徒が話している時に、僕は転校生の方に顔を向けた。
彼女は他の女子生徒とはどこか違う感じがした。どこか優しい、そんな感じが。
すると、彼女が僕の視線に気づいたのか、こっちに顔を向けてきた。
目が、合った・・・・。けど、何故だろう。
目を背ける気にもならなかった。そして、僕の中で何かが動いた様に思えた。
彼女はそのまま優しく微笑んだ。その微笑みも、僕の何かを動かした。
そう、全てが動き出した。まだ冬の寒さを残す四月。
僕はこうして、初めて朱里に出会ったんだ。
続く