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Shudder Log

* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

助手席から外に降り、大きく伸びをした。
 
「帰りは僕が運転しようか」
 
運転席から降りたイライは振り向いて、首を傾げた。
 
『どうして?』
 
勢いよくドアを閉める。
 
「お酒飲んでもいいよってこと」
 
僕はもともと飲めないし、人が飲んでいても気にならない。
 
『ああ、うちに泊まってく?』
 
微笑んだイライに、今度は僕が訊ねた。
 
「どうして?」
 
明日も韓国から出るわけじゃないから、別に泊まるのは構わないけど。
 
『キソプが運転して、俺の家に行って、その後は? 俺の車で自分の家に帰るの?』
 
たしかにそうだ。
 
普段なら僕の家まで送って貰って、それからイライは自分の家に帰る。
 
立ち止まった僕を見て、イライは思いついたように言った。
 
『逆にそれでもいいかも』
 
意味が取れずに、僕は首を傾げた。
 
『明日の朝、迎えに来てくれる?』
 
なるほど、そういう手もあるのか。
 
イライは店の入り口に向かいながら言う。
 
『いずれにしても飲ませてもらうから、ここ出るまでにどっちにするか考えて』
 
どれくらい酔うかに寄るかな、と僕は思いながら、イライの後に続く。
 
イライは店の一つ目のドアを開けて僕を先に通し、後ろから僕の肩を抱いた。
 
僕はその腕に自分の手を重ねて振り返り、二つ目のドアを開ける前に、イライのキスを受けた。
 張り合うつもりはなかったが、自然と食事のペースが早くなった。
 
結果、超特急で店を出ることになり、予定していた映画の開映まで手持ち無沙汰になってしまった。
 
『もう少し店で時間潰してもよかったかもな』
 
見るともなくとショーウィンドウを眺めながら、イライが言う。
 
「店に居たらまた食っちゃうだろ。で、腹一杯になったら、眠くなるだろ」
 
イライは振り向いて、笑顔を見せた。
 
『確かに』
 
早く行ってもしょうがないしな、と呟いて肩をすくめる。
 
さっさと映画館に入って、ロビーで一眠りという手もあるな、と俺は思った。
 
口を開きかけて、思い直す。
 
『まあ、たまにはいいかもね』
 
ウィンドウの反射越しに目が合う。
 
『何もすることがないなんて、あんまりないし』
 
イライのすぐ後ろに立って、肩を抱いた。
 
「それも、二人だけで」
 
ガラスに映ったイライを見つめて言う。
 
正確には、他人はたくさんいる場所なのだが。
 
『確かに』
 
笑顔を浮かべたイライの腕が、俺の腰に回される。
 
通りの人波に戻るためウィンドウから離れながら、周りに気付かれないように、俺たちは素早くキスをした。
次まで時間が空くから休んでおけと言われて控え室に戻ると、一足先にイライが眠っていた。
 
