Elvin状態でJS乙、仲良しJaeliと苛々KE、EL蚊帳の外でJaevin、どれでも可。
* 2013-04-13追記。
画像だけ見て早とちった。
KEはメンバーじゃないのか。
ってことはJaelihoonとかSoojaeliの可能性もあるんじゃないか。
夜の闇から浮かび上がるように現れた白のアウディは、僕の前で滑らかに停車した。
助手席に乗り込むと、運転手であるシウォン兄は笑った、
ように見えた。
「お待たせ」
その顔を見て、思わず呟く。
「マスクなんて珍しい」
「うん、ちょっとね」
シートに座ってドアを閉め、シートベルトを締める。
膝の上には自分の鞄と、エコバッグ。
「その中、何が入ってるの?」
「ご飯作ろうと思って」
食材を買ってきた。
何を作っても、シウォン兄はきっと美味しいと言ってくれるだろうけれど。
冷蔵庫に何もなかったら、作ることもできないから。
「リョウクの手料理、久しぶりだな」
マスクをしたままでも破顔したのが分かる。
「楽しみだ」
ギアがドライブに入って、車は止まったときと同じようにスムーズに走り出す。
シウォン兄の家までは、ここから十数分だ。
――― あの建物を「家」と呼べるなら。
ハンドルを握るヒョンは、楽しそうだった。
その横顔はマスクに隠され、僅かに見える頬に。
「あ、髭?」
声を出すと、シウォン兄はちらりと僕を見た。
「バレちゃった?」
「伸ばしてるの?」
「うん。今度の役でやるかもしれなくて」
きらきらと少年のような目が輝く。
「明日の衣装合わせで試すことになってるんだ」
「なるほど」
シウォン兄にはきっと似合うだろう。
男らしい顔立ちに、整えられた髭。
童顔な自分とは大違いだ。
「僕は髭はキライ」
ため息をついて視線を逸らした。
「似合わないかな」
まだ楽しげな声で、シウォン兄が言う。
「ヒョンは似合うよ」
「まだ見てないのに」
クスクスと笑うヒョンに、僕は唇をそっと噛んだ。
整えるのは明日でしょう。
でもきっと、無精髭だって似合ってしまう。
「僕には似合わない」
ただでさえ自分の体毛には苦労させられている。
「髭なんて生えなくていいのに」
ため息を吐いて、ふと我に返る。
つまらない愚痴。
コンプレックス。
シウォン兄の前で言うようなことじゃないのに。
そっとヒョンの様子を伺ったが、マスクに隠された表情は読めない。
別にいいけど。
呆れるなら、それでも。
二度目のため息を飲み込む。
――― 今夜は楽しくなるはずだったのに。
顔を背けて外を見ると、もう住宅街の中だった。
白のアウディは、ほどなくしてヒョンの「家」に着く。
地下の駐車場に滑り込み、タイヤを鳴らしながらゆっくりと停車する。
「到着しました」
シウォン兄の声を聞き、僕はシートベルトを外す。
ドアを開けようとしたところで、名前を呼ばれた。
「リョウク」
振り向けば、目の前にはマスクを外したヒョンの顔。
珍しく髭を生やした、しかし変わらない優しい表情で。
シウォン兄は僕に口付けた。
「チクチクする?」
唇が離れると、ヒョンは柔らかな瞳のまま言う。
「うん」
「ごめん。でも、もう一回」
そのキスは最初のキスよりも深くて、その分余計に髭が当たった。
二度目の口付けの後、僕は言った。
「やっぱり、髭はキライ」
痛いキスなんて嫌だ。
その意味がシウォン兄に伝わったかどうかは、僕には分からなかった。
分かったのは、それを聞いたヒョンの笑顔が、さっきまでの心の澱をウソのように溶かしてしまったことだけだった。
二つの掌が音もなく俺の頬を包んだ。
その手は滑るようにゆっくりと下がり、喉で止まった。
「辛い?」
横から覗き込んできだジェジュン兄は、思ったよりも不安気ではなかった。
「平気だよ」
そう返せば、笑みさえ見せる。
「よかった」
それはきっと、もちろん。
あの赤のお陰。
「もつよ、あと二日」
「うん」
「大丈夫」
首から手を解き、背もたれを乗り越えて、ジェジュン兄はするりと俺の隣に座った。
「早く治りますように」
腕を俺の肩に回し、もう片方の手で喉を摩る。
「あんまり触られると苦しいんだけど」
「あはは、ごめん」
さらに口角をあげて、ヒョンは手を離す。
「大丈夫だね」
揺れる瞳に、ようやく宿る感情。
「大丈夫だって言ってるでしょ」
抱き寄せれば、首元で笑う気配がする。
こんなときにさえ笑って見せるのは、この人の治らない癖。
それを見た俺たちがどんな気持ちになるのか、決して気付かれてはいけないけれど。
「ヒョン」
