不倫がテーマなのかな?と思ったら、ぜんぶがぜんぶ不倫の話ってわけじゃなかった。
けど、どれも生々しくてうぇってかんじ。
匂わせの恋愛小説。
色と食は官能で繋がっている。
ほうとう
掌編として整っていて好き。
追いつけないおばあさん。ふたりの間にあった愛は逃げ水のようなもので、地に足のついたものではない。それはけして‘ほうとう’ではない。
現実から切り離した箱庭の愛の欺瞞を自らに信じ込ませようとしていた温子が、安海と食べたかった‘ほうとう’がこの‘ほうとう’ではないことに気づいたとき、愛の幻想も壊れた。
結局安海はよくいる不倫男でしかない。
そんな安海、別れの予感がありつつも、幸福に飽きたらまた戻ってきそう。
或いは、スマホの待ち受け画面が子どもの子煩悩ないいひとの顔で、温子ではない別の女と別の箱庭を作りそう。
クリスマスのミートパイ
不安定な男が足を踏み外しかけそうになりながらぎりぎりで踏みとどまった話。
今後もなにかあったら、絵本のミートパイの挿絵と、奥さんの作ってくれたミートパイの味を思い出せ。
アイリッシュ・シチュー
なんというか、ウンザリする昼下がりの情事。
台風だから宅配が届かずにショボくなる夕食。専業主婦なら雨でも買い物行けと言う娘。たしなめる優しい夫の仕事中にどうでもいい電話をかけるのは、暇で退屈だからだろう。
猫のかわりに男を招じ入れた家でコトコト煮た‘アイリッシュ・シチュー’をおいしそうに食べる家族を前に、妻はいつもよりも満たされていたと思う。
大人のカツサンド
‘大人のカツサンド’が真夕と叔父さんが、いつかあやしい関係になる隠喩のように思えた。
大人の秘密をひそかに知っている少女。
父親と叔母の不倫。鈍感な母と叔父。
歪さを背伸びで平衡をとろうとする子どもには哀しいあやうさがあり、危険な色香になっている。
煮こごり
漫画『ファブル』の劇中昼ドラみたいに‘火曜日の女’‘金曜日の女’‘日曜日の女’が登場する。
まあ笑うしかないよね。
ゆで卵のキーマカレー
キーマカレーをテイクアウトしてくれる優しさがある男に絆される主人公はチョロい、男運の悪い女だ。
歴代の彼氏はもっとどクズだったかもしれないが、「娘が来るから」化粧品から食器までスーツケースに詰め込んで家から出て行かせる男はクズだ。
婚姻届どころか離婚届すら出してないのにいっしょに住めるって喜んでる場合じゃない。
父の水餃子
ふだんまったく料理しない人間が急に作った‘水餃子’……タレは醤油?ただの?そのまんまの?
それが最初で最後の料理か。
しょうもない。
目玉焼き、トーストにのっけて
トーストを一口サイズに切り分けてたまごも切ってフォークで食べるなら、トーストに載せないで別にした方が食べやすいと思う。ジブリみたいに乗せたまま大口開けて食べるならトーストにのっけたらいいと思う。
中学生の息子と同じくらいの年恰好の少女(初対面)がセックスしました顔で朝食の場に登場してもブチ切れない親は寛大なんだかびっくりしすぎたのか。
家族が暮らす家で恋人とイチャつける感覚もわからない。
とにかく感覚が宇宙人すぎてこの中学生カップルのなにもかもが理解不能。
ベーコン
亡き母の恋人が育てた豚の‘ベーコン’の脂が透明に溶けてしたたる描写は下世話な官能がある。「あなたはお母さんによく似ているよ」という言葉も。
主人公が優しくて無神経な婚約者とずっと添い遂げられる気がしない。