ソファの肘掛を抱くように、丸くなって寝入っている。
 
起こさないように気を付けながら、そっと隣に座る。
 
俺は一度大きく伸びをしてから、首を反らせて頭を背凭れに乗せ、目を閉じて息を吐いた。
 
『スヒョン兄?』
 
横を見ると、イライがうっすらと目を開けている。
 
「俺も寝に来た」
 
イライは微笑み、大きくあくびをした。
 
腕を伸ばしても髪には届きそうもなかったので、太腿に手を乗せて俺は再び目を閉じる。
 
『ヒョン』
 
「今のうちに寝てよ」
 
はっきりとした声色のイライに、俺は答える。
 
寝られるときに寝ておくのは、この仕事では鉄則だ。
 
『スヒョン兄』
 
声がさっきよりも近くで聞こえて、仕方なく目を開ける。
 
イライは身体を起こし、その手を俺の手に重ねている。
 
「何?」
 
『ちょっとだけ』
 
そう言って、顔を近付ける。
 
どちらからともなく口付け、腰に手が回される。
 
何度目かのキスの後で、ふと息を吐くと、イライが小さく囁いた。
 
『寝れなくなりそう』
 
それはマズい、と俺は言い、イライを抱きしめてソファに横になった。
 
「ちゃんと寝よう」
 
首筋に鼻先を埋めれば、本当はその先がしたくなるけど。
 
『オーケイ』
 
イライはまた眠たそうな声で答えて、すぐに寝息を立て始める。
 
その音を聞いて、実は寝ぼけてたのかもしれないと思いながら、俺も瞼を閉じた。
というわけで、Shady Boysを書いてみた。
 
 ***
 
「は?」
 
キョンジンは口をぽかんと開けた。
心の中で舌打ちして、俺は目を逸らした。
相手の代わりに壁を睨みながら、唇を噛みそうになるのを堪える。
 
「何度も言わせんなよ」
 
顔を向けると、キョンジンをまっすぐに見て言う。
 
「俺が愛してるのはお前なんだ、キョンジン」
 
結局言うんだから世話もない、と自分でも思った。
それにしたって、こんな状況で告げることになるなんて。
頭の中で何パターンもシミュレートして、言い回しも散々考えていたのに。
どこかに連れ出して、景色のいい場所で、洒落た言葉で、優雅に、スムーズに。
冷静に、用意周到に、準備を整えて。
そう言い聞かせながら、ずっと二の足を踏んでいた。
反応が怖くて。
その答えが怖くて。
そして最後に、臆病の壁を蹴破ったのは、ただの嫉妬だったというわけか。
この意気地無しめ。
 
「は?」
 
呆気にとられたまま、キョンジンはもう一度言った。
俺はため息を吐いて、目にかかる髪をかき上げる。
キョンジンは二度三度大きく瞬きして、やっと言葉らしい言葉を発した。
 
「マジで?」
 
冗談だと思われるなら、まだ引き返せるだろうか。
嘘だよ、からかいたかっただけだ。
そう言って、笑顔で、安心させて。
そしたらキョンジンは肩を叩いて、驚かせるなと笑うだろう。
嘘だ、と。
俺が言えば。
 
「嘘じゃない。からかってもいない。お前を愛してる」
 
キョンジンはデスクの椅子に座り、頬杖をついた。
 
「マジかよ、ヒチョル」
 
何かを言って欲しそうな顔で俺を見つめる。
何も答えずに見つめ返すと、キョンジンは呆れたように呟いた。
 
「お前みたいな顔だったら、どんな女だって手に入るのに」
「俺が欲しいのはどんな女でもない」
「お前みたいな顔にしてくれって、何度神様に祈ったか」
 
俺が神様に祈ったのは、お前を手に入れることだった。
神様なんて信じてないのに。
お前のことは祈った。
 
「効果あるとは限らないぜ」
「じゃあくれよ」
「やれるもんならやるよ。それでお前が喜ぶならな」
 
言い捨てると、キョンジンは表情を強張らせた。
もう黙った方がいいことは分かるのに、意思に反して口は滑る。
 
「そしたら俺は女になって、お前に口説かれてやる」
 
俺は顔を背けて、天井を見上げた。
唇を舐めて、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 
――― 女なんてやめて、俺にしろよ。
 
もっと簡単に言えると思っていた。
その先に待つのが、たとえ拒絶でも。
どうせ後で悔やむなら、言えずに終わるより玉砕した方がずっとマシ。
そう思っていたのに。
 
「なんで泣くんだよ」
「泣いてねえよ」
 
間髪入れずに答えて、でも目が熱くなり始めているのを感じた。
 
「泣くなよ」
「泣いてねえって」
 
二度目に聞こえた声は一度目よりも柔らかくて、俺はもっと泣きそうになる。
睨みつけてやりたいが、顔を見たら涙腺が持つか分からない。
泣きたくなったのは誰のせいだよ。
心の中で悪態を吐いた次の瞬間、キョンジンは軽く言った。
 
「とりあえず、飯でも行く?」
「はあ?」
 
今度は俺が呆気に取られる番だった。
思わず眉を寄せて、キョンジンを見る。
 
「腹減ったし、続きはその後で」
 
自分の腹を擦りながら、椅子から立ち上がる。
何でもない様子でジャケットを羽織ると、デスクにあった財布とキーケースを手に取った。
 
「奢るよ。何食いたい?」
 
一瞬言葉に詰まってから、俺は息を吐き、なんとか答える。
 
「咸興冷麺」
「じゃ、そうしよう」
 
PCと電気を消して、視線でドアを指す。
俺は促されるまま部屋を出て、鍵をかけるキョンジンを眺めた。
どうしてくれ、とは俺は言ってないけど。
答えを出せるような質問はしてないけど。
その態度は何なんだ。
 
