サラリーマンパラレル、ということはKSはスチールカメラマンか。
普通に大人な感じで出逢いから。
2Seopで「木こりの泉」。元ネタはもちろんドラえもん。
女神のあたりの記述がないと、JSの自作自演みたいだね。
話し方も変えて。何もかも変えて。
ある日、二人が漢江沿いを歩いていると、何かアクシデントがあってJSが川に落ちる。
すると女神が現れて「あなたが落としたのはこのAJですか」と、笑顔キラッキラで紳士的でスーパー優しいJSを出す。
KSが正直に「違う」と答えてしまったので、きれいなJS(以下、AJ)が残され、女神は姿を消す。
うろたえるKSを、AJは慰め楽しませようとするが、KSは元のJSを取り戻すにはどうすればいいか考え落ち込む。
***
お昼が近付くと、川沿いの人通りはますます多くなる。
強くなる日差しとは逆に、僕の気持ちはどんどん暗くなっていく。
〝AJ〟は腕時計を見て、優しく言った。
「キソプ、お腹は空いてない?」
「空いてない」
本当は少し空いてたけど、何かを食べる気分にはなれなかった。
どうしよう。
どうしたらジェソプを元に戻せるだろう。
AJはうつむく僕の顔を覗き込むように尋ねる。
「朝、あまり食べなかったでしょ?」
僕は視線をあげてAJを見た。
AJは困ったように、でも笑いながら僕を見る。
困ってるのは僕なのに。
朝食を食べなかったことを知ってるのは、ジェソプなのに。
「食べたくない」
僕が答えると、そっか、と言ってAJは頷いた。
「俺は空いたんだけど」
遠くを見ながら、静かに呟く。
「付き合って食べてくれる?」
やっぱり笑顔で発せられた言葉に、僕は首を振る。
「どこかに行くのは嫌だ」
「じゃあ、何か買ってここに持って来ようか」
キソプの分も買ってくるから、とAJは歩き出そうとする。
僕は思わず腕を掴んで引き止めた。
「置いて行かないでよ」
ジェソプがいなくなったここから動く訳にはいかない気がした。
でも、AJの姿が見えなくなるのも嫌だった。
そのまま戻ってこなかったら、本当に途方にくれるしかない。
「わかった」
AJは肩をすくめて、僕の隣に戻る。
「キソプの気が済むまでここにいよう」
それから、心の底から、といった笑顔を見せた。
ジェソプの姿で、そんなこと言わないで。
「誰のせいだと思ってるの?」
笑顔のまま、AJは冗談めかして言う。
「俺のせい?」
「そうだよ」
僕はイラっとして、ぶっきらぼうに言った。
AJはまた困ったような顔になる。
「どうして?」
「AJはジェソプじゃない」
「〝AJ〟は俺のステージネームだよ」
「君は、ジェソプじゃない」
僕が言うと、AJははっきりと顔を曇らせた。
「俺はジェソプだ」
分かってる。
君もジェソプだ。
朝ちゃんと食べたのに、この時間にはお腹が空くなんてジェソプだ。
その顔も、声も、仕草も。
まるでジェソプだ。
「違う。君は違うよ」
AJを傷つけることは分かっていたけど、口から出る言葉を止められなかった。
「お願い」
僕は自分の頬に伝う水滴を感じた。
「ジェソプを返して」
AJはまっすぐに僕を見つめる。
こんなところは、ジェソプみたいなのに。
「お願い」
AJは悲しそうな顔で、僕を抱き寄せた。
泣く子供をなだめるように、AJは僕の額にキスをした。
「わかった」
優しく落ち着いた声がして、ぎゅっと強く抱きしめられる。
それからふいに身体が離された。
僕が驚いて顔をあげると、AJは笑って、勢いよく漢江に飛び込んだ。
*
大きな水音がして、身体が衝撃に包まれる。
それから、圧迫感と浮遊感が同時にやってきて、自分が水の中に居るのだと分かる。
水。
淡水。
漢江だ。
キソプと二人で漢江を散歩していた。
なぜか俺は川に落ちて、どうしてか今は溺れかけている。
水中で何とか体勢を整えると、足が川底についた。
深い場所ではなかったらしい。
どうにか立つと、胸から上は水面から出た。
水流はあるが、岸まではたどり着けそうだ。
「AJ!」
河川敷に目を向けると、水際ぎりぎりに膝を付いたキソプがいた。
今にも飛び込みそうな雰囲気に、身振りで無事であることをアピールする。
「大丈夫、一人で戻れる!」
冬でないとは言え、水が温かいはずもない。
二人して風邪でも引いたら、それこそ目も当てられない。
流されないように注意しながら、川岸を目指す。
近付くにつれ、キソプがはっきりと顔を青くしているのが分かった。
川に落ちたくらいで、と思ったが、まあ、確かに普通ではない。
岸に着き、キソプに手を引いて貰って地上に戻ると、水を吸った服が途端に重くなった。
太陽は高いが、風が吹くと少し寒く感じる。
さっさと帰るべきか、どこかで着替えを手に入れるべきか。
いや、それよりも前に。
「キソプ」
手を貸してはくれたものの、一歩離れて固唾を飲むように立ち尽くしたキソプに声をかける。
「俺、何で落ちたんだっけ?」
キソプはその問いには答えず、確かめるように俺の名を呼んだ。
「ジェソプ?」
「うん?」
「本当にジェソプ?」
本当に、とはどういう意味だろうか。
「何それ」
眉を寄せて答えると、キソプは俺に抱きついた。
「バカ、濡れるだろ」
言っても、キソプの力は強くなるばかりだった。
腕の時計を見ると、さっきよりも明らかに時間が進んでいる。
俺はキソプを抱きしめ返しながら、お気に入りの時計を水に入れて壊したことにため息を吐いた。