「うん?」
ヒョンは顔を上げ、無邪気に微笑む。
俺は目を閉じずに、その唇を啄んだ。
指が画面に触れると、シャッター音が響いた。
「盗み撮りばっかりしてないで、自分のセルカ撮ったら」
キソプはそう言って、再びシャッターを切る。
「今は撮ってない」
答えると、ようやく顔を俺に向けた。
「自分を撮るの」
「別にいい」
「セルカあげると、ファンの子たちが喜んでくれるよ」
それはキソプだからだ、という言葉を飲み込んだ。
「俺、セルカ下手だし」
「練習しないとうまくならないよ」
キソプは立ち上がって、俺の腕を取った。
「ここに座って。僕と同じように」
言われるままに俺が座ると、スマホを構える。
「前と横から光が当たるからキレイでしょ?」
「まあ、そうかも」
画面に映った自分を見れば、なるほど悪くない。
「じゃあ、笑って」
「笑うの?」
「セルカの基本は笑顔です」
「ハイ、センセイ」
笑顔を作ると、シャッターが切られる。
撮った写真を確認し、キソプは頷いた。
「いいんじゃない?」
そう言って画面を俺に見せる。
「今度はジェソプので撮りなよ」
「それ、俺に送ってよ」
「ダメだよ、僕も写っちゃってるし、撮ったの僕だし」
場所もアングルもキソプが決めているのに、自分で撮ったと言えるだろうか。
俺は仕方なくスマホを構えて、キソプを見た。
「一緒に入って」
「僕が?」
「教えてもらったって、ツイートに書くから」
少し納得していなさそうで、けれど素直に隣に座る。
キソプが入るように角度を調整して、俺は尋ねる。
「センセイ、これでどうですか」
「うん、OK」
「じゃあ撮るよ。1、2」
カメラを構えた手が揺れないように注意して、俺はキソプに口付ける。
その瞬間にシャッターを切って、写真に収める。
唇を離して横を見ると、驚き顔があった。
頬を赤くしたキソプを無視して、俺は画面を確認する。
タイミングも合っていて、ちゃんとキスをしているのが分かった。
「良く撮れました。センセイのおかげで」
「何するの」
見ればキソプは口を押さえて、まだ目を見開いている。
「この写真あげたら、ファンは喜んでくれるかな」
気にしない振りをして尋ねると、言葉を失って口を開けたまま固まった。
「あげないけど」
俺がそう言うと、少しだけ表情が緩んだ。
「構図から何からキソプが決めたから、自分で撮ったとは言えないよな」
眉間に皺が寄って、キスしてるからじゃないのか、と目が訴えてくる。
違うよ、キスしてるからじゃない。
そう答える代わりに、笑みを作る。
不意打ちに驚いてる顔を独り占めするためだなんて。
言ってあげない。
街灯から距離を取るように、下を向いたままキソプが歩く。
一歩、また一歩。
と思ったら今度は戻るように。
時折空を見上げると、揺れる髪に天使の輪が光った。
しばらくその姿を眺めていたが、様子が変わらないので、僕はついに尋ねる。
「何やってるの?」
キソプは顔を上げて、僕を手招いた。
「こっちきて、見てみて」
近付くと、キソプは地面を指差す。
「月で影ができてる」
見れば、確かにうっすらとした影があった。
「街灯じゃなくて?」
僕が言うと、今度は街灯を指差す。
「街灯がそっちで、影がこっち。月が、ほら」
上を見上げると、明るく丸い月が白く輝いていた。
もう一度下を見ると、街灯が作るにしては短すぎる影があった。
「本当だ」
沈んだ影の周りは、月明かりに照らされて淡い灰色にさえ見える。
「綺麗だね」
「でしょ?」
満足そうに微笑んだキソプは、それは美しくて。
「月光浴が似合うね」
僕は思わず言った。
「そう?」
「うん、似合う。キソプってあんまり地上の人じゃないみたいじゃない」
続けた言葉に、キソプの頬が膨らんだ。
「それ、どういう意味?」
僕は笑って弁解する。
「天使みたいだよ」
「そういう意味じゃなかったでしょ」
「そういう意味だよ」
不機嫌な顔を愛しく思うのは、あまり健康的じゃないだろうか。
「本当だって」
僕はキソプに抱きついて繰り返す。
「僕には本当に天使みたいだ」
回し返された腕の主は、でもまだ不満そうで。
さらに愛しさが込み上げた。
「なんか馬鹿にしてない?」
「誓ってしてない」
「どうかなあ」
疑い深い天使は、笑いを堪える僕を怪訝そうに見た。
「信じてよ」
逃げられないように抱きしめて、僕はキソプにキスをする。
ほとんど音だけの軽いキス。
「愛してるよ」
顔を離し、それでも絶句してしまったキソプに告げれば、天使は頬を染めて、うつむくように頷いた。