そろそろ梅雨入りですね。
ということで『梅雨物語』を読みました。
とはいえ。
もうずっと梅雨らしいしとしと雨音を聴いていないような気がします。
気候が亜熱帯になってきているのかな?
梅雨というよりは雨季のような、ゲリラ豪雨だとか土砂降りだとか、スコールのように一気にドドドド!とバケツをひっくり返してハイおしまいみたいな風情のない雨が降るようになりました。
霧雨に近い静かな雨が鈍色の空と地面を繋げている、陰鬱だけれども静謐な雨の日が好きでした。
窓ガラスの木枠がじっとりと濡れて湿気のこもった部屋のなか、微かに絶え間なく続く雨の音を聞きながら本を読んでいると、世界にひとりだけ取り残されたような、永遠の自由を手に入れたような、そんな気持ちになったものでした。
中編集。
秋雨物語に続き、怪談話のような情感がありました。
皐月闇
老いた男のもとにかつての教え子がやってくる。
虚ろにまばらな記憶とちぐはぐに明晰な解説が違和感たっぷりに語られる。
若い女を描写するときにあらわれる男の舌舐めずりするような欲望の発露がザラリとした不快感となって神経を逆撫でする。
きっとここにはたくさんの嘘が詰まっている。
事件の真相はさほど意外なものではなかったけれど、繰り返される復讐の恨みの濃さには慄いた。
モンスターマザーと溺愛された兄のエピソードはどこまでが本当のことなのか。
本筋とは関係ないけれども、そっちもなんとなく怖かった。
用意周到で抜け目ない彼女なら……。
ぼくとう奇譚
急に昭和初期。
テイストが文豪のあの時代のあの感じ。
と言っても永井荷風の著作はひとつも読んでいないんだけれども。でもあのかんじです。カフェーの女給。煙管に葉巻。書生さん。舶来品。洋館。座敷。袴に下駄に外套。そういう世界観。
黒い蝶に誘われて、悪夢の妓楼に夜毎訪う主人公。
浮浪者のような修験者。
美貌の僧。
呪いを防いでくれるのか?
なぜ呪われなければならないのか?
争う武士たちと艶かしい花魁たち。
甘い蜜に惹かれた結末。
虫だらけ。ちょっとグロいけど読後感スッキリ。
くさびら
きのこ。
たくさんのきのこのお話。
ホラーというよりはオカルトで、ミステリー小説。
絵本作家、工業デザイナー、精神科医、女性山伏、探偵……
いろんな職業があるんだなあ。
幻覚は見えている人が‘オカシイ’という先入観があったので、そこを逆転されたのが痛快でした。
タマゴタケで思わずウルっとしてしまった…
ある意味、人情怪談でしたね。
貴志祐介が描くホラーミステリの極北 。あなたの罪が、あなたを殺す。
・命を絶った青年が残したという一冊の句集。元教師の俳人・作田慮男は教え子の依頼で一つ一つの句を解釈していくのだが、やがて、そこに隠された恐るべき秘密が浮かび上がっていく。(「皐月闇」)
・巨大な遊廓で、奇妙な花魁たちと遊ぶ夢を見る男、木下美武。高名な修験者によれば、その夢に隠された謎を解かなければ命が危ないという。そして、夢の中の遊廓の様子もだんだんとおどろおどろしくなっていき……。(「ぼくとう奇譚」)
・朝、起床した杉平進也が目にしたのは、広い庭を埋め尽くす色とりどりの見知らぬキノコだった。輪を描き群生するキノコは、刈り取っても次の日には再生し、杉平家を埋め尽くしていく。キノコの生え方にある規則性を見いだした杉平は、この事態に何者かの意図を感じ取るのだが……。(「くさびら」)
想像を絶する恐怖と緻密な謎解きが読者を圧倒する三編を収録した、貴志祐介真骨頂の中編集。
いろんな作品で引用されまくっている『濹東綺譚』
読むべきなんだろうなあと思いながら読んでいない。
そういう名作、いっぱいあります。