街灯から距離を取るように、下を向いたままキソプが歩く。
一歩、また一歩。
と思ったら今度は戻るように。
時折空を見上げると、揺れる髪に天使の輪が光った。
しばらくその姿を眺めていたが、様子が変わらないので、僕はついに尋ねる。
「何やってるの?」
キソプは顔を上げて、僕を手招いた。
「こっちきて、見てみて」
近付くと、キソプは地面を指差す。
「月で影ができてる」
見れば、確かにうっすらとした影があった。
「街灯じゃなくて?」
僕が言うと、今度は街灯を指差す。
「街灯がそっちで、影がこっち。月が、ほら」
上を見上げると、明るく丸い月が白く輝いていた。
もう一度下を見ると、街灯が作るにしては短すぎる影があった。
「本当だ」
沈んだ影の周りは、月明かりに照らされて淡い灰色にさえ見える。
「綺麗だね」
「でしょ?」
満足そうに微笑んだキソプは、それは美しくて。
「月光浴が似合うね」
僕は思わず言った。
「そう?」
「うん、似合う。キソプってあんまり地上の人じゃないみたいじゃない」
続けた言葉に、キソプの頬が膨らんだ。
「それ、どういう意味?」
僕は笑って弁解する。
「天使みたいだよ」
「そういう意味じゃなかったでしょ」
「そういう意味だよ」
不機嫌な顔を愛しく思うのは、あまり健康的じゃないだろうか。
「本当だって」
僕はキソプに抱きついて繰り返す。
「僕には本当に天使みたいだ」
回し返された腕の主は、でもまだ不満そうで。
さらに愛しさが込み上げた。
「なんか馬鹿にしてない?」
「誓ってしてない」
「どうかなあ」
疑い深い天使は、笑いを堪える僕を怪訝そうに見た。
「信じてよ」
逃げられないように抱きしめて、僕はキソプにキスをする。
ほとんど音だけの軽いキス。
「愛してるよ」
顔を離し、それでも絶句してしまったキソプに告げれば、天使は頬を染めて、うつむくように頷いた。