女の十字架 明智抄 | [ridiaの書評]こんな本を読んだ。[読書感想文]

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ブスは女性としての権利を持たない

 

 

1990年発行の漫画をご紹介。

女の十字架 (花とゆめCOMICS)

女の十字架 (花とゆめCOMICS) [新書]


明智抄作女の十字架  
短編集で、収録作品は表題作「女の十字架」「女の勲章」「音痴殺人事件」「若人の倫理」「僕達の休日」

(「僕達の休日」にはキャプテンコズミックとドクタースケルトンが登場。イチャイチャが楽しい)



この著者はさまざまな作品で繰り返し美人とブスの対比を描く。
なかでもこの「女の十字架」は、強烈。



徹底的にブスをこき下ろす。
そしてブスの描写に容赦ない。
ブスのほほえみは暗い 
ブスは美人の引き立て役
だけどブスだけでつるむと見てられない
 ……などなど、読んでるこっちのライフが削られていく。

 
主人公の美子(よしこ)は極端なブスではなくせいぜい十人並みの普通の容姿だが、美女でブスに偏見がある母親にブスブス言われて育てられ、コンプレックスをもつようになっていた。

来客があったらブスだからと押入れに隠され、幼稚園で好きな男の子ができたと言えば幼くしてブスな女の子は愛されないという現実に直面するなんてかわいそうだと嘆き、美しく産んであげられなくてごめんなさいと言う母親。
美子はブスの烙印に苦しみながらも、くじけず努力を重ねる。

ただ美しいだけの馬鹿より、賢く気遣いのできる人間の方が素晴らしいはず。

しかし美子が好きな先輩は漢字も読めない美人の馬鹿である同級生深山さんと恋人になるのだった。

(頭の悪い深山さんはひらがなでしゃべる)

その後先輩は大学受験に失敗し、深山さんに振られてしまう。
美子は落ち込む先輩を励まし慰め勉強して、ふたりで大学進学に成功し、お付き合いするようになる。
化粧を覚え私服でのおしゃれができるようになり、長年のコンプレックスから解放された……かにおもえたとき、あの深山さんと再会。先輩を「わたしのおさがり」呼ばわりされてしまう。しかも深山さんにはエリート官僚の婚約者がいると自慢されてしまった。

人間の価値は美しさではないと思って努力してきたのに、美人は美人というだけで幸福をつかむのか。


美子の美しい母親も深山さんも、ひどい性格だが、天罰が当たったりはしない。それどころか大きな幸運や幸福を掴んでいる。
化粧でごまかせるレベルの顔面である美子も、先輩と付き合うことができる。
モブで登場するブスたちはまったく救済されない。罵詈雑言を浴びせられ石を投げられるだけ。美人は讃えられ、ブスは蔑まれる。その構造は微動だにしない。


いくらなんでも現実はここまでひどくないけれど、それでも、これは残酷な事実。生々しい真実。だからこそ胸を打つのだろう。古傷が疼くように。



明智抄、独特っていうか、下手な絵なんだけど、すごく好き。
進撃の巨人 も、 モブサイコ100  も、けして美しいとはいえない絵だけれども、その絵だからこその味がある。
漫画にとって美しく整った絵が絶対正義ではないのだ。
(と言いつつ美々しくも麗麗しい 松苗あけみやおおや和美のような、つまんないけど眺めているだけで嬉しくなる絵を描く漫画家も捨てがたい。あ、つまんないって言っちゃった。ファンの人ごめん)