最近、写真サークルに新入生DHが入ってきた。
DHは家が近所で、コンビニの常連客でもあった。
KSはDHの参加を喜び、サークルの外でも交流を深めていくが…。
部屋とかじゃなくても、会話を録音されてたら結構アレだよね、というワンアイデア。
写真は本人の許可を得て撮るギャップ。
DH視点で、今回はKSの一人称が俺です。
* ストーカーネタ注意。
***
広い中庭の真ん中には、大きな木が立っている。
その下のベンチに、彼が座っているのが見えた。
僕はバッグパックのポケットを探って、レコーダーのスイッチを入れた。
近付いていくと、彼は僕に気付いて手を振った。
「ドンホ!」
花が咲くような笑顔に、自分の胸が強く打つのが分かる。
名前だけで呼んでくれるようになったのは、もう1ヶ月も前のことなのに。
「キソプ兄さん、これから講義ですか?」
「うん。ドンホも?」
兄さん、と呼ぶようになってからも一月は経つ。
けれどまだ、口にするたびに心臓が飛び出るようだった。
「教授がお休みで空いちゃったんです。だから、この間の写真を確認しようかなって」
僕が肩を竦めると、彼は口角をさらに上げた。
「そっか。じゃあ部室にいるね? 迎えに行くよ。お昼は外で食べよう」
「わかりました」
「次の講義、ケビンも一緒だから」
最後の一言に、背筋がすっと寒くなる。
彼は立ち上がり、鞄を手に持って大きく伸びをした。
「じゃ、また後で」
「はい」
講義へ向かう彼の背中が建物の中に消えるのを待って、僕はバックパックに手を突っ込む。
レコーダーを手探りで止めて、ショルダーベルトの見えない位置につけたマイクも念のため確認した。
よし、問題ない。
部室へ行ったら、一応聞きなおそう。
そしたらデータを家のサーバーに送ってしまって、端末をクリーンにする。
ケビン先輩の名前が出たのは気に入らないけど、笑顔は極上だった。
今日は13日。
僕が彼に恋をした記念日だ。
家の近くの公園で初めて見て、そして翌週コンビニで再会を果たした―――あの5月から、もうすぐ2年。
撮りためた写真も、録りためた会話も、多いようで、まだまだ足りない。
コンビニに通い、同じ大学に進み、同じサークルに入って、彼が僕を「弟」と呼んでくれるようになっても。
近付けば近付くほど、深みには落ちていくようだ。
僕は歩き始め、空を見上げる。
芽吹き始めた木々から、陽の光が零れていた。
何か理由をつけて、後で写真を撮ろう。
彼はどの季節だって似合うけど、春は光がいい。
せっかくの月記念日だけど、まあ3人でも構わない。
ケビン先輩は最近、僕のことを警戒しているようだから…。
意味もなく頭を振って、僕はバックパックを背負いなおす。
それから深呼吸して、部室のある棟を目指した。