「待てって!!」

ハージンとバードの間に割って入るディエマ。

彼の追い払うようなジェスチャーで、ハージンが距離をとる。

 

「邪魔するな!!!そいつが妹を!!」

「何言ってるレナンならさっき…」

言いかけて気づくディエマ。

(いつから居なかった?)

 

立て続けにいろいろありすぎて、こんな大事なことに気づかないとは…

そうだ。レナンが嫌がる時さえあるほど、常にそばで見守っているバードの姿がなかった。

 

見慣れた光景。

当たり前すぎて気づけていなかった?

レナンも気づいてない?

 

いや、そんなはずは…

 

戦争孤児となり、生き別れたレナンに会えた日のバードは崩れるようにひざまずいた後、まだ幼く小さなレナンの身体を抱きしめ、

「お前が一人前になるまで、兄ちゃん絶対いなくなったりしねぇから…」

 

そう誓った兄は妹に変な虫がつかないよう、そばでずっと見守ってきたはずだ。

 

なのに、なぜ?

 

だが、そうだ。

かなり前から居なかった…

 

なぜ気づけなかった?

漂う違和感…

 

「いつから居なかった?」

 

確かめる様にシレイスを見るが、シレイスの目は、明らかに見返したのとは違っていた。

 

何を見ている?

その視線を追いかけたディエマ。

 

…………

絶句。

 

変わり果てた姿…

狂気じみた怒りの表情をうかべるバードの足元にあったそれは間違いなく…

 

「レ…ナン…」

 

さっきまで会話してた…

笑ってたじゃんか…

記憶を巡らすディエマ。


シレイスがうたた寝を始めたのをみて、立ち上がると、

「シャムゥ、追っかけなくてよかったの?」

 

覗き込むように尋ねるレナン。

答えられないディエマ。

 

「もう!!!」

軽くパンチする真似をするレナン。

 

「シャムゥにはあたしから言っとくから、ディエマも意地はらないでちゃんと話しするんだよ?ほんじゃ、おやすみ~」

 

意地の悪い笑顔で去っていったのではなかったか…

 

目の前の光景を否定するように首を振る。

 

どうせ、

いつもの、たちの悪い冗談…

 

「びっくりした?」

笑いながら起き上がるんだろ?

 

そう思いたかったが、焚火の淡い光の中で赤黒く染まる突っ伏した小さな身体から、生命の息吹を感じることはなかった…

 

「なにが…?」

頭の中で理解が追い付かない…

あまりのことに、力なく膝からくずおれるディエマをハージンが支える。

 

「あなたが…?」

必死で平静を装うシレイス。

 

射るような視線はバードに向けられている。

状況を正確に確認しようとしていた。

 

うつ伏せのレナンの出血は背中から。

その傷口は大きさからナイフと推測できた。

その凶器を所持したバードには、ナイフを引き抜いたときに浴びたと思われる返り血が付いている。

 

血の状態から見て、時間の経過は明らかだ。

ここまでの返り血が付くとは思えない。

 

ただ、どうやってこの場所に居るのかの説明がつかない。

暗闇にまぎれたとて、血が染みつくほどの時間とどまっていれば、気配に気付かないはずがない。

 

ましてや、動かなくなったレナンをかかえてここまで接近してきたバードに気付かなかったなどありえないことだった。

 

しかし、バードはそこにいて、状況は彼が刺したといっている。

疑いのまなざしを向けるシレイス。

だが、

 

「違う。俺じゃない!!こいつが俺の身体を操って!!」

 

慌てるバード。

ハージンを指さして叫ぶ。

 

「ディエマ!そいつは裏切り者でペテン師だ。信じてくれ!!」

 

言われるも、感情の死んだ表情のディエマ。

ずっと、レナンから目線を外せないでいる。

 

「シレイス!!お前なら信じて…」

「残念ですが、ハージンは私たちとずっと一緒でした。いつから居なかったのかわからないあなたを信用するには、あまりにも状況が悪すぎます」

 

「何言ってんだ!!ずっといたのは俺だって」

「!!!!?」

「ラリスと一緒にそいつを追いかけていくまで一緒だったじゃないか…」

 

固まる三人。

ラリス…だと?

いつの話だ?

 

フハハハハハ!!!

耐えきれぬ笑いを上げるはディエマ。

それまでの死んだ表情は消え失せ、怒りの激昂を帯び、立ち上がる。

 

「そんなアホな言い訳がとおると本気で思ってんのか!!!ラリスと一緒だっただ?フカしてんじゃねえぞクソガキ!!ってか、お前誰だよ?本物のバードはどこだ!!」

 

「は?バードだよ!!なんで信じてくれない!!俺はこいつに操られただけだ!!」

 

困惑し、静観するだけのハージンへの怒りもあらわに、踏み込もうとするバード。

制止するシレイスの手をよける様に身を乗り出すバード。

 

「この野郎、お前だけは許さねぇ!!!よくもこんな真似して平気な面してられるよな!!」

 

どうも様子がおかしい…

騙しているにしては本気が過ぎる。

見返すハージンに疑念が浮かぶ。

 

「バード…?」

ハージンと同じ疑念を持っているのか、シレイスの声に、疑いながらも確信が持てない気持ちが乗る。

 

しかし、あり得ないミス…

知らないはずがない。

 

「あなたは先ほど、ラリスと私がハージンを追いかけた…そう言いました…」

 

疑いを確信に変えるための間(ま)…

 

ミスを指摘された事に気づいてない様子のバードに決定的な事実を突きつける。

 

「あり得ないのです…」

「いや、だから…」

「ラリスは死んでいる。それも、私とハージンが会う前に…私とともにハージンを追いかけるなど不可能です」

 

「???????」

理解の範疇を超えたといった表情を浮かべるバード。

 

「おい、お前の負けだ。さっさと正体見せろ!!バードの訳がねぇ!!お前誰だよ!!」

 

せまるディエマに戸惑いの表情を浮かべるバード。

しかし、その顔は、ここまでハッキリとミスを指摘された者のそれではない。

 

「やめろよ…お前ら…」

あとずさる。

 

やめてくれぇ──────────っ!!!!!!

本気の声…

騙しているものの声、悪あがきなどでは決してない。

 

決定的な矛盾があるものの、バードは噓をついてない。

ハージンの心の中で確信に変わる。

一体、何が起こっている?

 

レナンを殺させたという俺の姿をした奴がいる?

いや、それではラリスとシレイスは?

シレイスは、ずっと、一緒にいたんだぞ?

 

「妹を殺させた上にその罪を俺に…だと?」

 

本気の憎しみのあふれだすような声。

 

「悪魔め!!!」

 

何が真実なのか…

事態は混迷を極めていく…

           ~続く~