巨大な化け物を前に、それでも気丈に立ち向かうディエマ。
血だらけの顔…
とても、勝てる気がしない。
(逃げろ!!シレイス!!)
(何を言ってる!!まだいけるぞ)
(無理してんじゃねえ!!俺が誘ったんだ。けじめはつける)
(し、しかし…)
(なめんじゃねえ。あれがあれば俺は無敵になれる…だろ?)
(そ、そうか!!)
手を交差し、呪文を完成させる言葉を吐きながら、気合一閃、ディエマに能力を飛ばす。
震える手…
希望をもって、唱えられた呪文。
力を増幅させる魔法…のはずだった。
しかし、恐怖は、かける魔法の力加減を狂わせる。
うごぉぉおおおおおおおおおおおおおおお
突如白目を向き、暴れだすディエマ。
(ディエマぁぁあああああっ!!!!!)
それが人を狂人化させるバーサークだと知ったのは、助かってからだ。
ディエマは健闘した。
近づくもの、目に触れるものすべてをぶった切る。
気迫…普通の人間ならば、おののくほどの気迫。
だが、やみくもな攻撃が魔物に直接ダメージを加える事は無い…
ガシッ!!
返り討ちに会いそうなディエマ。
痛みを感じず極限まで力を高めた体で魔物の攻撃を防ぐ。
ただそれだけ…
攻撃しようと試みているのはわかるが、実力が違いすぎる。
助けに入る隙すら与えない疲れ知らずの化け物。
このまま体への負荷が続けば、ディエマの敗北は目に見えている。
だが、バーサークを解除するわけにもいかない。解除すればあっという間に全滅…
それと、解除するには、ディエマに触れる必要がある。
バーサークのおかげで命をつないでいる状態だった。
攻撃魔法で加勢する隙を伺っているのだが、速すぎてタイミングがつかめない。
そんな時だった。
(バカヤローが!!!)
化け物が攻撃、ディエマが剣で受け流す一瞬のスキをついて、化け物の顔に飛び乗った者がいる。
(シド!!!)
(ラリスが教えてくれた!!)
言いながら一閃、シドの剣が化け物の左目にぶっ刺さる。
あまりの痛みにのたうち回る化け物。
化け物の起こす土煙の中、するりと降り立つシド。
落差は三メートルと言ったところか…
(逃げるぞシレイス!ディエマ!)
首飾りを掲げるシド。
(掴まれ!!)
化け物は相変わらずのたうち回っている。
捕まれと言われ、ディエマを探すシレイス。
(魔法を解かなければ…!!!)
見回すが居ない…
ディエマが狂人と化している事をシドは知らない…
(まずい…シドッ!!シドォオ!!ディエ…)
危険を知らせようと声を上げるシレイスが言葉を切る。
視線の先には、シドに向って剣を構えるディエマがいた…
同時に走り出すシレイスに、危険な状況とは夢にも思わないシドの声が聞こえた。
(おい、何ふざけてやがる?)
(シド!よけ……!!!)
必死の声も届かず、最悪が起こってしまう。
ドスッ…
音にするならそんな感じか…
しかし、音は無い。
シドの右太ももから膝にかけて、光る刀身が食い込んでいた。
柄を握る狂人の手は容赦なくシドの足を切り裂こうと持ち手を引こうとしている。
?????
キョトンとした表情のシド。
目で確かめるが、理解できない。
少しして感じる切っ先の感触。
冷た温かく流れ出す血の感覚と痛み。
それらの感覚は極限状態のシドにスローモーションのように一つずつ伝わる。
(………!!!!)
発狂しそうなほどの痛みが駆け抜ける。
あまりの痛さに歯を食いしばる。
足が無くなると覚悟するシド。
しかし、させなかった!!
シレイスが体当たりでディエマを止めたのだ。
馬乗りになると、バーサークの解除の為にディエマに触れる。
しかし…
グワーオオオオオオオッ
ものすごい力で馬乗りになったシレイスごと立ち上がるディエマ。
(馬鹿な効かないだと…)
戦慄するシレイス。
当然と言えば当然だった。
解呪の方法はそれぞれ違うのだ。
決まった作法をたどらなくてはいけないし、呪文の意味を理解する必要がある。
禁忌とされるバーサークなど、この時点では聞いたことすらないシレイスでは解呪出来るはずもなかったのだ。
教わってもいない禁忌の技が成立したのはシレイスの才能ゆえだ。
しかし、この場合は悪い方向に作用してしまっていた。
振り落とされ、受け身を取るシレイス。
尚もシドのもとへ向かおうとするディエマ。
(やめろディエマ!!)
立ち上がり、突っ走る。
しかし、必要なかったようだ。
糸が切れたように崩れ落ちるディエマ。
受け止めるシレイス。
(早く…掴まれ…)
出血多量で瀕死のシドにそう言われ、掴まると戦士の門から脱出し、ラリスのもとへ…
本来は不用意な侵入を防ぐための結界呪法なのだが、役に立ったようだ。
そのあとは、よく覚えてない。
とにかく、シドの回復が優先事項だった。
ラリスも色々と手をつくしたが、当時の彼女には完全な状態で治す事は出来なかった。
(踏み込みの鬼も仕舞いだな…戦争で作った罪のツケって奴かもな…ちきしょぉ…俺もまだまだ修行が足りんな…)
気にするなと言うシド…
しかし…
伝説と呼ばれた戦士から、その強さの象徴である足を奪ってしまった。
(俺たちのせいだ…)
あの日から二人…
ずっと十字架を背負ってきた。
「ディエマはあんなだから、どうか知りませんが、私は無意識にシドと距離を置いている自分がいると知っていました。オリオストが現れた時もそうだ…共に行動しなかった」
走るシドとディエマを見つめるシレイス。
「待て!!」
「踏み込みの鬼も腕がにぶってんじゃねえの?」
「はん?地獄見せたらああ!!」
今みたく、目の前に展開しているふざけた会話をしている時でさえ、ふとした瞬間、罪悪感が脳裏をかすめ、後ろめたさとなっていた。
それが…
こんな喜びは無い…
「あの足が治せるなんて…治してくれる人が現れるなんて、思いもしませんでした…ありがとう…あなたは罪の意識を軽くしてくれました…ありがとう…ございます」
とめどなく流れる涙…
ハージンは照れながら、
「こんな俺でも役に立てる…それってなんか…うれしいもんだな…」
にこやかに笑って見せた。
~続く~