「もっと強引に、俺だけを見ろ、とか言いそうなのにな」
 
廊下を歩き始めたキョンジンは、ポケットに手を突っ込み、笑みさえ浮かべていそうな調子で言った。
俺は早足になってその背中を追い抜き、さっさと冷麺を食べて話の続きをしよう、と思った。
Soohoon+Vinseop+Dongli。
要はBeautiful。
a社はVinseop推しかもしれないとか、ELの日本語をDHにフォローして貰おうとか。
個人的には2Shin+Hoonvin+Elseopが見たかった。
 
 
* 2012-11-07追記。
 
Dongliあたった。
Hoonvinありがとう。
2Shin無しならSooseopは次善だ。
Elseop二人に日本語で喋らせるのは確かに不安で、それぞれ下三人のうちの誰かだと思ってたけど、KSはSHか。
VinseopもElvinも外すってのは、JSが戻ってからDIJでやるフラグなのか。
おやすみ、と最後のツイートをして、アプリを閉じた。
 
一足先に同じように挨拶を終えたスヒョン兄は、すっかり寝る準備を整えていた。
 
『もう消すよ』
 
フロアライトのスイッチをオフにして、ベッドに入る。
 
その様子を眺めていると、視線に気付いたスヒョン兄が笑みを見せた。
 
『ファンサービスもいいけど、そろそろ寝てよ』
 
分かってる、と答えて、でもこれといってすることはない。
 
俺はすでにベッドの上にいて、あとはブランケットを被るだけだった。
 
「ヒョン」
 
乾ききらない髪を気にしながら、スヒョン兄は俺を見る。
 
『何?』
 
呼んではみたものの、別に用があるわけではない。
 
「おやすみ」
 
挨拶でごまかし、ベッドカバーを剥がしてもぐり込む。
 
背中を向けて横になると、機嫌の良さそうな声がした。
 
『おやすみ』
 
最後まで点いていたベッドサイドのランプが消され、部屋が暗くなる。
 
『愛してるよ、キョンジェ』
 
闇の中で静かに響いたのは、もう聞き慣れた言葉。
 
それなのに、何度でも心に響くのは、さすがは声のプロだな、と感動して、俺はやっと目を閉じた。
 * 2016-03-08 追記
二人の名前で検索してくる方が多いので。
サイモンとマルティナは2016年2月に日本へ引っ越してきました。
サイト名はそのまま。やることは韓国にいたときと同じような見聞録っぽい。
引っ越すことにした理由はこのへんに書いてあるので読んでね。
 * 追記終わり
 
 
* 注意 * カップル話に興味のない人は他の記事を読まないように  

 Eat Your Kimchi

略称EYK。SimonとMartinaが運営するブログ、Youtubeチャンネル。全部英語。毎週「Kpop Music Monday」としてK-POPのミュージックビデオのレビューを行っている。

 Simon と Martina

S&Mと略されることも(SMエンタじゃないよ)。韓国在住のカナダ人カップル。二人ともバラードは好きじゃない。夫妻・犬・猫の、二人と二匹家族。2008年の渡韓当初は英語教師だったが、今年ついに専業Blogger/Youtuberに。最近プチョンからソウルへ引っ越した。今はスタジオをつくろうとしてるみたいだね。

Simon サイモン。モヒカンがトレードマーク。身長190cmくらい。
Martina マルティナ、あるいはマティーナ。身長は170cmくらい。1983年5月1日生まれの83line。
Spudgy スパジー。ペキニーズの男の子。渡韓時からの(Martinaの?)飼い犬。EYKのアイドル。
Dr.Meemersworth ドクター ミーマーズワース。スコティッシュフォールドの女の子男の子。瞬きする間に成長中の仔猫。

