夜のとばり、薪をくべつつ、向き合うのはハージンとディエマ。

 

「へへ、のんきに寝てるな」

 

奥の方で寝転がるシレイスを見ながら、言うのはディエマ。

 

「チクショウ…こんなことなら、魔人のまんまでいてくれた方が都合がよかったな」

 

面倒くさそうに火加減を調整するディエマの様子にハージンの笑みがこぼれた。

 

「仕方がないさ。降臨術は精神の消耗が激しいからな…」

 

言いつつ、

(なんでこんな知った風な感じなんだ)

違和感しかないハージン。

 

自分は何者なのだろうか?

そのことに意識を向けるようになってから、まるで自分では無いもう一人の自分が喋っているような気がするのだ。

 

「へぇ、コウリンジュツって言うんンだ?」

 

「あぁ、文字通り体に精霊の能力を降臨させる。霊力が一定の域に達してなければ使えない魔導士級の大技だ」

 

また何故か答えられてしまう自分がいる。

驚きもつかの間、ディエマの質問は続く。

 

「もう一回イフリートに化身できるかな?」

 

「わからんが、きっかけはつかめたはずだ」

 

「ジョーも言っていたが、化身できていたじゃ困る。戦士の門には未知の怪物がいるってラリスが言ってたからイフリートの能力が必要になる時もあるかもしれないしな」

 

「まあ、力の暴走に等しかったから、できるなら今少し魔力のコントロールが身につくまでは使わないに越したことは無いと思う」

 

「なぁ、なんでそんなに詳しいんだ?」

 

自分の中にある違和感を見透かしたようなディエマの質問に、隠し切れずに驚きの表情を浮かべるハージン。

 

「じ、自分でもわからん。なんで知ってるのかって聞かれてもな…」

「そっか、記憶喪失…だったよな?」

「あぁ…」

 

言われて、さっき浮かんだ考えがよぎる…

(もし、敵対している国の人間だったら…)

 

「ん?どうした?」

珍しく何もかもお見通しのような感じをだすディエマ。

直視するハージン。

 

「どうしたよ?」

うながされ、意を決するハージン。

「な、なぁ、俺がもし、敵対していた国の戦士だったらどうする?」

 

「は?」

「た、確かに記憶を失って、どこの誰ともわからなくなった奴の絵空事かもしれない…けど、もし、そうだったなら…」

 

「お~~~~い」

 

遮るディエマ。

驚くハージンに対し、待てとでも言うように手を伸ばし言った。

 

「敵だったとして?何言ってんだ?それがどうしたよ?」

思いがけない反応に、戸惑うハージン。

「こりゃ、傑作だ。なに?そんなこと気に病んでたんか?」

 

未だに理解してないハージン。

ディエマはさらに続ける。

 

「いいか、あんたは俺らを救った。アゼクを守った恩人だ。そんなあんたが、記憶をなくす前のことなんてどうでもいい!!それがどうした?あんたは俺たちを救った英雄!!その事実は変わらねぇ!!わかったか?」

一気にまくしたてるディエマ。

語気には怒気も含まれていた。

頷くしかないハージン。

 

「わかったら、二度とそんなくだらねぇことで悩むなよ」

 

いや、自分が何者だったかってのは、結構重要だと思う…

そう思いながらも、ディエマのやさしさに感謝するハージン。

 

「うるさいな~もう…」

声はシレイス。

 

「あ、わりぃ起こしちまった?」

謝るディエマ。

不機嫌そうな顔で体を起こすシレイス。

「まったく、あなたの声は無駄に大きくなる時があると何度言ったら…」

文句を言い終わらないうちに、言葉を切るシレイス。

 

場の雰囲気が凍り付くのを感じる三人。

 

何かが違う…

 

三人が見つめる先には例の土煙の柱がある。

その土煙の一部分が光り始めると、光の筋とでも言うようなものが地上を照らした。

 

グビュ?

 

ディエマのノドが鳴った。

思わず生唾をのむような戦慄の光景だった…

 

何もなかった…

ただただ闇の空間であったはずだ。

 

そこに光が伸びた瞬間、影が形作られ、何もなかった空間に、手を血だらけにしたバードが立っていた。

 

空間に出現した…

そうとしか表現しようのない光景だ。

 

「バード…おまえその手…」

 

血だらけの手を見つめるバード。

ディエマの呼びかけに、視線を向けるが、その目の焦点はどこか虚ろに感じた。

 

「お、おい!どうしたんだよ?」

 

恐れを振り払うように声に力を込めるディエマ。

あきらかに様子のおかしいバード。

様子をうかがう…

 

クククク…

 

笑っている!!

バードだ。

 

嫌な予感しかしない…

三人とも黙っているしかなかった。

 

「そこにいたか…」

 

キリキリ歯噛みするような奇怪な声…

そこに妹を気遣っていた時のような優しさは感じられなかった…

 

ウラギリモノ…

 

声なき声…

刃の煌めきと共に、込められた怨念のような波動が駆け抜ける。

 

─────!!!!

 

うすら寒さすら感じる暇がないほどの電光石火の動き。

寸でのところでかわすはハージン。

そう、バードの握った血だらけのナイフはハージンに向けられたものだった。

 

ウラギリモノ?

どういうことだ。

 

「妹を!!レナンを返せ!!!」

 

            ~続く~