趣味を探して放浪していた数年前、伝わる文章学という全5回の講座を受講した。
以前のブログにも少し書いたけれど、この講座をきっかけに、いろいろなフリーランスの方たちと出会った。
一度はサラリーマンを経験したうえで、好きなことを仕事にした方が多かった。
なんとかやってゆけるものですよ、と言われて勇気も才能もない私はとても羨ましかった。
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そのなかのひとりに、アニマルコミュニケーションを副業としている女性がいた。
霊感のある人特有の、どこか遠くを見ているような目が印象的だった。
物ごころついたときから自然に動物と話せていたので、他の人たちも同じように話せるものだと思っていたそうだ。
通学路で猫と話しながら帰ったことを作文に書いて賞を取ったとき先生に、今度は本当の話を書いてみましょうね、と言われてとても傷ついた。
以来動物と話せることを誰にも言わないようにしていたけれど、最近になって自分のその能力を動物たちのために活かせるのではないかと考えはじめたと言う。
そのころ私は夏休みの旅行でペットシッターを頼み、10日ほど家を空ける予定があった。
長い留守番を飼い猫のちーがどう思うのか気になっていた。常に家で独りぼっちにさせていることも気になっていたため、彼女にアニマルコミュニケーションをお願いすることにした。
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東京駅地下の喫茶店で、ちーとのコミュニケーションがはじまった。
最近の写真を見ながらちーの守護神を通じて会話する、というスタイルだった。
来週から10日間の旅行にゆくよ、と伝えてもらうとちーは、
けっこう長いね、
と言った。
お留守番は嫌いじゃないけど、家が真っ暗だと寂しくなるから玄関の電気はつけて、
と言われた。
ママの帰りが遅くなるとどこかに行っちゃったんじゃないかと心配になるから、朝、いつもより遅くなるよ、とかいつもどおり帰るよ、とか、教えてほしいな、とも言われた。
時計の時刻はわからないのでいつもの時間と比較して伝えるとわかるとのことだった。
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アニマルコミュニケーションは何も特別なことじゃなくて、飼い主がきちんと話せばちゃんと伝わると言う。
だけどこちらから、例えば壁をガリガリしないでとか、ちゅーるばかり食べないで、などと要望することはできない。
自分ではコントロールできないからこそ動物たちも困っている。
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私は夢中になってびっしりとメモを取った。
最後に何かママにお願いしたいことはないか、と聞くと、
二階にもトイレとお水をのむところがあればいいな、と言われた。
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家に帰って子どもたちにこの話をすると、大笑いされた。
だけどそういえば、とふたりで顔を見合わせてから、ママがその人と話していいたのは何時ごろ?と聞かれた。
私がちーと話をしていた19時から20時まで、ちーは普段見たこともないソファーの裏側に顔を突っ込んで全然動こうとしなかったので、ムシでもいるのかな、って話していたんだよと言われた。
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私はちーとの約束を果たそうと、すぐに二階にトイレと水を張ったお皿を置いてやった。
ちーは水のお皿を二度見して、目を見開き、私にむかって
まじで!?
と言う顔をした。
したんだよ、本当に。
話が通じた、ってびっくりしたんだろうね。
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バカバカしいと思う人がいても構わない。
信じるとか信じないとかの問題じゃなくて、この日から私のちーを見る目が変わった。
今までだって可愛がってはいたけれど、声に出して話しかけたりしたことはなかった。
こんなことを言うと怒られるかもしれないけれど、それまでペットを擬人化して可愛がる人をどちらかといえば冷ややかな目で見ていた。
ちーの心のうちを想像するうち愛情がどんどん大きく膨らんだことが、アニマルコミュニケーションの何よりの収穫だったと思っている。
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ちーはあの日、ソファーの裏側の時空の隙間を通じて、私と話をしていたに違いない。
と思うことにしている。
↑ ママとわたしは仲良しだからいつも一緒にテレビを見てる、とハキハキ自慢していたと言うちーの近影。