 Kpop Music Mondays

略称KMM。週に1度、EYKのKpop Chartsで1位になった3位以内のMVのどれかをレビューするシリーズ。
旅行等で二人が韓国を離れていたりすると、その週は休みになり、翌週の1位がレビュー対象となる。 MVの展開に対するツッコミにあわせて、寸劇が挟まる。Englishチェックでは、 使われている英語についてSimonが5点満点で評価する。The Show Downは、その週のMVから要素を選び出し、同じような要素のあるMVと比較してどっちがいいか視聴者投票させる。 結果は翌週のKMM内で発表。
Bloopers(≒NG集)はYoutubeの別チャンネルにアップロードされる。
50回ごとにシーズンが区切られていて、2012年10月現在は3シーズン目。

 Kpop Music Video Charts

KMMでどのMVをレビューするか決めるためのランキング。
Chartsページでの投票のほか、Facebookの共有やコメントすることでも参加できる。ただ、各値を基にした計算値と、実際のスコアには差があるので、たぶん勢いも考慮してるのかな? コメントするにはDISQUSのアカウントが必要。
基本的に、より新しいMVが有利になる。なので、公開された週のレビューを逃したり、休みの週にあたったりすると、1位を維持するのは意外と難しい。以前の勝者決定はざっくり日曜日だったと思うんだけど「KSTで日曜になった瞬間の1位」に固定したのかしら。(KST=韓国標準時は日本と同じUST+9) 
レビューされると投票が停止され、MVへのリンクがKMMへのリンクに差し替えられる。
ランクはリアルタイム反映ではないので、リロードしすぎないように。
 * 2013-03-15追記。この頃から日曜になった瞬間の1位に固定だった。で、3月11日放送分から「KSTで日曜になった瞬間の上位3曲から、S&Mが選ぶ」という風に変わったみたい。
 

 KMM以外のEYK

KMM以外には、
K Crunch Indie 韓国のインディーズ音楽を紹介するよシリーズ
WANK Wonderful Adventure Now Koreaの略。 あんなことこんなことしたよシリーズ
TL;DR Too long; didn't readの略。みんなの質問に答えるよシリーズ
How-To 韓国のあれこれの使い方・やり方を説明するよシリーズ
などがある。

 U-KISS on EYK

過去エントリはだいたい以下の通り。
 
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Shut Up"
Kpop Music Mondays - U-Kiss "0330″
U-KISS Backstage Chat *1
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Neverland"
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Tick Tack" *2
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Doradora"
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Believe"
U-KISS Interview and Behind the Scenes *3
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Stop Girl"
Kpop Music Mondays - U-Kiss "Standing Still"
uBeat Interview *4
Kpop Music Mondays - uBEAT "Should Have Treated You Better" *5
 
*1 2011/4/24にチェジュ島で行われた人気歌謡スーパーコンサートのバックステージでのおしゃべり。
*2 当然ながら日本語バージョン。この回の最後で「J-POP(日本リリース曲)は今後レビューしない」とアナウンスされた。
*3 Stop GirlのMV撮影の様子とインタビュー。
*4 uBEATへのインタビュー。当然3人です。こちらの映像もどうぞ。
*5 uBEATによるKMMパロディ。おそらくはこの週の一位を逃したので、こんな処理になったのだと。

 その他

たぶんケビたん毎週見てる。
少なくともU-KISSの回は全部見てる。
たぶんイライとAJも見てる?
 
 * 2013-09-25追記。二人がインタビューでU-KISSに言及してる動画を見つけた

元ネタはゴダールの映画。見たことないけど。
SistarのShady Girlってそれっぽいよね。
でもHCじゃなくてKHがいい。
大学パラレルで、相手はSM、RW、ZMあたりで。
Minwookは当然仲良しで、留学生のZMとも仲良くて、みんなバラバラに出会って恋に落ちる。
それで寮の部屋できゃあきゃあと盛り上がるんだな。
最終的にはもちろん、KHが全員から振られて終わるはず。本当か。
 
HCでやるならHG、SW、DHとかだろうけど、そのままハーレム化しそう。
なのでHCは、同じくShady GirlでKim Kyung-Jin氏と、という方がありだと思う。
HCはKJが好きなんだけど、KJはヘテロで、気持ちを隠して接してた。
本当にこの子たちに恋できたら楽なのに、とか思いながら、KJの指示で女の子たちと付き合って。
でも結局、我慢できなくて、途中で止めて。
KJに問い詰められて、勢いで告白して。
さて、KJは何と答えるのだろう。
「ヒョン、大好き」
 
初めてそう言ったとき、僕はまだ子供だった。
 
『俺もだよ、ドンホ』 
 
その時もスヒョン兄は笑って、抱きしめてくれた。
 
そういう意味じゃないのに、と僕は思って、でも訂正することはできなかった。
 
「どれくらい?」
 
下から顔を覗き込んで訊けば、たじろぎながらも答えてくれる。
 
『えーと、これくらい?』
 
そう言って、両手を大きく広げた。
 
「それだけ?」
 
僕が顔をしかめると、眉尻を下げた。
 
『うーん、じゃあ、海より大きいくらい』
 
思わずふきだして、僕はヒョンの胸におでこをぶつけた。
 
「いきなり大きくなったなー」
 
両手と海じゃ相当違うよ、とスヒョン兄を見上げる。
 
『青空と夜空を足したよりも大きいくらい』
 
調子に乗って続けるヒョンは、すっかり笑顔になっている。
 
「それいいね、キソプ兄からの受け売り?」
 
軽口を叩けば、両頬を寄せられる。
 
『お前のために頑張って考えたのにー』
 
二人して声を出して笑い、僕は再び抱きしめられる。
 
そして耳に届いたのは、ありきたりで、でも心臓が止まりそうになるには十分な一言だった。
 
『言葉では表せないくらい、愛してる』
 
僕もだよ、となんとか返して、僕はスヒョン兄の背中に回した腕に力を込めた。
大水槽の前は劇場のように円形の階段になっていて、客が自由に座れるようになっていた。
スヒョン兄はその端に腰を下ろし、僕はその隣に立つ。
 
「タイミングが合えば何かショーが見られるのかな」
 
僕の呟きには反応せず、スマートフォンを構えて、真剣にシャッターを切る。
 
「ちょっと暗いかな」
 
首を傾げ、撮り直す。
今度は上手くいったらしい。
見上げるように振り返り、僕に画面を見せた。
 
「どう?」
 
画面いっぱいの青い水。
ちょうど中央に魚の群れが写っている。
 
「綺麗に撮れてる」
 
スヒョン兄はスマートフォンをしまうと、水槽に視線を戻す。
 
岩の下にウツボが隠れてる。
あの大きいのはナポレオンフィッシュ。
エイとサメ。
模様が綺麗な熱帯の魚。
 
それから少し考え込むように黙って、前を向いたまま言った。
 
「魚には水が見えない、って聞いたことある?」
 
僕はスヒョン兄の横顔を見ながら答える。
 
「大事なものは目に見えないってこと?」
「そうじゃなくて、身近すぎるとかえって気付きにくいってこと」
 
なるほどね、と僕は言う。
 
「俺もこの前知ったんだけど」
 
スヒョン兄は口を開いたまま一瞬止まって、それから僕を見た。
 
「俺は魚じゃないから、フンミンのことはちゃんと見えてる」
 
僕はちょっと驚いて、スヒョン兄を見つめ返した。
 
魚に水が見えないなら、人に見えないのはきっと空気だろう。
実際、見えないし。
水中で水を見るのは難しいし。
 
何度か瞬きしてから、僕は首を傾げてみる。
 
「ヒョンのこと、見えてると思ってたけど、勘違いだったかも」
 
スヒョン兄は笑って、自分の隣の段を指差した。
促されるまま座った僕の肩を抱いて、水槽を見つめる。
 
こういうときは大抵、自然に身体が揺れる。
きっと、頭の中で音楽が鳴ってるせい。
ときどき無意識に口が動いてるし。
 
僕は笑みを噛み殺す。
ちゃんと自分も見ていたんだと確信して。
 
空気のようだと思ってくれるなら、やっぱり嬉しい。
でもきっと、見えないのはそれじゃない。
 
魚には水を。
スヒョン兄には空気の振動を。
 
本人には見えなくても、僕にはちゃんと聞こえてる。